ミシェル夜 ,帝王 /2

───まるで坊さんみたいに手のひらを合わせた、そんな潰し方だった。


 そしてあたいは見ちまった、魔法みたいなあの光を。

 魔法陣や詠唱陣を必要としない魔法なら、反則としか思えないね。


「そんなのが、ありなのかい……」


 その眼から放たれたのは金色のフラッシュ。眩しいっていうより、気味が悪い感じだね。

 フラッシュを浴びたティアナは硬直、さっきのあたいも、アレをくらっちまったんだろうねぇ。

 守護者の体じゃなかったら、そこらじゅう骨折だったよ。


───ティアナが持っていた矛が、宙を舞って落下していく。

 

 あたいはどうすりゃいいか迷っちまった。拾うべきか、そのままにしておくべきか。

 ……うんにゃ、まぁいいや。

 巨人から離れた場所を飛びながら、門十郎のほうを眺めた。


───すると、巨人に向かって鉄の塊が飛んでいった。


 なんでそんなことが思いつくんだい、アンタ凄いよ。

 思わずお腹を抱えて笑っちまった。


「あっはっは! そうかいそうかい、それが大砲かい!」

 

 セージ・ナイトさんよぉ、あんた達も見てんだろ───? 


* * *


 ───潰されていない? 私は生きている?


 私の目の前には両手を突き合わせる魔人、ぬらりとこちらを向いた。

 顔を上げた瞬間、言葉を失った。

 見間違えるわけがない、この人は──。


───ミルフィ様が、私を抱きかかえていた。 


「なぜ……ミルフィ様が……本物なのですか?」

「クスッ、そんなに驚かないでほしいですのよ。ティアナ」

 

 ミルフィ様は私を抱きかかえたまま、詠唱した。


Unter  richtung方向に beschleunigung加速


 目の前に緑色の魔法陣が出現した──視界が、ラインと色になる。

 ──コートがひるがえる。風が、とても心地よかった。

 抱きかかえられていた状態から、私は草原へと降りたつ。

 穴の開いたラベンダー色のコート、手には矛がある。

 勇ましくも、魔人を見上げるミルフィ様に言った。


「なぜ……どうしてですか?」


 そんな私の心情を読み取ったのか、ミルフィ様は言った。


「まだ、諦めてはなりませんのよ?」

「ミルフィ様……」

「さぁ、いきますのよ? 彼も、頑張ってますのよ?」

「え? それは───」

 

 ──岩が砕けるような破砕音。

 魔人を見上げた時、私は呆気に取られてしまった。

 ──あの魔人に、何か柱のようなものが飛んできているのだ。

 魔人はのけぞる。


「アア──キーヨ。ミツケマシタ! スバラシイデハアリマセンカ! サア、ワタシトトモニイキマショウ! キーヨ!」

 

 なんですかあれは?

 あれだけ硬かった魔人の皮膚のが……砕けたのですか?

 二つ──三つ──次々と飛んでくる柱に、魔人は姿勢を崩した。

 私はそれが飛んでくる方向へと身体を向ける。


 そこには……モンジュウロウの姿があった───

 

* * *  

 

───よし、効いている。


 あの鎧を着た巨人に効いている。

 俺は弓を掲げ、ロジックを詠唱する。 


H型鋼材鉄骨を創造──延長を選定長さ=4メートル──発射砲台カタパルトの上部に設置──つがえ装填!」


 ガチャリッ──と機械音。ヴゥゥン──と電子音。

 肥大化した土色のサークルから、ゴトンと落下してくる鉄の塊。

 鉄骨とワイヤーで組んだ発射砲台に、圧倒的重量を持つ鋼材が設置された。

 ゴォン──とっ重量物が落下する音が鳴る。

 俺は次なるロジックを詠唱する───。


「力のベクトル向き斜線45度角度──キログラムフォース質量(kg)×重力(f)重力加速度9、8N/㎡は100倍を選定──力の始点加わる場所は鉄鋼の端部──射る発射!」


