第65話 僕はそっと牢屋に入れて鍵をかけた



 愚痴りながらもせっせと一週間かけてグランデの皆と書類仕事を全て綺麗に終わらせた。

 やはりサンダーツ伯がやっていただけあっていい加減な仕事が多く、やり直す羽目になったりしてストレスがマッハだったが、何とか終わってくれた。

 これで怠けなければ一日二時間も掛からない程度の仕事で済むだろう。

 グランデの皆にもご苦労様と声を掛けて僕らは執務室から解散した。


 そうして一息吐き休憩を取っていると、義兄上が到着したとの報を受け出迎えに降りる。


「義兄上、意外と掛かりましたね。おかえりなさ―――――――」


 玄関前の階段を降りて入ってくる義兄上に声を掛けたのだが、連れている女の子を見て言葉が止まる。


「義兄上、これはいったいどういうことで……?」


 と、自然と笑みが消え義兄上を見据える。

 秘密だったはずでは、と。


「いや、それがだな……」

「えっ!? この方があの時のドラゴンスレイヤーなのですか!? か、かっこよ……」


 と、何故か竜討伐の時の女の子が呼んでもいないのに義兄上と共に屋敷に入ってきていた。


「流石に誤魔化せる状況ではなくてな……すまん。全部ぶっちゃけた」

「はい? いや、わかったって言ったじゃないですか!」

「そうなんだがな。考えてもみろ。歴史に残る竜種の討伐だぞ。

 国中が大騒ぎになるのは当たり前だろう? すでに俺の専属の暗部だって伝えてあるのだ。

 もう気合を入れようが隠せる状態じゃなかったのだ……」


 いや、まあ、言われてみるとそうだけども……

 その子まで連れてくる理由になる?


 と、視線を流して言外に訴える。


「いや、こいつは勝手に付いてきたんだ。ずっと馬車の後ろを付けてきおって……

 一応フレシュリアの英雄だから無下にもできんでな」

「ええぇ~!? そんな言い方は酷いですよぉ!

 私、シェラって言います! よろしくお願いします、リヒト様!」


 ……もう名前まで知ってるじゃん。

 まあ義兄上が連れて来たのなら敵じゃないのだろうからいいけどさ。

 海に行った事がバレた以上隠す理由も無いし。


 それよりも、もう一つの約束は守って貰わねばと、義兄上と向き合い真剣な視線を向ける。


「義兄上、早速ですがお願いがあります。予定通り、王族籍を抜けてきたのですよね?」


 そう。予定通りなら義兄上はもう王家から出ている筈。

 元々姉上の結婚後はハインフィードに、という話だったのだ。


「そうだが……怖いな。なんだ?」


 隠し事を言ってしまった気後れがあるからか、珍しく義兄上がたじたじになっている。


「少しの間ですがサンダーツの代官をお願いしたいんです。構いませんか?」

「む、トルレーと同じ条件でか?」

「ええ。ぶっちゃけると丸投げってやつです」

「ほう。それは面白い! いいだろう!」


 よかった。

 ハインフィードでリーエルと内政関係をやっている時、楽しそうだったから受けてくれるとは思ってたけど、乗り気なのは気兼ねがなくてありがたい。

 これで僕はここを任せてリーエルの所に行ける。


 と言っても今からハインフィードに戻っても間が無いのでここで少し待ってから皇都へ向かう事になるけども。

 義兄上への引継ぎもあるしな。

 流石に家内に紹介をしてからじゃないと何もできないし。


 何にせよ義兄上が帰ってきてくれてよかった。

 先週の初めにとうとう来たのだ。

 開戦の知らせが……


 だから僕はどちらにしても皇都に向かわねばならなかったが、ここを任せられる人間が居なかったので義兄上に断られてしまうとゲン爺に無理をして貰うしかなくなっていたのだ。


「安定させれば自由にしていていいのだよな?」

「ええ。資金もある程度潤沢ですし、人さえ集められれば義兄上なら余裕でしょう。

 とはいえ、後任が決まるまでの中継ぎですからね?」

「わかっている。共に城へ行ったときの話であろう?」


 ああ、そうか。

 事情はもう伝えてあった。

 やはり共に行動している人にお願いするのは楽でいい。


 そう考えていると、シェラという子が何故か距離を詰めてきた。


「あのぅ……そっちのお話は終わりましたぁ?」

「えーと、終わったけど、キミは何しに来たのかな?

