第4話 回想
彼女はいつも教室で本を読んでいた。休み時間になると、自分の席に座って静かに読書をしていた。文学少女といった雰囲気で、クラスの男子たちの目には魅力的に映ったのだろう。実際、僕も彼女のことを可愛いと思っていた。
それでいて、声を掛けようとする者は誰もいなかった。話しかけるときは、まるで腫れ物に触るような感じで、みんな恐る恐る声をかけていた。
彼女のイメージが一変したのは、高校三年生になってからだ。二学期が始まってすぐのある日、廊下を通りかかった僕は、階段の踊り場で数人の生徒に囲まれている彼女の姿を見た。
彼女たちは口々に何か言っていたが、はっきりした内容は聞こえてこなかった。ただ、その険悪な雰囲気から、あまり楽しい話ではなさそうだということは想像できた。
僕は様子を窺っていた。やがて、一人の生徒が彼女と口論していたのを見て、僕は慌ててその場から逃げ出した。
僕は彼女を避けるようになった。彼女がクラスの中で浮いていることも知っていた。僕は、無関係に関わり合いにはなりたくなかった。
数日後、僕は意外な場所で彼女と再会することになった。放課後の当番で、僕はゴミを捨てるため、校舎裏にある焼却炉に向かっていた。焼却炉の前まで来たところで、中から話し声が聞こえてきた。
足を止め、覗き込んでみた。彼女の他に向かい合うようにして立っている男子の姿があった。彼は上級生のようだったが、僕は見たことのない顔だった。
二人は深刻な顔をしていた。そして、彼女が彼に謝っている姿が見えた。
「ごめんなさい……」 彼の方は、彼女に何を言われたのか分からなかったようだ。怪しげに眉をひそめていたが、すぐに諦めたように溜息をついた。そして、そのまま無言で彼女の前から去っていった。
僕は慌てて身を隠した。そして、二人がいなくなったのを確認してから、もう一度外の様子をうかがった。
彼女はその場に立ったまま泣いていた。人目を気にすることもなく泣き続けていた。僕は立ち去ろうかとも思った。が、どうしてもできなかった。
彼女の涙が、あまりにも悲しく思えたからだ……。
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