第2話 誕生日

 二〇一九年一〇月二九日――。

 朝から激しい雨だった。午後十一時過ぎ、僕はいつものようにパソコンに向かって執筆していた。そのとき突然、携帯電話が鳴った。僕は原稿を中断した。

 受話器の向こう側から聞こえてきたのは、懐かしい女性の声だ。彼女は高校時代のクラスメイトだった。僕たちはクラスが同じになったことはなかったが、同じ中学の出身だったので顔見知りではあった。そして高校二年生のときは同じ文芸部に所属していた。

 彼女と最後に会ったのは、高校の卒業式のときだ。だからもう五年以上会っていないことになる。当時はそれほど親しくなかったが、今は彼女のことが気になっている。

 彼女は少し戸惑っているようだったが、やがて意を決したように言った。

〈あの……今度、久しぶりに二人で会えないかな?〉 意外な申し出に驚いたものの、断る理由はなかった。それに、僕も彼女に訊きたいことがあった。

 待ち合わせ場所はオペラ座の近くの喫茶店にした。三日後の午後一時に会う約束をして電話を切ると、すぐにノートパソコンに向かった。そして再びキーボードを叩き始めた。

 正午過ぎになって、僕はようやく昼食を取ることにした。キッチンに行き、冷蔵庫を開けると、中にはミネラルウォーターしか入っていなかった。仕方なく日本から持参したカップラーメンを取り出した。お湯を沸かしながら時計を見ると、すでに一時十五分を過ぎていた。慌てて蓋を剥ぎ取り、熱々のお湯を流し込んだ。

 それから三分ほど待って、カップラーメンを食べようとしたとき、アパルトマンのインターホンが鳴った。ドアスコープから見ると、そこに立っていたのは二十代前半くらいの女性だった。彼女が手にしている大きな紙袋を見て、僕は思い出した。

 今日は彼女の誕生日なのだということを……。

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