第10話 真夏の夜の夢2

 『Tバックのテロリスト』、『浣腸ボンバーの悪魔』、闇世界で恐れられるヤツがベッドの中で乙女のように震えている。


 トイレに行きたいわけではない。あのテレビの髪の長い女性が、ずるずる来るのが怖いのだ。


 全て闇色に染まる部屋の中、何かが蠢いている、這うような悲しい音を響かせて、闇の塊が床を這ってくる。ヤツに向かって・・・・・


 「ずるずる、ずるずる」


 「んもぅ許して ざぃます!」


 ベッドの中で右手にワルサー、そして左手にはマヨネーズボトルを握り締める。


 恐怖が迫る。ヤツは迷わずマヨネーズボトルの蓋を噛みちぎり吸った。今までも必ずや そうしてきたのだ。数々の修羅場の中で・・・・・


 マヨが体内を駆け巡る。乙女の全身が、脳ミソが活性化する。筋肉が盛り上がる。小さなお友だちさえ熱く小さくそそり立つ。


 既にワルサーの安全装置ははずしてある。闇の塊がベッドの2mほどの距離に迫っている。マヨに妖しく光る唇がラストアンサーを発した。


 「殺しゅ!」


 ピタリと止まった、闇の塊が。闇が震える。襲いかかる寸前の動きようだ。


 繊細でしなやかな指がトリガーを絞る。マヨの魔力か?ほとんど恐怖心はない。


 ベビードールの裾をセクシーに翻して、羽毛のように床に立つ。トリガーは絞ったまま。


 闇に慣れた瞳が蠢く黒い塊を捉えた。黒い塊ではない。毛足の長い布地のようである。


 音もなく歩き、蠢く布地の隅を摘まむ。右手にビワルサー。マヨボトルは口にくわえ左手でそっと布地を捲った。


 震えている、プルプルと。半分寝ぼけ、そしてシッコをチビりながら・・・・・


 「キャゥーキャワワン!」


 ヤツの根城を守る魔犬タイガ(大河)である。怖い夢を見ているのか、大きい方もExitからちょっぴり顔を出している。


 「おおー タイガざぃます」


 口にくわえたマヨボトルを、白眼で寝ぼけるタイガの小さな口元に・・・・・


 「ジュルジュル」


 マヨを迷いもなく吸い上げ、甦った恐怖の魔犬タイガ。狂暴なバッタや悪魔の働き蟻を容赦なくいたぶり命をも奪う。


 闇の世界では『蟻殺しの恐怖』、『チビりの魔犬』、『ごるごの守護者』と呼ばれている伝説の魔獸、ひまわり色の悪魔のチワワ。タイガが甦った。


 一階の右角に、黒の毛足の長い毛布をくわえて引きずる。タイガの寝床である。


 微笑みで見送るごるご。


 鼻腔を刺激する、床に残る小さな水溜まりと、ほっこりと香るまだ生まれたての茶色のカブトムシのみが、その夜の恐怖を物語っていた・・・・・


 伝説は続く・・・・・

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