第5話 神の席1

 身の丈180超で顔は怖い。髪型はマルガリータに稲妻ライン。マッチョでピュア、強面だけどスウィート、ファショナブルでミステリアス。


 言わずとしれたTバックの悪魔。男泣かせのセクシーレディ。そうヤツである。


 バスは嫌いだ。ヤツにとってバスのシートはそもそも狭過ぎる。内閣調査室の極秘資料によると、バスの乗客の基準サイズは太古の昔より身長160㎝で体重65㎏と定められている。


 一昔前ならわかるが、今は体格も変化し、小学生でも渡辺直美さま並みの子も少なくない。


 さらにシート間の間隔が狭い。身長160㎝でギリギリ、170㎝あれば膝頭が前シートにぶつかる。180を超えれば足を胸にぐっと引き寄せ、丸まってシート間に挟まれる。まさしくヨガ修行である。


 しかし狭いシートの中にも唯一神が認める『神の席』がある。バスの中程、後部座席の先頭の右左席や最後部の真ん中である。


 後部座席の配置は5列と4列があり、4列の場合は後ろから2列目の席も『神の席』と認定される。


 これらの『神の席』は180㎝以上いや最低でも175㎝以上の貧しき者のみが利用を許されている。


 しかし最近は大半のバカな大人でさえ知っている、この普遍的常識を守れない輩がいる。


 例えば今朝のバス。150cmくらいの賎しいげなデブじいが『神の席』を占領していた。また他の『神の席』もトド並みの女性が不法占拠していた。


 この神をも恐れぬ暴挙に、灼けるような怒りがヤツの下半身を襲っていた。Tバックにさり気なく身を潜めた、お友だちが熱く燃えたぎる。


 熱中症対策として今朝ほどTバックの中に忍ばしておいたキンキンに冷したコーラゼロさえホットコークへと変わる。


 シースルーの白ブラウスに黒ブラが切なく透けて見える。お友だちが怒りに熱く屹立し、さりげなくヤツが動いた・・・・・


 真紅のミニスカの裾からは黒Tの食い込みが眩しく輝いている。真っ赤なピンヒールがマッチョな身体に妖しいほど似合っている。


 目立たないシックな服装であるため、ヤツの動きは他の乗客の目には入りはしない。素早くデブじいの後ろに移動した。


 忘れてはいけない。ヤツが闇の世界で君臨する凄腕の殺し屋と呼ばれていることを。当然ではあるが様々な武器を常に携帯している。


 ヴィトンのバックをそっと開けた。クマちゃん弁当箱に茶色の物質が小さくとぐろを巻いている。あの魔犬タイガが排出する最強で最臭のカブトムシ爆弾。


 ヴィトンのスプーンで弁当箱から取りだし、デブじいの頭頂部にさりげなく置き忘れる。


 続いてバックからヴィトンのドリンクポットを取り出す。魔犬タイガのチビリ黄金魔水である。


 デブじいが臭い尻で汚している神の席のシートに後ろ横からそっと魔水を流し込む。シートの温かい濡れがじんわり優しくデブじいの汚れたお尻を襲う。

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