第3話 再会
玄関で靴を脱いだあと、彼女はリビングルームまで上がり込んできた。僕は呆れながらもソファーに座らせ、テーブルの上にケーキを置いた。
紅茶を入れようと台所に行ったが、ティーバッグしかなかったため、我慢してもらうことにし、ポットに水を入れて火にかけた。彼女は部屋の様子を興味深そうに見回していたが、部屋の片隅に置いてあるギターケースに目を留めると、立ち上がって近付いていった。ケースの前にしゃがみ込み、まじまじと見つめていた。僕は思わず苦笑してしまった。
ギターは昨夜、届いたばかりだった。僕の母は音楽好きだったため、自宅に防音設備を施したオーディオルームを持っているのだが、昔使っていたものを引っ張り出してきたらしい。
ギターはずいぶんと古めかしく、弦も錆びている上にネックも反り返っていた。こんな状態ではとても弾けたものじゃないと思ったが、捨てるのは勿体ないので、とりあえず僕のところに送ってきていた。
新品を送ってくれと文句を言ってみたが、あっさり断られていた。ギターは元々父のものだったらしい。父は楽器の演奏など全くしない人だった。
ギターは僕の物になった。仕方がなく、修理業者に電話してみたところ、弦とペグを取り換えて簡単なメンテナンスをしただけで充分だという返事だ。
チューニングもまともにできていないギターを他人に見られたくはなかった。だから、わざわざアパルトマンにまで押しかけてきた彼女を、僕はギターから遠ざけようとした。彼女はまったく動じることなく、嬉しそうな表情を浮かべながら言った。
「私に演奏させてくれない?」 驚いて聞き返した。
「君、ギターが弾けるのか?」 すると、彼女は笑顔でうなずいて答えた。
「うん、一応ね。でも、人前で演奏したことはないよ」 意外だった。彼女はどちらかと言えば地味なタイプで、学校では目立たない存在だった。高校時代、彼女とは数えるほどしか言葉を交わしたことはなかった。それでも、他の女子生徒たちとはどこか違っていると感じた。
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