ミシェル,塔 /2
途方もなく長い階段だと思った、幅は広いけど。
空も薄暗くなり、もうすぐ夜になろうとしている。
塔から見下ろす町が小さい。
隣にいるユマは、人の姿になっている。
やっぱりカッコかわいい、でも階段を登るペースが遅い。
体力ないんだな、いつも飛んでいるんだろう。
俺はユマと会話をしながら、ゆっくりと階段を登っていく。
「そういえば、最初に出会ったとき、ユマは俺の懐から出て来たけど。あれはなんでだ?」
「それは門十郎が気絶していたときにさ、変異して懐に潜っていたんだよ。エリアⅡの守護者はあたいら革命軍に反応するからね。つまり、そゆこと。ちなみに門十郎がこっちに転移してきたあと、エリアⅡに運んだのもあたいさ」
「運んだ? 俺が目覚める前は、どこか違う場所にいたのか?」
「そうだね、ここから離れた場所にある地下さ。トルフォスって言うんだよ。あたいらの本拠地だね、暗い場所さ。転移してくる人間は、みんなそこに現れる。
最初から起きてるやつはあんまりいない。んで、わざとエリアに放り投げて、そいつが生きる力を持っているか確かめる。転移してくるやつはさ、得意そうな武器もって目覚めてくるんだけど、弓持ってたのは門十郎、あんたが初めてだよ」
よく喋るやつだと思った。
革命軍はもう辞めたと言っていたが……はい辞めま~すで辞めれるなら、ボスの威厳もあったもんじゃないな。心変わりが激しい。
そもそも革命軍は軍隊じゃなかったし。
と考えれば、やはりあの王女は油断ならない人物だ。
ユマは元の世界に戻れるなら、なんでもいいと言っていたが。
……そうか、これで俺も戻れるのか。
「門十郎はさ、もとの世界に帰れなかったらどうすんだい?」
「ん、どうしような」
「なんだい、考えてないのかい。もしかしてこっちの世界のほうが好きなのかい?」
「うーむ……」
よくよく考えてみれば、俺は就活をしなければならない。
働くのは嫌ではないが、以前ほど帰りたいと思う気持ちはない。
バンバン矢を射てるからか?
戦いは怖いが、ヒーロー気分になれるのは魅力的だと思っている。
それに、革命軍とは言うものの、聞けばあと1人だけ。
「平和な世界なら、こっちでもいいかもしれん」
「へぇ~、なんでだい? 誰か好きな子でも出来たのかい?」
「好きな子か……いないな」
「へぇ~。まぁ顔はいいと思うけど、その性格っじゃちょっと難しいかもなぁ~」
……ユマは腹を抱えて笑っている。
俺をけなしているようにしか思えん。
「それにしてもさ、なんで門十郎は弓と筒を背負ってんだい。邪魔じゃないの?」
「なんでって……今向かっている場所は、封印されている場所だろ? それって、ラスボスが出てくるパターンだろ」
「あっはっは! なんだいその考え方、映画の見すぎだよそりゃ。エルリエに聞いた話じゃ、そんなんじゃないよ」
──「どう、素敵でしょ?」、といった声が聞こえた気がした。
あの王女だぞ? まったく信用できん。
なぜなら、知っているのに言わないのは、罠の可能性が高い。
「でもよ、あの人が王女になってから、一回消滅していた守護者が復活したんだろ? ユマが守護者になったときの記憶って、どうだったんだ?」
「覚えてないよ。なんでか、気がついたら守護者だったんだよ。あたいが守っていたエリアは、そこら中から煙が吹き出てて、ほとんど赤色の場所。炎のエリアって感じ」
「そうなのか……」
ユマはもと守護者で、イカれた王に結晶を埋め込まれ、革命軍に入ったと言っている。
それはミルフィと同じものだろうと思うが、なんでユマはこんな感じなんだ?
……なんだか泣けてきた。
「それよりもさ、門十郎はもとの世界に戻りたいと思わないわけ?」
「今考えている。そもそも、戻れるのは確定なのか?」
「うんにゃ、わかんないね。でも戻れなかったらどうしようかねぇ~。エンペラーを倒すしかないかね」
「エンペラーって誰だ? 王と違うのか?」
革命軍はあと一人だと言っていたのはユマなのにな。
王と呼ばれる人物と、そのエンペラーってのがいるのだとしたら、2人じゃないか?
「……あのさ………門十郎」
「どうした? そんなにヤバイ奴か?」
───おぉーーーーん。
背筋がぞっとして、頭上を見上げた。
苔みたいな色をした小さな鳥が、雲の周囲をグルグルと回っている。
黒色の眼は、こっちを眺めていた。
隣にいたユマの表情が、曇った。
「あたい……フォルボスとは別に、エンペラーがいるって思ってる。でもさ……わかんないんだよな。フォルボスが王ってのはさ、頭じゃ分かってても、実感がないんだよ。喋ってる時も雑音みたいなのが鳴るしさ。まるでロボットみたいなんだ」
「なんだそれ……やばい奴だな……」
イカれた研究者がサイボーグってパターンか。
……想像しただけでゾッとする。
「だからそれを確かめたいんだ、この先にあるモノを」
気がつけば、階段は終わっていた。
目の前にあるのは錆びた鉄の門。
なんか文字が彫ってあるな。
──【Null】
……「ぬる?」
まったく意味がワカラン、塗るってことか?
「あのさ……門十郎……」
「なんだ? このとび───」
ユマの表情に、俺は正直驚いた。
さっきまでケラケラと笑っていた少女は、もうそこにはいなかった。
……なんでそんなに怯える必要がある?
ユマは言った。
「信じてるよ、スーパーヒーロってやつをさ」
「あ…あぁ…」
「さ、扉に」
……俺は恐る恐る扉に触れた。
何かの機械が作動したような音、電子音が鳴った。
──次の瞬間。
視界が捻じれ、グルンと渦を描いた───
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