第25話 国の不義理



「それで、俺を探してたってのはあんたらか……何の用だ?」


 そう言って長身の美丈夫は酒を煽る。

 そんな彼に舐められない様にとある程度口調を作って声を返す。


「ああ、我らは傭兵でね。ハンターの顔役である貴方に話を聞かせて貰いたい」


 そう。情報収集をしようとハンターギルドにて町の顔であるハンターを紹介して貰ったのだ。

 丁度ギルドの酒場に居たそうで、受付のお姉さんに頼んで繋ぎを付けて貰ったところ。

 エメリアーナも一緒に居るが、昨日の失敗があるからか大人しく黙って座っている。


「ああん? 負け戦にのこのこ来るなんて大した事ねぇ傭兵だなぁ。情報収集は基本だぜ?」

「貴方こそ、残っているのにそんな丁寧な忠告をするとはお優しいことだな」


 彼は苦笑して頬杖を突き「うるせぇよ」とそっぽを向く。


「嫌味じゃないんだがな……単刀直入に聞く。出陣は何時だ?」

「軍は明日出るらしいな。俺たちは一歩遅れて明後日だ。お前らはどうすんだ?」


 ジロリと強い視線を向けるが敵意は感じない。不思議な感じの男だ。


「私らもお呼びが掛かれば出る。まだだがね。

 流石にあの低額の意味のわからない依頼では出るつもりはない」

「ああ、吊り上げを期待してんのか。無駄だぞ。

 知り合いの兵が言うには侯爵家は割れて金を持ち逃げされたみたいだからな。

 今頃は国外へとドロンだって話だ」


「ああ、出し渋りはそれでか……」と呟けば「ああ、そうだよ」と気分が悪そうに呟く。


「不思議だな。貴方は我らの参戦を望んでいないかのようだが?」

「そりゃ、仮に百人増えようが勝ち目もクソもねぇからな。

 負けるんだから当然お互いに報酬も無ければメリットも無い。

 それなら人死には少ない方がいい……それだけの事だ」


 そう言って店員におかわりを頼もうとしていたので、そっと御代を代わりに出して彼が好きな銘柄で一番いいのをと頼んだ。

 ついでに僕らのジュースもお願いすれば「そんだけスカしといて酒じゃねぇのかよ!?」と突っ込みを受けた。

 

 スカしたつもりは無いんだけど……


 ふん、鼻を鳴らしてはいたが突っ撥ねはしなかったので話を続ける。


「なら、貴方も逃げるべきでは……

 同じ国の民だ。町を制圧されてもそれほど酷い事にはならないだろう?」

「おい、俺の話かよ。情報を聞きたくて金出したんじゃねぇのか。いいけどよ……

 まあお前が言った通り俺は一応名が通ってるんでな。それだけここに根付いてるんだ。

 仕事仲間も女も子供も、皆家族が居るんだよ。全員は連れて行けねぇだろ」


 ああ、言われてみるとそうだな。

 愛する家族を見捨てて仲間たちだけで逃げるというのは、それほど酷い事にはならないと思っていても無理か。僕もその状態じゃリーエルを置いては行けないな。


 そう思って詰まらない問いかけをしたことを謝罪したが、黙っていたエメリアーナが口を開く。

 