 ガチャリッ──と機械音。──ヴゥゥンと電子音。

 鉄の塊の端部に、土色のサークルが出現。 

 鉄骨は鈍い音を鳴らし、鎧の巨人めがけて発射された。

 重量物が矢のごとく大気を駆け、砕けるような破砕音と共に突き刺さる。


「どうだ鎧の巨人、重量物を発射するこの建築兵器の威力は!」


 俺は何か戦えないかと、援護出来ないかと思考した。

 そして思いついた、

〝大砲がないなら作ればいいのだと〟

 鉄骨とボルトで接合されたこのバリスタ(大型弩弓どゆみ)から発射される質量は、城の外壁をも破壊する力を持つ。

 映画で見たことあったが、やはりその破壊力は凄まじい。

 

「これが、ボウ・マンの必殺武器なんだよ!」


 ユマ、ティアナ……そしてミルフィ。

 援護は任せろ───俺はいま、燃えてんだ。

 それにしても、これが王とやらの最終形態か……ファラオ?

 いや違うな、包帯みたいな鎧を着やがって、この野郎。

 まるで、巨大なミイラみたいだ───。

 

 * * *


 その亜人の体には、数多もの鋼材が刺さっていた。

 破砕音と共に砕け散る鎧の皮膚。その巨大は、ミシェルの前方で膝をついた。

 地響きと共に鳴るノイズの音声。

 

「アア──コノチカラコソ──コノチカラコソ、シハイシャヲチマツリニアゲルチカラナノデスネ……アア──ナントスバラシイノデショウ。カミヲ──……カミヲーーーーー!!」


 バリリと破裂するような雷鳴のとどろき

 吹きすさぶ大雨──亜人は両手を頭上に振り上げる。

 まるで地をえぐり出すかのような衝撃、地鳴りが響いた。


 刹那──王を倒すべく、その軌跡は風を鳴らす。

 フィーニックスは天を燃やし、

 ミルフィとティアナは地を蹴り駆け、

 風宮はロジックを詠唱し───放つ。


 ごおん──と重い風が鳴り、その鉄の塊は、亜人の胸部を射抜く。

 甲羅状のひび割れ、砕け落下する岩のような皮膚。

 ──そして。

 首と胴の接合部の表面が剥がれ落ち、露出したのは、金色の結晶だった───。


 フィーニックスは詠唱する。

 

Fiamma火炎の kraft力よ köper体を kugel弾丸のごとく───

       vite螺旋 richtung方向に Drehung回転───」


 煉󠄁獄のごとく熱量をまとった不死鳥は、雨をも瞬時に蒸発させる。──銀髪の尾のが描くは、雲のような軌跡。

 両翼を広げ、飛行機雲のように火炎を散らす。

 刺さっていた鉄の塊はスライムのように溶け、皮膚の内側から亜人を溶かす。

 斑点模様に緋色が灯り、水蒸気が巨体全身を包むように立ち込めた──。


 *


───ノイズ雑音が乱れるような声

          

 コノ──ゼカ……イ──ジジッ──カミヨ──!!


           その断末魔は、反響した───


 *


 ヴォン──緑色の魔法陣が2つ出現。

 彼女達は陣をくぐり、速度を得る。そして彼女達は左右に散ると、その両手を駆け上るように、露出した胸部を目指した。



 ティアナはくノ一のように構えた短剣を、


 「Schwert剣は wind kegelデルタ


 「Schwert剣は wind kegelデルタ


 ミルフィは槍のように構えた矛を、



 振るう斬撃──水蒸気はうねる蛇のように裂ける。蛇行ながらも、まるで閃光のような速度で左右から一つの場所を目指す。

 外殻の破砕──白い欠片、その破片が散るように宙へと舞い、パラパラと落下していく。

 風宮は叫んだ。


「いけえぇ! そいつの結晶はすぐそこだ。王を倒せ、セージ・ナイト!」


  パキンッと、割れた音が鳴った。

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