第5話 お前はもう抜かれている
整理しよう。
小太り男はミホのストーカーで、この機にミホに危害を加えようとしていた……らしい。
しかし、リアル河童が近づいて来たので、二人して罵倒した……らしい。
監禁など特殊な状況下にある被害者と加害者が共感を抱くことがあるという。
俗に言うストックホルム症候群というやつだ。
俺はその急性症状を目にしているのかもしれない。
ミホと小太り男は被害者と拘束者のはずが、今はなぜか抱き合う恋人にも見える。
もちろん本当の恋人は、河童の横で口をあんぐり開けているコウジなのだが。
いずれにしても二人は心底、河童が嫌いということだろう。
俺の中にふつふつと湧き上がってくる思いがあった。
俺の、いや河童の尊厳を傷つける者は誰であろうと許さない。
遠い過去に誓った信念が燃え上がる。
だが、相手は一般人だ。
ちょっとした仕置程度に留めるべきだろう。
心は燃えるように熱くとも、頭だけは冷静に。
そう唱えて、身をかがめる。
「おい! 後ろのデカ河童も動くなよ! お前らなんて怖くないんだからな! 屁の河童だからな!」
小太り男がこちらにナイフを向けて叫んだ。
「クズが!」
カパ。
くちばしが合わさり、音を立てるのと同時に俺は一瞬で小太り男の背後に回り込む。
小太り男のケツに手をかざす。
ついでだ。
そう思って、河童を罵ったミホのケツにも手をかざす。
スッ。
音もなく両手を突っ込み、引く。
左右の手のひらにはそれぞれ、煙のように揺らめく白い、しかし確実に濁った球体が乗っていた。
なんと醜い尻子玉か。
俺は両手を払う。
煙のような二つの尻子玉は霧散した。
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