「馬鹿じゃないの……

 なら全員声掛けて付いてくる奴らの為に命使った方がいいじゃない」

「嬢ちゃん、わかってねぇなぁ……根付いてるのは俺だけじゃねぇ。全員の大事な人を連れて行くってなったらそりゃもう長蛇の列だ。

 それを俺たちみたいなハンターが守ってりゃ討伐対象に入るに決まってんだろ。

 その前に行き先も物資も無ければ準備もねぇ。残った方が家族を生かせるんだよ」


 確かに。彼の言はそれほど間違ってはいない。

 民に扮装した敵軍が潜んでいるとでも思われれば即襲ってくるだろう。

 軍人だって人間だ。自分の命が掛かってれば危険をできる限り取り除こうと動く。

 そしてひとたび剣を交えてしまえば、もう止まる事はお互いに難しい。

 故に、運次第では起こり得る話と言えた。


「……そう。あんたも強い人なのね」と、エメリアーナは目を伏せる。そんな空気に耐えられなかったのか「んでお前らは結局何を聞きてぇんだよ!」と苦い顔を見せる男。


「もう聞いたぞ。出立日と依頼料の吊り上げ不可ってのが重要な情報だったな。

 酒はその礼だ。先に話してくれたんでな。後払いってやつだ」


「ならなんでジュース頼んでんだよ」と彼は少し楽しそうに笑う。


 そんな彼と軽く世間話をした後、ギルドを出た。





「失敗したな……」と思わず呟けばエメリアーナが「なんで?」と疑問を投げた。


「いや、思った以上に良い人過ぎてさ。

 助けられない相手に情を湧かせるのは辛いだけだろ?」

「あぁ、うん。そうね……あいつ、助からないの?」

「当然、降伏時までは生き残れなきゃね。場合によっては降伏しても殺される時もある」


 流石に降伏して武器を手放せば普通はやらないが、戦場は疑心を生む。

 拘束して連れて行ける人数かとか、それまでの食料は、とか何かしらの理由で少しでも引っ掛かった場合、とりあえずで殺しておこうなんて考えに至る者も普通にいる。

 普通に有り得ない間者の可能性を疑って降伏した敵兵ほぼ全軍の数百人を皆殺しにしたなんて歴史もあるくらい何でもありだ。


 そんな歴史にあったふざけた理由ばかり上げたが、僕だって仲間が危険になりそうなちゃんとした理由があれば当然の様に殺すだろう。


「あぁ……もうっ!! なんかいい方法は無いの!?

 サンダーツとロドロアの領主を上手くぶっ殺して『はい終わり』みたいなのは!?」

「そこまで彼が生き残ってれば有り得るが、やろうとするとその分こっちが危険を負う。

 流石に出会ったばかりの人の為にそこまではできないよ」


 うん。サンダーツ軍を正面から速攻で殲滅して戻ってロドロア侯爵の首を落とし、それを持って皇軍に伝えれば多分そのまま降伏勧告して終わる筈。

 情報的に見て兵たちもそれ以上の抵抗は見せないだろう。

 だが、彼の為に十三人で正面から数百人に突っ込むなんて真似はできない。


「サンダーツ軍の事さえ無ければロドロア侯爵家を不意打ちで潰して降伏を促す事はできただろうけど、先に侯爵を潰したらサンダーツが叩けないんだ」

「ほんと、文官の戦いって面倒ね……

 こんな話聞いちゃったら正面から叩き潰したくなるに決まってるじゃない!」


 いや、戦場に来てるんだからこれはもう武官の戦いなんだが……

 武官だから何も考えず真っ直ぐ戦えばいいって訳じゃないんだよ?


