第2話 尻子玉ヴァージン

「そっ、そんな! 誤解です!」

 河童が悲鳴のような情けない声を上げ、同時にカパカパと黄色いくちばしを鳴らす音が聞こえる。


「ウソつけ! じゃあなんでオレの女が怖がってんだよ!」


 河童の手首を掴んでいるのは金髪の若い男だった。


 輩とは恐ろしいものだ。

 いや、無知を嘆くべきか。


 こんな狭い場所で尻子玉を抜けるわけがない。


 ましてや、あの言いぐさ。

 尻子玉を抜かれたことがないのだろう。


 これだから尻子玉ヴァージンは。


「本当です。信じてください」

 カパカパ。


 河童は弁明を続ける。


「うっせえ! 黙れ、エロガッパ!」


 金髪男は怒鳴るだけ。

 その横には恐怖の表情を浮かべ、口に手を当てる派手な格好の女。


 真実はどこにあるのだろうか。


 河童はまるで痴漢冤罪の被害者のような有様だ。


 電車が減速を始め、ぐっと体が傾く。


「とりあえず、次の駅で降りろ!」

 金髪男は河童の手首を持ったまま言った。


「そんな!」

 カパカパ。


 河童は落胆の声を上げる。


 仕方ない。


 どうやら俺も途中下車ということになりそうだった。


 ドアが開き、人の流れが生まれる。

 俺はその流れに乗って外に出ると、すぐに隣のドアまで移動した。


 そこには思った通り、金髪男が河童を後ろ手にして怒鳴っている姿があった。

 河童は残った手で後生大事に甲羅を抱えている。


 周囲の人々は何があったのかと遠巻きに見ているが、すぐに目を離して電車に乗り込んでいく。


 軽蔑と無関心。

 そんな空気が漂っていた。


「その辺にしろ」

 カパカパ。


 俺は金髪男に声をかけた。


「うおっ! また河童!? しかもデケェ!」


 金髪男は俺を見上げ、驚愕の表情を浮かべた。

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