 もしお礼の事なら義兄上にと告げたと思うのだけど……」

「違うんですぅ。私ぃ、ルーゼス様とこのお屋敷で約束しててぇ」


 ん?

 ルーゼスと……サンダーツの屋敷で?


 は……?


 間違いなく第三王子のルーゼスだよな?

 こいつ、敵のお仲間じゃないか!

 な、なんで臆面もなく自ら暴露してんの?


「あ~に~う~え~?」となんて奴を連れて来たんだとジロリと強い視線を向ける。


「ち、違う! そっちは知らんぞ!

 本当にお礼がしたいと言って勝手に付いてきおったのだ!」

「はい! お礼がしたいのも本当です!

 ここじゃ怒られちゃうから何でもはしてあげられないけど……ちゃんと想ってますもん」


 と、もじもじとしている。

 何やらライラ臭がする、と僕は恐怖を感じて距離を取り義兄上を盾にする。


「まさか、聖騎士とか言わないですよね?」

「えへへぇ……そのまさかです! 実は最年少の第十席なんですよ?」


 と、空気も読めずに胸を張る彼女。


 ……そこは流石に知ってましたよね、義兄上?


 と、更に強い視線を向けると「ん、そこはお前も知っていただろ? だから怒っていたんじゃないのか?」と普通に返された。


「はぁぁぁ……」と、僕は深いため息を吐きながらも姿勢を正して彼女に向きなおる。


「聖騎士シェラ殿、貴女は今現在の帝国と教会の関係性を知らないのかな?

 それと、ルドレールとアステラータが開戦したことも、だ」


 口調をお外行きのものに変えて冷ややかな視線を向ければ漸く彼女は笑みを消した。

 と言ってもきょとんと首を傾げているだけだが。


 義兄上の方が「も、もう始まっていたのか!?」と驚いている。


「じゃあ、リヒト様も一緒にルドレールに行きましょうよ! 絶対に重用されますよ!?」


 は?

 公子の僕にルドレールなんかに降れと?

 愛する人や国を捨てて?


 その言葉にはあまりに苛立ち過ぎて眩暈がするほどだった。


「そうか、そうか。シェラ殿は平民。我らの矜持も何もかもわからぬのだものな……

 仕方ない仕方ない。ああ、仕方ない事だ!」


 と僕は苛立ちを鎮めようと自分に言い聞かせるように言葉を放つ。


「おい、義弟? 何か口調も表情もおかしくなっているぞ?

 こやつなら捕まえるか追い出すかすればよかろう?」

「やだぁ! 捕まえて何するんですかぁ?

 あっ、エルネスト殿下はまざっちゃダメですよ。私デブ専じゃないんで」


 そんな舐めた口調を続けている彼女の腕を取り、引っ張る。


「来て、くれるかな?」と、頬が引き攣るのを感じながらも笑顔を作り腕を引く。


 ここまで近距離まで詰められてしまっている状態ではまだ掴んでいる方が勝機がある。

 と言うか武器を持っていない今の状態なら暴れられても勝てるだろう。


 視覚的変化を齎さない二段階目まで強化を上げて、いつでもフル強化できる状態にして彼女を連れて行く。


「ええ、もぉぉ。その気なら最初からそう言ってくださいよぉ。

 人前じゃ恥ずかしかったのかなぁ?」


 そう言う彼女を黙って地下に連れて行き、僕はそっと牢屋に入れて鍵をかけた。


 ……?


 僕は牢屋越しに彼女と向かい合い互いに首を傾げた。


 ……何も抵抗しなかった訳だが、何故だ?