「味方に有利な状況を作り出す為にもこういう時に当然の様に見捨てないといけないから、武官から見たら文官は冷酷に見えるらしいね。平然と見捨てる、ってさ……」


 その言葉にエメリアーナがハッとした様を見せて「あんたは違うわよ!?」と強く訴える様な瞳を向けた。

 その言葉にお礼を返しつつも貰った情報を頭の中で簡潔にまとめる。


 第一に、正規軍は明日。義勇軍は明後日の出立。

 第二に、侯爵家は二つに分裂した事。

 第三に、分裂した一派に金を持ち逃げされていて首が回らない状態な事。


 裏が取れている話とは言えない情報だが、内部に入れない以上は裏取りはやっていられない。

 この情報から推察するしかないだろう。


 出兵の順番的に、もう諦めて帝国に一矢報いるという決意をしていてもおかしくない感じだ。

 勝ちを全力で狙いに行くなら、義勇軍を前に出し一番戦える正規軍をいい状態で戦える様にする為に使うだろう。恨まれようが背に腹は代えられないのだから。


 金の持ち逃げが事実ならもう多少の期間ですら持ちこたえる事も不可能だ。

 それが身内に裏切られたのが原因なら流石にもう気力も湧いてこないだろう。


 しかし、それはそれで僕たちの作戦遂行が難しくなる状況だ。

 そうなったらもう傭兵の動向なんて一々気にしなくなるだろうが、期間が短いと戦力把握すら難しい。


 そうした思考を回しながら宿屋に戻れば、宿の受付手前のテーブルに何故かライアン殿とギルドの受付嬢が同席していた。


「あれ……どうしたんです?」とライアン殿に問いかけるが「お待ちしておりました」と受付嬢が立ち上がる。


「どうやら領主様からお呼びが掛かったみたいですぞ」

「ああ、そうなんだ。けど、明日にはもう出るんですよね?」


 と、受付嬢に問いかければ「はい。ですので今から同行願えないかと……」と彼女は申し訳なさそうに問う。


「構いませんよ。私一人でなら」


 そう返せば彼女は「助かります」と早速用意していた馬車で侯爵家へと案内してくれた。





 侯爵邸の応接室。

 ロドロア侯と孫娘であろう年代の女の子の二人と対面して座っている。


「よく来てくれた。突然の呼び出しですまなかったな」

「いえ、事情はある程度存じ上げておりますので。

 時間も無いと思われますので単刀直入にどうぞ。私らに何用でしょうか?」


 そう問えば侯爵は苦い顔を見せた。


「事情は知っている、か……こんな所に態々来たにしては耳が早いのだな。

 頼みはただ一つだ。私の孫娘であるルシータを逃がしたい。協力を頼めぬか?」


 そう言って彼は大金貨を二枚テーブルに置いた。


「やはり諦めていらっしゃるのですね……

 しかし、それをさせるなら正規軍からやるべきでは?」

「はは、この期に及んで孫を生かしたいからと私用で軍を使えと?」


 確かにそうだが、知らぬ傭兵に任せるくらいなら恥を忍べよ……

 傭兵相手じゃ犯して殺して金の持ち逃げも普通に有り得るよ。


 今の所、悪い人には見えないが、やはり考えが甘い人だな……


「どうせ参戦せずに出ていくつもりなのであろう?

 であれば、子供を一人連れて行くだけでこの褒美なら悪くなかろう」


 確かに僕らが本当の傭兵だったらそうなるだろう。

 しかしサンダーツ軍の戦力も探っていないし、理由も無く彼女を生かすこともできない。

 何と返すのが正解だろうか……

 ああ、一番理解して貰えそうな恨みを前面に出そう。


「すみませんが、それは出来ません。

 私たちはふざけた行いをしたサンダーツを潰す為に来ているので。

 侯爵ならおわかりでしょう。

 今の国は狂っている。何故国はサンダーツの蛮行を許すのか……」


 うん。サンダーツが愚か者過ぎる所為でここに居るし、領土の簒奪を放置した皇家の所為だ。

 普通に腹立たしいのでその気持ちを乗せてみたのだが侯爵の反応は今一だな。


「そうか……傭兵であれば受けてくれると思ったが、貴殿も引けぬものがあったのだな。

 確かに貴殿の言う通りこの国は狂っている。我が領地も散々な目に遭い続けてきた……」


 そう言って侯爵は国の愚行をゆっくりと連ねていった。

 概ねはギルドで男が言っていたことと同じだが、細かく聞けばやはり同情を否めない。

 心が弱ければ怒りに染まってもおかしくはないと思える程に。


 だが、それ故に疑問が残る。


「失礼な発言だったら申し訳ないのですが、侯爵は理性が振り切れている様には見えません。

 何故、負け戦を自ら……周辺領地を抱き込んでも勝ちまでは持っていけなかったでしょう?」


 彼の瞳や声色からして怒りより悲しみしか見えない。

 流石に積年の恨み節を口にすれば普通は怒りを滲ませるものだがそれが無かった。

 それが気になりロドロア侯に疑問を投げかけた。


「それ、なのだがな……独立の書状を出したのは息子なのだ。

 引継ぎも殆ど終わり全ての権限を与えていたので魔法印も勝手に使われてしまってな。

 私も徹底的に戦うと勘違いさせるようなことを常々言ってしまっていたのだが、それは政治面での徹底抗戦という意味だった……

 国と武力で戦うなど有り得ぬのにな。あやつは勝てぬ事すら理解していなかった」


 その息子さんは、と問えばそいつが金を持って逃げた犯人らしい。

 勝手に独立宣言し、殿下の拉致事件まで企てて失敗し、周辺領地への説得材料も無くなり、敗色濃厚となったと見たや否や黙って金を持って嫁と子供を連れて逃げたのだとか。


 もう別居しほぼ完全に任せていた為、居なくなって漸く異変に気が付いた。

 軍や分家の者に事情を聞き一部の者たちが不審な様子を見せたので尋問をし、漸く何があったのかを知り、侯爵と亡くなった息子の側室との娘さんだけが残される形となったのだそうだ。


