第12話 凛と立つ2
「源氏物語のお話ですか? 部長ご存知なんですか?」
文学の話になって、才女女郎花クンの瞳がやっと輝く。
「五月雨を 集めてはやし 女郎花」
やはり単なるデブのバカハゲである。
呆れ果てたスーパー才女、ハゲ部長がトイレ離席の際に、ため息を大きくひとつつきながら、ふっと囁いた。
「くそ、デブのハゲじい、太いのぶりやがれ」
ハゲじいが個室で太いのをたっぷりとぶりっているとき、女郎花クン、隣の席で静かに読書を楽しむ、知性が高そうなヤツにチラリと目線を送ってきた。
ヤツは無視している。使い込んだ広辞苑に目を落としたまま。テーブルの上のレバニラ揚げに、マヨで鋭く九字を切りながら降り注ぐ。もちろん漆黒のTバックの中で人肌に温まったマイマヨである。
まるでヤツの知性を試すように、女郎花クンさり気なく一言呟く。
「源氏物語巻28野分。咲き乱る 風のけしきに 女郎花 しをれしぬべき 心地こそすれ」
ヤツは目さえ合わさす、人肌に温いマヨをちゅーちゅー吸い上げながら、糖尿のように甘い声で囁く。
「下露に なびかましかば 女郎花 荒き風には しをれざらまし」
絶望の暗闇の中で希望の光を見出したのであろうか、ヤツを見つめる女郎花クンの頬に、明らかに微笑みが浮かんだ。すかさず才女また一首詠む。
「巻52蜻蛉。女郎花 乱るる野辺に 混じるとも 露のあだ名を 我にかけめや」
ミニスカからさり気なく見せた股間を、わずかに膨らませながらヤツが応える。
「花といへば 名こそあだなれ 女郎花 なべての露に 乱れやはする」
古の昔より『知性は男女を結ぶもの』といわれている・・・・・
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
空気が白く凍える翌朝。昨夜卑しいハゲと才女が愚かな時を過ごした、あのホテルの横道に人影が静かに横たわっていた。
あのバカハゲである。
しかも見苦しいまっぱのままで・・・・・
鼻の穴に高級ストローをぶち込まれ、さらに、ぶり跡が残るExitには、季節はずれの女郎花をひと枝見事に屹立させたまま・・・・・
凍える寒さを哀れむためか、バカハゲの背中に広げられた白いハンカチに、万葉集の1首が見事な筆文字で書き綴られていた。
『秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花』
ヤツと才女があの後どうなったかは誰も知らない。
ただお尻に屹立した女郎花のみが、舞う風花の中で、凛と立ちつくしていた・・・・・
伝説は続く・・・・・
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