 僕は一度も入ってすらいないのに楽しそうにしている様にも見えるのだが。


 一つだけあった強者用の頑丈な牢屋。

 こいつ程度は閉じ込めておける強度の物だ。

 少しくらい危機感を感じてもいいだろうに……


 と、思いつつも困惑していると漸く騒ぎ出した。


「えっ? あれ? なんで鍵? 秘密にしたいからじゃないの? ねぇぇぇ!!」


 何故か牢屋に入れてもニコニコしていると思ったらどうやら本物の馬鹿らしい。

 そのまま踵を返して義兄上の元へと戻る。


「わ、悪気はないのだ。あのレベルの強者ともなるとどうにもならなくてな……」

「ええ、そこは理解しておりますよ。そこはね?」


 あの戦いを見るに近接で正面から戦ったら僕よりも強いだろう。

 フレシュリアの英雄だそうだしシャリエスさんたちを使って強制させる事ができなかったというのはわかる。

 だが、この状況でここまで連れてくるというのだけは頂けない。

 開戦は知らずとも緊張関係なことくらいは知っていたでしょう?


「最低限、先触れを出すなりして欲しかったですね。

 敵兵を無防備な状態の屋敷まで連れてくるとは何事ですか!?」

「す、すまん。まだ開戦前だと思っておった。

 あやつ自身には害意は無いとわかっていたのでずるずるとな……

 お前なら上手く事を運びプラスになると思ったのだ」


 確かに。紛う事無き本物の馬鹿だった。

 あれに害意があるか無いかならある程度人となりを知っているだけで読めそうだ。

 それでも勘弁してほしいが……


 まあ開戦前と思っていて敵意が無い状態だったのか。

 それでもこれからはちょっと義兄上の行動には注意しないといけなそうだな……


「はぁ、もういいです。あんな馬鹿でも力ある者を一人無効化できたので」

「う、うむ。そう言ってくれると助かる」


 と義兄上は僕の怒りが通り過ぎた事を察したのか、息を吐くと「して、何時発つのだ?」と今後の予定を尋ねた。


「三週間後には皇都に着かねばならぬので余裕を持って数日後には出ます。

 あっちでリーエルと落ち合いハインフィード騎士団の予定とかも決めねばなりませんし」


 前もってわかっていれば楽なのだが、お城での軍議後じゃないと何も決められない。

 集まっての行軍となるから皇都での宿泊の世話も必要だ。

 父上とゆっくり話し合う時間も欲しいし、余裕を持たせるのは割と必須なのだ。


「ちなみに、今のサンダーツには兵士がほとんどおりません。

 一応グランデの人員は戦える面子が多いので、もしもの時はそちらを頼ってください」


 と、シャリエスさんとハリスに視線を送れば後で紹介して頂きたいと願われた。

 それに了承しつつ、応接間に入り漸く僕らは腰を落ち着ける事が出来た。


「やはり、あの時のもう片方の男が第三席でいいんですよね?

 そっちはどうしてるんですかね……」

「ああ。褒美を出した時にはそのまま教会本部へと戻ると言っておったな。

 そろそろ帝国を出た頃じゃないか?」


 なるほど。って事はそれが本当ならギリギリラインだな。


「恐らくだが、本部に戻るのは本当だと思うぞ。

 帝国の公子がドラゴンスレイヤーだと知って頬を引き攣らせておった。当然だろう。

 諍いになりそうな相手が竜種を片手間でしかも一撃で倒してしまったのだからな」


 いや、それは色々と違うんだけど……


 平時に強者と勘違いされるならまだしも戦時にそういう勘違いはとても困る。

 だって戦時だとそれなりの立場があってもはったりだけじゃ終わらないもの……


 敵さんが僕と戦う時は戦力搔き集めて万全で来るってことでしょ?

 厄介すぎる。


「言っておきますけど、僕にそんな力は無いですからね?」

「そ、そうなのか!? 力を隠していた訳ではなく?」


 それに深く頷けば「ああ、それでシェラを連れて来た時にあれだけ警戒していたのか」と納得の意を示した。


「あやつ程度なら一捻りなのだと思っておった……

 もしもがあっても正面からならどうとでもできるとな。

 そうか……それは悪いことをした」

「竜種との戦闘を見た限りでは少なくとも接近戦では負けますね。

 距離があって魔法が決まればなんとか……というところでしょうか」


 いや、あの程度なら近距離から始まっても勝てるか?