「全く以て笑えぬ話ですね……正直言葉が出ません」

「で、あるな。

 あの日からこの数か月悔やまぬ日はなかった。息子を監督できなかった私の責よ……

 戦場でも話を聞いて貰えそうなら降伏しようと思っている。

 だが、この子には罪は無いのだ……」


 何やら嫡男は俺が国を裁いてやると秘密裏に動き出したのだとか。

 元々戦うと言っていたのだから問題無い、と側近に内密にと言いつけて。

 それ故に軍部の人間ですら大半は寝耳に水なことだったそうだ。

 学院襲撃で作戦がお粗末だったのもその所為だろう。


 本当に笑えない。確かに彼の言う通りお孫さんには罪は無い。

 しかし、それでも家に生まれた者の責任がある。

 要件が違うので態々捕らえる様も真似はしないが、残念ながら国の法では彼女も罪人の一人。

 まあ、様子を見るに自覚もあって言っているのだろうが。


 お孫さんは見たところ僕よりも下。止める力がある筈もない。本当に巻き込まれただけだ。

 成人前の子供は一族郎党の中に入れないのが通説だが、これほどの大事だと危うい。

 このままでは恐らく彼女も処刑されてしまうだろう。


 心情的には逃がしたいなら逃がせばいいとも思う。

 だが、厳しい事を言えば息子の躾が出来なかった侯爵の罪が一族郎党皆殺しレベルのものだったのだ。


 皇帝もそうだしリーエルの父上もそう。

 強いて言えばうちの父上もそうだが、子供の教育が出来ない親が多すぎる。


 独立なんて事を相談も無しに行い、やるだけやって失敗したら側室の子だからと娘まで置いて金を盗んで逃げるとか、どう考えても人間性に難があり過ぎる。

 そこまで酷ければ片鱗くらいは見えていただろうに。そんな奴を嫡子にするなよ……


 あっ、それはうちもか……人ごとじゃない気がしてきた。


「それで傭兵の私たちに目を付けたのですね。ですがこちらにもやるべき事があります。

 恥を忍んで兵に土下座をしてでも頼むべきでしょう。自分の命で済むようにするからと……」

「そう、だな……そう願ってみるしかなさそうだな……」


「うっ……ううっ……お爺様ぁ」と、ずっと青い顔で黙っていたお孫さんが泣き出してしまった。


 抱き合い涙を流す二人。

 見ていられず目を伏せたが、よくない事態であることに気が付いた。


 交戦も無しに降伏されてしまったらサンダーツ家の力を削げない。

 この絶好の機会に何もできずに終わるのは痛すぎる。

 もしあのアホが我儘を言い続けて皇帝が折れ、ライラ嬢が皇太子妃にでもなってしまおうものなら絶望的だ。

 サンダーツ伯の心情は未確認でも悪人なのは確定している。

 その上で大馬鹿コンビが国の頂点に君臨するのである。


 いや、流石にそこは折れないか……

 皇帝陛下は子供に甘すぎだけど国が潰れるとわかっても押し通すほどの馬鹿じゃないだろう。


 しかし、どちらにしてもここで動けないのは痛すぎる。


 どうする……

 考えろ!


 ……あっ!

 独立が侯爵の意思じゃなかったのなら、一か八か明かしてみるか?


