第8話 ゴルゴンゾーラ

 ウィスキーにブランデー、ウォッカ、焼酎、ビール、日本酒、ヤツはなんでもイケる。そしていくら飲んでも酔うことなどまったく無い。


 酔うのは、意味もなくグルグル回る遊園地のコーヒーカップに乗ったときのみである。


 かってヤツを何とか酔い潰そうと、パンツが穢れた職場の上司が、企み様々な酒をしこたま飲ませた事件があった。


 開店の18時から飲み始め、時計は24時を刻んでいたが、ヤツは相変わらずテーブルで静かにグラスを傾けていたという。


 暴挙を企んだ上司は、翌日、女性専用の目に滲みる個室で人知れず発見された。漏らした香る茶色のカブトムシと小さなお友だちを見せびらかしたままに・・・・・


 ヤツには手を出すな。手を出して無事に済んだ者などいない。ある者はカブトムシに埋もれ人生の幕を閉じ、またある者は浣腸ボンバーで明日を失った。


 薄暗いバーでただ静かに小指を立てグラスを傾ける。


 スダレ髪のマスターが声をかける。


 「何かお出ししますか?」


 フランス訛りが抜けないヤツは、糖尿のように甘く囁く。


 「ゴルゴンゾーラを、S'il vous plaît よろぴくざぃます」


 ゴトリとテーブルに置かれたチーズ。薄暗い室内照明の中で、黒のTバックの膨らみからさりげなくマイマヨを取り出した。


 人肌に温まったマヨボトルが一瞬煌めきチーズを飾り立てる。


 ツマミはチーズ、ワインで楽しむ者が多い。しかしヤツはバーボンで楽しむ。


 ヤツの友人のひとりアイザック.ウォルフバーンハイムが作ったIWハーパーをストレートで喉に流し込む。


 ハーパーで喉が焼ける。胃が燃える。大胸筋がピクつき、Exitがキュッと締まる。


 チーズは強めの塩味でめっきり臭い青カビのブルーチーズ、ゴルゴンゾーラである。


 初めて自宅にゴルゴンを持ち帰ったとき、ゴルゴンの臭さに、魔犬タイガがシッコをチビりながらぷるぷる震えていたという。


 ごるごは ただ黙って飲む。たったひとりで燃えるハーパーを。


 店には大勢の客がいるがヤツには見えない。騒がしい話し声も聞こえない。スダレのマスターさえ既に視界にない。


 いま何を考え何を求めているのか。無人 無音の闇だけがヤツを理解していた・・・・・


 静かにひとり楽しむごるご。右手にグラスを左手に人肌のマヨボトルを強く握り締め、微笑む口元にはゴルゴンゾーラをくわえていた。


 乱れたミニスカからチラリとのぞく、勝負下着の黒のTバックから、ちょつこりと顔を出したゴルゴンゾーラ、いや『ごるごのゾウさん』


 もぉごるごったら、ただ寝ていただけなのね・・・・・


 伝説は続く・・・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る