第6話 ズルズルのケツ

 尻子玉を抜かれた小太り男とミホは、がくりと膝をつくと前のめりに倒れる。


 ドサリ。


 膝立ちのままケツを上げ、上体はうつ伏せとなった。


「ミ、ミホ!」

 コウジが倒れたミホに駆け寄る。


 なぜかその仕草がコントのようで、必死に笑いをこらえた。


「オマエ、何をした!?」

 コウジは睨むような視線を向けてくる。


 さすがに公共の場で尻子玉を抜いたとは言えない。


「安心しろ。気絶しただけだ」


 方法はごまかし、状態だけを説明する。


 どうせ、こいつらに俺の「抜き」は見えない。


「だからってなんで、ミホまで」

 コウジはミホを仰向けにして上体を起こす。


 確かに。


 言われてみると、俺は人質に取られていたミホを救うために動いたと見えるだろう。


 ミホまで気絶させる必要はない。


 仕方なく俺は言い訳を考える。


「溺れる者は藁をも掴む、と言うだろう?」

 俺はカパカパとくちばしを動かす。


「は? だから何だってんだ?」

「救う相手を危険にさらさないためには、こうした方が安全ということだ」


 コウジは怪訝な視線を向けてくる。


 正直なところ俺も良く理解できない。

 が、言ってしまった以上、ウソはつき通すべきだろう。


 もっとも、これ以上の説明はできそうにないので話題を変える。


「それより、そいつがストーカーという話だったが?」

 ケツを上げたまま、うつ伏せになっている小太り男を顎で指した。


「あ、ああ……多分な」


 なおも怪訝な目で俺を見るが、隣にいた河童に目を向けると少しだけうなだれた。


「ミホがストーカーにつきまとわれてるらしいって、言ってたんだ」

 コウジはポツポツと話し始める。


「だからオレ、心配になって、いつもそばにいることにしたんだ……たぶんミホは神経質になってたんだと思う」

 身体を河童の方に向けると、コウジは頭を下げた。


「すまん。さっきのはミホの勘違いだったかもしれない。痴漢かもしれないって、疑って悪かった」

「いえ、そんな」


 河童は顔の前で手をふる。


 手のぬめりがぴちゃぴちゃと飛ぶ。


 俺も考えを改めた方がいいだろう。


 派手な見た目をしているものの、ミホはミホなりに怯えていた。

 そんなミホを心配して、コウジは守ろうとしていた。


 所詮輩だと、見た目で判断した俺は、やはり未熟だ。

 河童というだけで馬鹿にしてきた奴らと変わらない。


 だが、この小太り男は別だ。


 ミホは単に見た目がキモいということで河童を避けたのだろうが、小太り男の方には憎しみが見えた。


 それに気になることもある。


 この小太り男のケツは緩かった。


 ユルユルを通り越して、ズルズルだった。


 おそらく過去に何度も尻子玉を抜かれたことがあるのだろう。

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