 最悪は侯爵を僕が消す必要が出てくるが、どちらにしても死刑になる人だ。

 ならば聞くだけ聞いてみよう……


「さて、ここからは本当のお話を致しましょうか……」と、僕は侯爵に真剣な瞳を向けた。


「本当の話? なんの事だ……」と困惑を見せる彼に「私の目的の話です」と返して話始める。


「私はサンダーツが他国を引き込んだという情報を掴み動いているのです」

「なに……貴殿は一体……ど、何処の手の者だ!」


 孫を胸に抱き、涙を流したまま目を見開き警戒を露わにこちらをじっと見詰める侯爵。


「それは貴方が話を聞き、受けると言って下さった場合にのみ明かします。

 もし願いを叶えて下さるならお孫さんの生存に本気で手を貸しましょう」


 本当は僕がそんな重みを背負いたくはないが、彼女一人生かせばサンダーツ軍を弱められるのであれば国としてもお釣りがくるほどだ。

 本当ならば国に判断を委ね許可が出た場合にのみ行うものだが、連絡を取る時間など無い。

 権限が無いから確認してからとか言ってる場合ではないのだ。


 侯爵は兵に頼める状態ではないのか「ほ、本当か!? 何をすればいい!」と強い喰いつきを見せた。


「サンダーツ軍を討つ為の時間を頂きたい。開戦後、引いて町に籠城して頂ければそれで……」

「ろ、籠城なら最初から立て籠もる方がよかろう?」

「いいえ。我らが動く時が欲しいのです。少しでも早く戦争の開始をして頂きたい」


 開戦したらサンダーツを先行させる手筈になっている。

 最初から籠城では流石に全軍が町の周りに張り付く。そんな中では流石に何も出来ない。

 故に打って出て貰う必要があるのだ。


「降伏はするな、と?」と、力ない瞳で問う侯爵。


「いいえ。敵が町の外壁に張り付いたら降伏して頂いて構いません。

 別動隊が諦めずに戦っていても不思議はありませんから。

 私と共に皇軍の前にロドロア軍の姿を晒して頂ければそれでよいのです」

「兵を無為に戦わせる必要は無いのだな?」

「ええ。相手方に一度軍としての姿を見せて頂いたら町まで引いてしまって構いません。

 私の方からの要望は以上です。受けてくださるなら所属を明かします」


 そう伝えて視線を向け合うと、彼はふっと諦めた様に小さく笑った。

 

「わかった。それだけでよいならば受けよう。もう私には他にできる事も無いからな」

「ありがとうございます。では私、リヒト・グランデが名を以てお約束します。

 私の持てる力全てでお孫さんをお助け致しましょう」

「な、何!? グランデだと!? き、貴様、皇帝の手の者だったのか!」


 流石に皇帝の手先とあっては彼も怒りが滲む様だ。強い眼光を向けて怒気を見せている。


「半分は、そうですね。

 父が許してくれないだけでもう半分は見放したいと思っていますが。

 私はハインフィード辺境伯の婚約者で、陛下公認の元、ハインフィード軍を伴ってサンダーツ軍を弱らせる、その為にここに来ました。

 ですがそれは私の愛する人たちを守る為の行動。

 決して皇家の為ではありません、と私の名誉の為申し上げておきます」


 こうして口に出してみれば、百パーセント本心だと自分自身感じた。


 出会っていたのが皇帝陛下と宰相閣下だけなら多少の不満は持ちながらも従えただろう。

 だがそこに殿下が加わり、可愛いから躾はしないというスタンスを見て完全に白けた。


 国を滅ぼすような真似をして一か月贅沢な生活するだけの謹慎?

 あれだけ狂った様を見て、少しの危機感程度しか覚えないのか?

 あんな馬鹿を主君と掲げられると思っているのか?

 こっちはお前らの采配一つに命が懸かるんだぞ?


 馬鹿にするなよ、という話だ。


 そんな本心をロドロア侯爵へと打ち明けた。


「ですので、私は国という枠組みを自分の為に残したいが故、サンダーツ軍を討つ為にここに参りました。

 お孫さん一人を法を曲げてでも助ける事でそれが適うならすべきだと思っております。

 グランデの名に懸けてこの言葉に嘘偽りはございません」


 そう伝えれば彼は笑みを見せ「はは、キミの想いは痛いほどにわかる。的を射すぎていて嘘偽りが無いこともわかった。では、ルシータを頼もう……」そう言ってテーブルに手を付いて深く頭を下げた。


 それに頷いて返してお孫さんを預かり、僕は仲間に話を伝える為に一度宿へと戻った。



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