第11話 凛と立つ1
淡い琥珀色のグラスの中でまるい氷が踊る。唇の右端に軽くくわえた細身のメンソール煙草に、カチンと洒落た音を響かしてデュポンがやさしく火を点した。
天井を見ているわけではない。その先の星空を想いながら、冷たいシャンデリアにため息をのせて紫煙を送る。大きな窓ガラスに映える黄金の夜景に、軽くグラスをかかげた。
ここは都内某ホテル、ビルの最上階にあるバーである。顔は強面であるがピュアである。マルガリータに稲妻ラインの清楚な乙女が、高級そうなソファに腰を下ろしている。
漆黒のワンピが豪華なシャンデリアの明かりに星座のように煌めく。間違いなく下着のブラとTバックも、同じ漆黒のシルクである。
ただひとり静かに酒を楽しむ、クールに読書をしながら・・・・・
ヤツの好きな本?それは言えないが、内閣調査室のマル秘資料によると「広辞苑」と記されているようだ。
ヤツがすっと左手を挙げた。右手でさりげなく左脇の下を隠ししながら。
鏡のように磨き上げた大理石の床に、靴音を響かせて近づく黒服に、糖尿のように甘い声が囁く。
「Je souhaite passer une commande」
「何にいたしましょうか?」
「Reba Nira frite ヨロピクピグ」
「承知しました」
2mきっちり離した隣のテーブルには男女のカップル、女性はなかなかの美形であるが、男の方はTOKYO X並みのデブではあるが、頭頂部もカッパりと禿げている。
錦蛇のように怪しく光るスーツ、エナメルのシークレットシューズはそれなりに高そうだが、アソコはめっきり小さなそうである。
「部長、遅くなるとまた奥様が心配されます。お早めにお帰りになったほうがよろしいのでは・・・・・」
「女郎花クン、そんなこと気にしなくて大丈夫だよ。君をたっぷりといただいてから帰るとしよう」
ハゲじいの下卑た一言に、ヤツの股間がピクリと蠢き小さく囁く。
「ハゲじい。ストロー鼻にぶちこむ」
ハゲ部長、股間に秘めためっきり小さなものをピクつかせながら絶好調である。
「立てば芍薬、座れば牡丹、食べたい君は女郎花」
ハゲ部長のあまりの品のなさに、女郎花クンもあきれ顔。仕事のためとはいえこんなハゲじいに、なぜ付き合わなければならないのか。
女郎花クンはハゲじいの部下で秘書担当である。容姿が美しいだけでなく、イラストを書き小説やエッセイも書き、俳句短歌さえ詠むスーパー才女である。
「女郎花ってのはね、昔の文学書にもね、何か書いてあったよな」
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