第9話 真夏の夜の夢1

 品川埠頭の倉庫街。倉庫のひとつに明かりが点っている。淡いピンクの照明が、室内空間を妖しく照らしている。


 ピンクのベビードールの人影が見える。短目の裾からは、漆黒の鋭い食い込みTバック。刈り揃えた芝生のような丸刈り頭。


 そうヤツである。


 マッチョであるがピュアである

 強面であるがスウィートである

 ファショナブルでミステリアス

 男泣かせのプリティドール

 丸刈り頭のセクシーレディ


 こ、怖い。まるでウンチを見つけた狂暴な犬のように、ヤツの瞳が異様に輝いている。


 握りしめた両の拳が震えている。いや身体全体が震えている。股間の小さなお友だちさえも見事に屹立し震えている。


 「こ、怖いでしゅ」


 ヤツの熱い目線の先には、夏の定番ホラー番組が流れていた。


 何者も恐れぬ闇世界の伝説の存在。丸刈りの悪魔。フランスなまりの黒ブラ淑女。


 そのごるごがビビっている。


 テレビでは、井戸の底から黒髪の女性が這い上がってくる。そして地面を這いながら進んでくる。ヤツに向かって・・・・・


 震える声で叫ぶ。


 「Pardon ざいます」


 まるで、テレビの画面から這い出るような恐怖が迫る。思わず叫ぶ。


 「許して、 ざいます」


 ベッドの下に手を滑らせ、愛用のワルサーを握るや否やトリガーをしぼる。


 液晶テレビが見事に破壊され、そして恐怖は一応収まった、かにみえた・・・・・


 ごるごの自宅、品川埠頭の倉庫街にある

鉄筋の2階建て倉庫。1階には窓がない。職業柄であるが、敵の襲撃への備えである。


 特に間取りなど無い。だだっ広いワンフロアである。食事をとる応接セットとシャワーバス、そしてピンクのダブルベッド。


 2階もワンフロアで、明かり取りの小さな窓がひとつのみある。戦闘訓練スペースのため、ソファー2つであとは何もない。


 テレビは各階に1台設置、階をつなぐのはエレベーターである。


 1階の液晶テレビは、ヤツの銃撃で悲しく煙をあげている。恐怖は一応去った。


 そろそろベッドインの時間。渋い声で 甘く囁く。


 「Bonne nuit」


 ベッドにもぐり込んだ。照明は落とす。敵襲からの用心である。暗闇の中で、お鎌のように研ぎ澄ました神経を微睡む。


 通常なら気を失うまで、3秒あれば事足りるのに、しかし今夜はぶりのようだ。


 目が冴えている。なぜか精神が高ぶっている。空気が黒く重い。ベッドを取り巻く闇が蠢く。


 危険を報せる予感が囁く。


 『きっと来る来る きっと来る』

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