 そもそも切り札を切れば僕の方が速いのだから距離も取れる。少しくらいの負傷は回復魔法で直ぐ完治するし。

 ああ、そう考えると僕の方が強いな……

 まあでも強すぎると思われた方が困るのでこれはこれでいい。


「まあそれはもう付いた話ですのでいいとして」


 と、義兄上とサンダーツ内の事情の情報共有を行い、先日手を付けた薬草畑の話からサンダーツの内政の現状までを伝えておいた。

 それと、グランデから呼び寄せた者は安定し次第できるだけ早く戻して欲しい事も。


 引継ぎの話が終ると義兄上は「よし! 凡そは理解した!」と立ち上がりハリスに視線を送る。


「俺の商会に文を出せ。領地運営に知見のある者を大至急五名ほど用立てよとな!

 ついでに別で二十名ほど連れてこいと言っておけ。そっちは商人として使う!

 はっはっは、これで気兼ねなく痩せられる! 俺は自由だ!」


 えっ、義兄上も商会持ってたんだ……

 確かに商家ならフレシュリアから重用してもなんら問題は無いな。

 しかも領地運営に使えるとか何それずるい。

 僕の商会は貧民街出身者ばかりだからな。気の良い奴らばかりだけど学は無いのだ。


 まあ、義兄上も半年近く我慢したのだからここで詰まらない事を言うつもりも無い。

 普通に後押しをさせて貰おうとしよう。


「ヘーゲル、人員が足りていないところで悪いが義兄上に護衛を一人付けたい。選定を頼む」

「王子殿下の護衛が一人でいいんですかい?」

「ああ、義兄上の付き人は優秀だからな。戦闘面はおまけでいい。

 何か問題が起きても各所に話の通せる帝国の人間が居た方がいいというだけの話だ」


 その声に「ご配慮感謝致します」とハリスが丁寧に頭を下げた。


 そうしてその場でできる引継ぎは凡そ終わり、旅の疲れを癒して貰おうとこの日は解散とした。


 その晩、僕は地下の牢屋を訪れた。

 あんな馬鹿でも何か知っているかもしれないから、と。


「少しは現実を理解したか?」と、真面に会話する気にはなれず、自然と冷たい言葉が出た。


「な、なんでこんな事するんですかぁ……」


 と、涙目でこちらを見上げる彼女。


「第三王子ルーゼスとお前ら聖騎士が我が国に戦争を仕掛けたからだ。

 ちなみに、ルーゼスも捕まっている。今頃牢屋に入っている頃だろうな」

「えっ……嘘! 彼が捕まる筈ないもん!」


 俯いていた彼女は突如顔を上げるとクワッと目を開きこちらに強い視線を向ける。


「捕まえたのは僕らだ。もう既に捕まっているんだよ。

 開戦までは牢屋に入れなかっただけの事」

「嘘……何でこんなに私ついてないのぉ……私、運が無さ過ぎるよ……」

「ついてない、か。キミは何でも運で片づけてしまうんだろうな……」 


 兄上たちと一緒だ。

 自らの行いで不都合が起きても嘘だとかついてないで全てを終わらす。

 何も考えず何の改善もしないからそんな言葉を連呼することになる。


「少なくともキミが今ここに居るのは、戦争を始めた側の人間が敵地で何も考えずに行動した結果。運の話ではなく当然の結果だ」

「だってぇ……ルーゼスが居たお屋敷に居るんだから大丈夫だって思うじゃない」

「……僕が帝国の公子だと知っていたんじゃないのか?」


 この屋敷に来た時に名を呼んでいた筈だけど……

 名前を知っていたのだから敵対者だということくらいわかっただろうに。


「そんなのわかんないもん。

 自国の事だって貴族の事情はよくわからないのに他国の事なんてわからないよ」


 確かに聖騎士は基本的に教会勤めかハンター上がりだが、僕が城で称えられたならば国名も爵位も話に出ている筈なんだがな……


 まあ、それはいいとしても平民でも戦争の重さくらいはわかるだろうに。


「では、戦争を始めれば理不尽に人が大勢殺される事もわからなかったのか。

 当然、理不尽に殺されるのはキミも例外じゃない訳だが……?」


 そう問えば、彼女はピタリと動きを止めた。

 漸く恐れの帯びた視線でじっとこちらを伺う様に見た。


「ま、まさか私、殺されるの!?」


