第3話 スタイリッシュ河童

「いかにも河童だが?」

 俺はくちばしをカパカパさせながら言った。


 金髪男は俺の高身長に驚いたのだろう。

 こうして驚かれるのにも慣れた。


 河童という言葉は「かわ、わっぱ」、つまり河と童が合成されたものだと言われている。

 未だに子供の姿をしていると思われるが、そんなことはない。


 日本人の平均身長だって伸びている。


 高カロリーなジャンクフードばかり食べていれば、背も高くなるというものだ。


 もっとも俺の身長は、そうした説明では納得できない高さではある。


 なにしろ190センチを超えているのだから。


 ちなみに最近は、早い段階で甲羅を摘出し、以来一度も背負っていないのが原因とも言われている。

 実際、甲羅摘出は早めに行うというのが河童界の主流だ。


 俺の仲間も皆、背が高い。


 そして水かき除去も行っている。


 この国では箸を持つのが習わしだ。

 水かきがあると箸が持てない。


 社会に溶け込むためには必要な処置と言える。


 俺たちは都会で生き、すっかり垢抜けた河童だ。

 スーツも無難に着こなすスタイリッシュ河童だ。


 翻ってみると金髪男が後ろ手にしている河童は小さく、とてもリアルだった。


 里から出てきて日が浅いため、古風なイメージをその身に残していると言っていい。


 背丈はさすがに子供と呼べるほどの低さではない。

 しかし、身長の低さがなめられる原因なのだろう。


「いい加減、その手を離したらどうだ」

 俺は自らを大きく見せるように胸を張り、カパカパと言う。


「な、なんでだよ?」

 明らかに、先程までの威勢が消えた。


 これだから輩は。

 いや、尻子玉ヴァージンと言うべきか。


 ホームではアナウンスが鳴り止み、電車が動き出していく。


 遅刻の連絡を入れておかなければ。


 ふうと小さくため息をつくと、俺はくちばしを開く。


「いいか? 尻子玉はそう簡単に――」

 俺がカパカパ言うと、後ろでササッと動く気配がした。


「きゃっ!」


 振り向くと、先程まで恐怖に怯えていた派手女の背後に、知らない男が立っていた。


 派手女の首に手を回し、もう片方の手にはナイフ。


「お、お前ら動くな!」


 派手女を人質にとった小太りの男は声を張り上げる。


 ホームには次の電車を待つ客が集まり、列を作り始めていた。

 だが小太り男の声をきっかけに、じりじりと退き、輪のようになる。


 まるで刑事ドラマのような展開だった。


 これは、一体どういうことだ。


 俺はぬめった手のひらで頭の皿をピシャッと叩く。

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