第3話 秘技稲妻押し
髪型は鋭く稲妻ラインを刻んだマルガリータ、服装は処女雪のように純白なノースリーブのミニスカワンピ。足元は同じく処女雪のピンヒール。
顔はことさら怖いし身体は筋肉でマッチョりしている。そして常に寡黙にしてファショナブルでミステリアスである。
勝負下着は漆黒のシルクのブラジャーとTバック。ヤツの微笑みは魔犬大河以外知るものはない。
内閣調査室に秘蔵される資料を垣間見ると、ヤツは通勤ではJRのほか、バスも利用していると記されている。
朝バスではシルバーシートを指定席として常用しているが、常連客の誰もが不満さえ言わない。
純白のワンピから出る手足の暴力的な筋肉に恐怖感を覚え、不満どころか目線すら合わせようとした者はバスの運行史上記録にさえない。
平日の通勤帰りのいつものバスの中、ヤツが殺気をはらんでいるのは常である。ヤツが降車する停留所では停止ボタンを瞬時・迅速に押すのがヤツの宿命なのだ。
古よりバスの常連客には伝説として代々語り継がれているのが秘技『稲妻押し』である。その技を使えるのは、神代の昔から唯一無二、ただごるごのみである。
今日もまた帰宅客を満員に乗せて通勤バスは夜の街を走る。ヤツが降車するいつもの停留所が近づくとヤツの筋肉がマッチョり始動を始める。出るのか、見れるのか、あの伝説の秘技。
車内に停留所のアナウンスが流れる0.001秒後にヤツの繊細な指先は稲妻の軌跡を描き、停止ボタンを鋭く叩く『稲妻押し』
ヤツの耳がピクつく。上腕筋が波打つ。繊細な指先は痙攣する。股間にさえ緊張が走り、さり気なくマッコリと膨らむ。
『ピンポーン』
降車停留所のアナウンスが流れる前に誰かがボタンを押した。命知らずが・・・・
ヤツの怒りがほとばしる。獲物を失った繊細な指先は震え、黒の勝負ブラの下で大胸筋が痙攣する。
まるで若い女性のスカートの中をのぞくような鋭い眼光で犯人を探す。
いた、アイツだっ・・・・・
ヤツの二つ前のダブルシートにだらしなく座る、デブでヨッパのハゲじい。なんと卑劣にも降車アナウンスの流れる前に、決してしてはならない反則押し。
まだウンコのついた太短い指が、停止ボタンにベットリ貼り付いていた。こんな卑怯な違法行為は法治国家日本の恥であり、正義感の強いヤツが許すはずなどない。
ヤツの口許から糖尿のように甘く、囁くような怒りの一言がほとばしった。
『先に押した奴は、必ず殺しゅ』
バスはスピードを落とし停留所に停車し、ハゲじいが罪の意識も無いまま降車する。ターゲットをロックオンしたヤツのピンヒールが後を追う。
朝を迎えぬ夜などない。闇を切り裂いて静寂に登る朝陽に照らされたバス停に、1つの人影がひっそりと横たわっていた。
法治国家日本の掟を破った異邦者、あのヨッパのハゲじいである。
臭いお尻に鋭い浣腸攻撃の跡を美しく残したまま、静かに息絶えていた。
伝説は続く・・・・・
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