エリア「 」,弓使い /1
───捻じれた視界が戻った。
「なんだこの空間……ワープでもしたのか?」
複雑に組まれた機械仕掛けの時計、その内部に入り込んだようだった。
周囲には歯車、ゼンマイ、ネジ、コイル……そして秒針。
全て光沢のない、金色だった。
カチッカチッ──と音が鳴り、それは時計周りに動いている。
「なんだここ……なぁユマは───」
そう言って横を向いた時だった。
ユマが仰向けに倒れ、両手で胸元の衣服をギュッと掴んでいる。
苦しんでいるその姿を見て、俺は気が動転した。
弓を投げ捨て、ユマを抱きかかえる。
「ユマ!! おいどうした!?」
───おーん
鐘を叩き鳴らすような音が、不気味にも鳴った。
……時計が鳴っているのか?
コツンッ、と床を蹴るような音がして、顔を上げた。
そこには、仮面を被った誰かが立っていた。
おーん、おーん───
***
───ゴーン、ゴーン
──ガチャンッ、ぷしゅうううーー。
境界線のない空間に反響する、鐘のような音色。
熱を有しない蒸気が、パイプオルガンのような筒から噴射している。
まるで、無数もの部品で組まれた機械仕掛けの世界。
ミシェルを構築した創造者、支配する王の
このエリアを支配する存在はこう呼ぶ。
〝エリア
金色の鉄仮面、黒ずくめのコート。
フォルボスは両手を広げ、ノイズの混じった声で言った。
「ようこそ、転移してきたキーよ。どうでしょう、このミシェルを楽しんでいますか? 私が創造したんですよ、ええ。素晴らしいでしょう!!」
「創造した? お前みたいな鉄仮面野郎が、この街を創造したのか? いや、正直意味がワカラン。だけど……パターン的に、ユマが苦しんでいるのはお前のせいか?」
「苦しんでいる? とんでもなぁい! 試験体Fは相反する2つのコアを持っているため、それを自ら解放しようとしているのです。混沌する結晶と純粋な結晶を二つ持つがためにね。
あぁ──なんて無垢な生物的反応なんでしょう。偶然とはいえ、成功してしまいました。そして私はその成功を得て、さらなる
「……二つの結晶?」
風宮は不快な目でフォルボスを見据える。
異常な思考を持つ存在であることを、理解した。
フォルボスは両手を真横に広げたまま、言葉を発した。
「創造を分解。
──ガチャンッ──歯車が稼働する。
──ヴゥウン、金色のサークルが出現。
「あぁ、あああああぁぁぁぁ───」
「ユマ!? ユマ!!」
ユマの身体から、2つの小さな結晶が放出された。
──1つは黒色、一つは赤色。
フォルボスは結晶を手のひらにのせ、それを眺めた。
まるで宝石を眺めるように、それを愛でる。
そして、ユマは人形のように沈黙した。
「素晴らしい、素晴らしい!! 見てくださいよこの輝きを! 無垢な灯りだと思いませんか? 今まさに、創造と自然、二つの〝存在〟がここにあるじゃありませんか。
これを使えば、また新たに試験体を増やし、また一つその領域を増やすことが出来ると思うと、あぁ──そして、
そうすれば、あぁ──想像しただけで──ええ! ええ!」
風宮は思考していた。
「新たな王……だが、俺はこの世界の仕組みをしらない。そもそも、この世界の原理を知らないやつが王になったところで、あんたの役に立つとは思えない。でもめっちゃ興味はあるんだよな~だから仕組みを知りたい」
「ええ──ええ──いいでしょう!! 教えてあげましょう!!」
風宮は沈黙したユマを抱えたまま、鉄仮面を見つめた。
目の前の存在に、何を答えるべきかと思考しながら。
フォルボスは言った。
「私は数多の転移者を殺し考え、そして考えて殺して殺して考えて考えたんですよ。そしてやっとみつけました。殻から取り出し、殻へと戻す
理想を創造する快楽を。これは私にしかない特殊な力、いわば
もともとこの世界にいた生き物を殺し、考え、殺し、考え、
転移してきた人間を殺し、考え、考え、殺し、
結晶を操る力を使い、考え、考え、考え、
そして辿り着いた──新たな世界を解放する
そして、
ああ──素晴らしい!! 素晴らしい!」
風宮はユマをそっと寝かせると、フォルボスに言った。
「それは素晴らしいですね。特別な力を持つあなたにしか創造出来なかった世界。それ、最高ですね。ということは、ミシェルの民、そのコアも全て有しているってことですよね?
それは……どれだけ美しいんでしょうか? 新しい楽園に連れていってあげれるんでしょうか?」
「あぁ──なんて素晴らしいんでしょう!! 見たいのですか? いいでしょう、いいでしょう!!」
フォルボスは両手を交差させた───
「創造を分解、
* * *
──ガチャンッ──ガチャン
───ぷしゅーーう。
機械仕掛けの
並んだ筒から蒸気が吹き
各部位のシリンダーが上下する
──
金のリングを描いた。
* * *
〝エリア
それは流星群のように飛び交い、数多もの命が集った。
赤、青、緑。
キラキラと輝くそれらにうっとりとするフォルボス。
風宮はゆっくりと立ち上がり、言った。
「例えばですけど、この場所でも俺は弓を持たなくてもロジックをつかえるんでしょうか? どうせなら、試しに一つ割ってみたいんですよ。さぞ儚くて、綺麗なんだろうな~って」
「ええ──ええ──!! いいでしょう!! もちろん使えますよ。キーであるあなたなら、その原理は会得していることでしょう。それではこれをどうぞ!」
フォルボスは手をはらうと、赤い結晶を風宮の前に差し出した。
───ユマの結晶だと、風宮は理解した。
ゴーン、ゴーン───
***
───おーん、おーん。
……またこの音か、耳障りでたまらない。
まったくワカランでもない。だいたい分かった。
理屈っぽい思考は得意だからな、建設的な話なら理解できる。
* * *
───なにが私が創造した世界だよ、イカれ科学者野郎が
こいつに力を与えた神まじ許さん
なんでこんな奴にそんな力を与えるんだよ
異世界だから? まぁ、俺にはワカラン
でも確かなことはある。
この結晶が命なら、ユマは生きてる
おおかた、守護者ってのも創造したんだろうな
じゃねぇと、変身なんか出来やしねぇ
……だからユマ、お前は一回死んでんだ。
蘇ってから、その黒色の結晶を埋め込まれたんだ
だから記憶がないんだろ
植え付けられた記憶がなんなのかは知らねぇ
そんなのは、このイカれ科学者しかわかんねぇだろ
ただ、めっちゃ気に入らん
こんなイカれた科学者が創造した世界が楽園だと?
こんなクソみたいな野郎が、王だと?
そんな道理も、動かない理屈も、全て曲げてやる。
* * *
〝俺はよ、スーパーヒーロ、ボウ・マンなんだよ!!〟
俺は前方に両手を突き出し、腕を交差させ、ぐるりと大きな円を描く。
詠唱する───。
「
──ガチャンッ──ヴゥゥン
ロジックが作動する。
同時に視界が回転し始め、俺は叫んだ。
「この世界の理屈よ、曲がれぇぇぇ!!」
歪む視界、崩壊する外壁の音、時計の音。
目の前の景色が遠のくと、世界が色だけになった───。
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