トルフォス,革命軍

 灰色の山肌に囲われた、灯りのない地の底。

 地底の底には、轟音とともに落下する滝があった。

 水源の到達点は濁り、その泉は禍々しく波をうつ。


───リベルツィオーネ革命軍、その者達が集っていた。


 フィーニックスに変異する力を持つ少女、ユマ。

 彼女は山肌のたもとに腰掛け、泉が描く模様を見つめている。

 その隣には、鉄仮面の男が立っていた。


 ──名はフォルボス。

 全身を黒いロングコートで包み隠し、金色の鉄仮面を被っている。

 両手には黒い皮手袋を着用。

 フォルボスは、ノイズが混じったような声で言った。


「素晴らしい! ついに我らが夢が叶うのですね。この喜びを、ミシェルに住まう生物を血祭りにし、美しい音色を奏でるのですね。想像するだけで心躍ってしまうかのような、華やかなファンファーレになりそうですね。あぁ……素晴らしい。我らが新たな未来を創造するのですね。

 そう思いませんか? フィーニックス」


「うんにゃ、あたいはファンファーレとか興味ないんだよ。ミシェルの塔に秘めた力を解放したその先、もとの世界に戻る事しか興味がないからね。フォルボスは戻りたいとは思わないのかい?」


 フォルボスは両手を広げ、その鉄仮面は頭上の闇を見据えた。


「戻りたいなんてとんでもない。この力があるからこそ、私は肉を裂き血の花を咲かせる素晴らしさに魅了されたのです。それはリベラル自由に時を過ごし、生物の遺伝子に刻まれた三大欲求という縛りを越え、新たな悟りを得ることが出来ました。

 ギフト転移者を分解し、ロジックを研究しながら、いったいどれだけの時を過ごしてきたでしょう。どれだけこの時を待ち望んでいたことでしょう。

 キーが出現するまでに、1年、いや2年、いやもっと待ちました! このような闇に包まれ、日の光を浴びる意味も忘れて。ですが、だからこそ気が付けた。命の尊さに」


 フィーニックスは笑う。

 フォルボスの思考は極めて異常だと、再認識するかのように。


「あっはっは。ほんと、清々しいくらいにイカれてるよなぁ~。そりゃ、あたいだって何年も待ち望んできたことさ。たださ、あたいはフォルボスみたいにロジックにこだわってないからねぇ。転移者にしか使えない能力、くらいにしか考えてないよ。

 でも、あんたのイカた研究のおかげで、使えなかった魔法を使えるようになった。そこは素晴らしいよ、フォルボス」


 フォルボスはジジッ、とノイズを鳴らしながら。

 当を得たかのように、フィーニックスに言った。

 

「ええ──ええ──ええ──!! そうでしょう、素晴らしいでしょう。私の研究の成果は、こうやってアナタにも反映させることに成功した。でも最初は驚きました、まさかアナタ自ら実験台になってくれるなんて。

 だから私は考えた、殺して考えて殺して考えて考えて───そして辿り着いた、この世の道理に、論理に!!

 この世界の魔法は、何かのエネルギーを媒介する必要がないということに。〝結晶〟が持つ性質によって定められていた、大発見でした!」


 フィーニックスは赤いローブの上から、胸元にある突起物に触れた。


───埋め込まれた結晶体、転移者の命が無数に詰まったその結晶を。

   彼女はもう、普通の体でないことを理解しているかのように。

   ──笑った。


 フィーニックスは立ち上がると、フォルボスに歩みよる。

 その鉄仮面は、フィーニックスを見据えた。


「さあ、エンペラーが言うように、あたいらで守護者を消し、キーを力場に連れてって殺す。そこから〝結晶〟を取り出す。その瞬間、この世界は変わるよ。あたいはもとの世界に戻るけど、それはフォルボスの夢を叶えてから。約束するよ」


「ああ……なんと素晴らしい友情……フィーニックスよ、私の夢を叶える手伝いをしてくれるのですね。ミシェルに住まう全生物を血祭りにし、その花で真のユートピア楽園を描く。血の海と、〝結晶〟を宿す器、純粋で無垢な殻を眺めることを──ああ、たまりませんね。

 さぁ、我らがリベルツィオーネ革命軍の初陣を共に飾りましょう」


 二人は握手を交わした。

 それは同じ革命軍としての結束を越え、新たな世界を創造するための門出である。


「あっはっは。いいねぇ! ミルフィは先に行ってるよ。いこう、フォルボス!」


「ええ、まずはエリアⅠ、〝ラグーンの守護者、ファイアバード〟を解放してあげましょう!」


 ──二人は両手を突き出した。

   銀色の髪をした少女は黒色のリングを描く。

   黒づくめの鉄仮面は金色のリングを描く。


 リベルツィオーネ革命軍は、ミシェルへの進行を開始した。


 ◇

 

 エリアⅢ、ヴィッツェ。


 身を覆い隠すほどの木々、木漏れ日が差し込むその場所から、スカイブルーの空を見上げる彼女。


 藤色のローブを羽織り、背丈より飛び出た矛を地に突き刺している。

 水色の長髪、肩まであるその髪は、微動だにしない。

 その瞳は暗く、生気を感じないほど、冷たいものだった。


──彼女の名は、ミルフィ。

 

「いつ……おわりますの……?」


 彼女は何かを待ち焦がれるように、か細くぼやいた。

 その頭上には、猫のような銀色の耳がある。

 やがて──ピクリと耳を動かした。


「やっと……おわりましたの……」


 矛を手に持つと、音もなくゆっくりと歩き出す。

 彼女は水色の髪を揺らし、森の中へと姿を消した。

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