 はぁ……漸くか。

 その不安を最初に抱えるものなんだがな……


 いや、普通はその不安があるから来ないものか。

 ライラ嬢といいこいつといい一体何を考えて生きているんだか……

 まあ殺すつもりも無いのだけど。


「いいや、キミは一先ず捕虜だよ。戦争が終わるか、教会が司法取引を持ち掛けるかしない限り解放するつもりもないが、今のところ殺す予定は無い」


 流石にフレシュリアの英雄と聞いていて戦時前に無力化できちゃってるからな。

 こんな子屋敷の地下に置いておきたくないんだけど、開放もできないし……


「ねぇぇえっ! なら何でもするからここから出してよぉぉ!」


 殺さないと言った途端、甘えた声に変わりまるで抱きしめてと言わんばかりに牢屋越しに手を広げて涙目で見上げる。


「何でする、か。そうだな……

 キミの持っている情報で僕らが著しく有利になる様なものがあれば開放も考えよう」

「えっ……そんな事言われても……私、細かい作戦とかは聞いてないし。

 ルーゼスに聖騎士を貸して貰える様に話を付けたいから偉い人紹介してって言われただけで……教会の偉い人たちを紹介しただけなんだもん。

 全部言ったよぉ。これでいいでしょぉぉ?」


 僕が言外の誘いを一切意に介していないからか彼女はいじけた様に涙を流す。


 もしかして、この振る舞いは演技ではなく全て本気なのか?

 ライラ嬢のように相手を利用しようと作ったものではなく?

 いや、まだわからないな。もう少し様子をみよう。

 

「そうか。ではこのまま犯した罪の償いとしてずっと牢屋で過ごすのだな」

「待ってよぉ……あっ! じゃ、じゃあ第一席の弱点とかは!?」


 ……本当に弱点と言えるものを知っているのならば聞きたいけど、絶対に意味のない子供だましの弱点だよな?


 そう思いながらも気になり「一先ず聞こうか」と再び彼女と向き合った。


「む、虫がダメなの! 黒いのが出るときゃーって叫んで動けなくなっちゃうの!」

「……それは日常での話だろ。戦場で何の意味がある」

「絶対効くって! やってみてよ!」


 第一席がこいつクラスの馬鹿ならばあるいは…… 

 でも無いだろ。命のやり取りしている時に虫が出たくらいでそれほどの隙を見せるなんて。


 しかし、これは演技じゃなく本当に無知なただの子供だわ。

 苛立っていた自分が馬鹿みたいだ。


「その程度の無意味な情報ではダメだな」

「待って待って待って! わかった!

 じゃあ教会やめるから! ならもう関係ないでしょ!」

「仮にそれを信じたとして、組織を抜けるから今まで行ったことは忘れてと言っている訳だけども、通ると思うか?」


 少なくともルーゼスと共に行動し、何をするのかを知っていて聖騎士を彼に紹介した女。

 つまりは共謀者だ。

 しかも敵対している教会の主戦力でもある。

 今更教会を抜けるから無かったことにしてと言われても頷ける訳がない。


 そう言って立ち上がり、僕は彼女の牢から離れていく。


「やーだぁぁ!! おーねーがーいー!」と、泣きそうな声で叫ぶシェラ。


 ……あまりに子供過ぎて逆に罪悪感が湧くな。

 感じる必要なんて一切無いのにな。


 そうして階段を上っていくと登った先に義兄上が居た。


「なにやら叫び声が聞こえたと思ったらシェラの聴取をしていたのだな。

 しかしあやつがあれほど子供の様な振る舞いをするのはお前の前くらいだろうな」

「えっ……僕、今さっき彼女は根っからの子供なのだ、という結論を出したところなのですが……」


「ああ、普段も大人ぶっているだけで何も間違ってはおらんぞ?」と義兄上は返すが僕はどうにも納得がいかず頭を抱えることとなった。


 それすらもできない幼児だと思っていたのです、と嘆息する。

 僕の人を見る目もまだまだだな。


 そうして、なんだかなぁ、と少し納得がいかないままにその日を終えたのであった。

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