第6話 神の席2
しっとりとお尻を包む懐かしい温かさに、デブじい大声をあげて慌ててお尻を上げる。
「な、なんだぁ こりゃぁ」
頭頂部に事前に仕掛けられていたタイガのカブトムシ爆弾が、デブじいの顔面を香り高く攻撃する。声をあげて開いた口にカブトムシが容赦なく飛び込んでいく。
子どもの頃、カレーと間違えて思わず食してしまったあの懐かしい思い出が、走馬燈のように通り過ぎて行く。
遠のいていく意識の中、微笑みを浮かべながらシートから倒れ落ちるデブじいの耳元に、フランス訛りの甘い声が囁く。
「そぉなっちゃうんだよ」
ひとつのミッションをいとも簡単に終えたヤツに、新たなターゲットが視界から溢れでた。
『トド子 ロックオン』
ワルツを踊るシンデレラのように優雅に動き、偶然空いていたトド子の後部座席にスッと滑り込む。
小腹が空いたときに食する活きがいい鈴虫数匹を、スカートのポケットからそっと取り出す。
トド子の大樹のような首筋と柔道着のようなシャツの襟元から、モンゴルの大草原のような広大な背中に、まるで我が子の旅立ち祈るように鈴虫たちを放逐した。
「先ずは第一陣、よろぴくね・・・・・」
闇の世界では悪魔の技と畏れられ、知らぬ者など誰一人いない、泣く子も漏らす恐怖の必殺技、その技はこのように伝えられている。
『鈴虫のしらべにのせて』
この技を仕掛けられて狂わなかったものは、鈴虫さえも容赦なくいたぶり食べる魔犬タイガのみである。
「ワキャッ、ワキャキャ」
波打ち際で周りを威嚇する巨獣トドのようにトド子が悶える。ヤツはすかさず黒Tの後ろの食い込みから冬物の分厚い靴下を取り出した。
1週間履きこんだ魔臭の靴下、さらに熟成毒ガスをたっぷりとかましておいた。鼻の効く犬なら一瞬で命さえ奪う、闇の必殺技を愛を込めてトド子に贈ろう。
『悪夢は、かほりとともに』
かほる靴下を繊細な指先でそっと摘まみ、後ろからトド子の鼻と口をやさしく塞いだ。
突き刺さる激臭に思わず立ち上がり乳を震わせながら硬直する。恐るべし必殺技、一瞬にしてクサ闇に落ちるトド子。
通路に雪崩れ落ち無防備となったアフリカゾウのような尻に、ヤツの必殺技悪魔の一撃が走る。
「浣腸ボンバー」
組み合わせた両手の人差し指から茶色のほのかなクサ臭が立ち上っていた。
鼻腔から流入し脳さえ腐らす悪魔のかほりと、浣腸の快感に思わずブリるトド子。フランス訛りの悪魔の甘い囁きが、遠退く意識のなかで微かに聞こえた。
「そぉなっちゃうんだよ」
聴け、賤しき者たちよ、神聖なる『神の席』はけっして汚してはならない。汚した者は必ずや神の逆鱗に触れるのだ。
あなたが、万が一誤って『神の席』を汚すことがあれば、あなたも必ずや「そぉなっちゃう」かもしれない・・・・・
伝説は続く・・・・・
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