第26話 ロドロアの悪魔



 ロドロア侯との話し合いを終え、ルシータちゃんを連れて僕は宿へと戻り、ハインフィード騎士団の皆に事情を全て説明した。


「ふむ……婿殿はこの娘をどうするおつもりで?」

「うん。当ては無いみたいだから、とりあえずハインフィードに連れて行きたい。

 リーエルが受け入れてくれたなら皇帝陛下への直談判かな。年齢的に何か理由があれば通るとは思うし。それでも駄目そうだった場合、外に逃がすかどうかは状況次第かな」


「どちらにしても家の名で誓った約束は守る」と返せばエメリアーナが「当然ね!」と腕を組んで鼻を鳴らした。


「というかリヒト、もう限界よ! 何そのふざけた話は! ぶっ殺しに行くわよ!!」

「いや待て。気持ちはわかるが全部別口だからな?」


 皇家、サンダーツ、侯爵の息子は全部別勢力だろ、とエメリアーナを落ちつかせる。


「それに明日ロドロア軍と共に出陣するって言ったろ。多分だけど戦いになるよ」

「ふーん……ならいいわ! でもちゃんと話を聞くまでわからないものね。

 ロドロア侯爵って悪人だと思ってたけど立派な人じゃない」


 そう言ってルシータちゃんを胸に寄せて頭を撫でるエメリアーナ。

 女同士で安心したのか彼女はエメリアーナにギュッと抱き着いた。

 エメリアーナは少し驚いた様を見せたが彼女の肩が震えている事に気が付き、そのまま抱き上げて「話は明日聞くから」と部屋を出て行った。恐らくは寝かしつけに行ったのだろう。


「あ~……他の皆さんは質問等、あります?」

「戦場での指揮はして頂けるので?」


 とライアン殿が問うので「当然、させて頂きますよ」と返せば「ならば特にありませんな」と彼らは笑う。


「その……もしエメリアーナが撤退の指示に従わなかった時は、お願いしますね?」

「ああ、勿論ですぜ。最近のエメリアのお嬢はもう殴って止めるしかありませんからな!」


 えっ……あの美少女を殴って止めてるの?

 いや、美少女とか関係ないけどさ……女の子だよ?


 と、絶句しかけたが、戦場ではそれくらいじゃないと跳ねっ返りは扱えないかと納得した。


 そうして解散し、各々部屋で睡眠を取ることとなった。





 次の日、宿に迎えが来てロドロア軍と町の門にて合流を果たした。

 そして行軍が始まり、丸一日の移動を要して戦場予定地の大草原に向かった。


 エメリアーナを含めた騎士団の皆には斥候の役目をお願いし、こちらは道中にてロドロア騎士団長、侯爵、ライアン殿、僕の四人で打ち合わせを行う。


 一応、サンダーツを上手い事撃退出来たらの話だが、僕がサイレス候の元へと行き事情を話して降伏勧告を行ってもらいそれを受け入れる、という形になっている。

 そうして上手く事が進めば、処刑される人数が減るだろう、という目論見だ。


 正直、空気が重かった。

 当然だ。この二人は間違いなく処刑されるのだから。

 随分嫌な役目に自分から名乗り出てしまったものだな、と思いつつもため息も吐きづらい空気の中行軍した。


 そうして今現在は大草原へと到着して陣を構えて待ち構えている。


「あの、お孫さんは宿の方でよろしかったので?」

「ああ。その方が余程安全であろう。

 その後は任せるでな。どうか不幸にはならぬようお頼み申す」

「ええ。ご安心を。名に誓ったからには出来る限りはします」


 正直、昨日知り合ったばかりだ。

 どこまでもしてあげたいなんて気持ちは無い。

 僕がするのは処刑から守るよう全力を尽くすことと令嬢の一般的な生活をさせてあげることくらい。

 侯爵もそれ以上は求めていないだろう。


「しかし……墓守の団長と戦場で共に肩を並べる事があるとはな。

 遠い端の領地同士なのだが不思議なものだ」

「然り然り! 今日はお役目の外に居る守られた者たちに教えてやりましょうぞ。

 生易しい環境に居る守られた者が調子に乗るでないわとな! がっはっは!」

「なるほど。それは確かにそうだ。私も先は無い事が確定している身。お供させて頂きたい」


 と、何故か団長同士意気投合している二人。

 というかそれ、いいんですかと侯爵へと問いかければ「もう、良いも悪いもあるまい」と吹っ切れた様子を見せていた。


 その時、斥候として走って貰っていたエメリアーナとハインフィードの団員たちが戻ってきた。


 赤黒いコートに仮面を付けてフードを被っている様を遠目に見てこれならばわからないだろう、と改めて安堵しているとエメリアーナが戻って早々声を上げた。


「雑魚だったわ!」と。


「はっ!? お前、勝手に交戦してきたの!?」

「はぁ!? 戦力把握もできたらしてこいって言ったじゃない!」


 実際に軍に突撃して戦力把握って。

 直ぐ引き返せばいいってものじゃないからな?

 斥候の意味よ……


「いや、それは人数とかの……いいや。兎に角、無事でよかった」


 それで、雑魚ってどのくらい?


 と、問えば僕が二段階強化を使えば近接でもギリギリいける程度の雑魚らしい。


「うん? それって雑魚なの……?」と納得がいかずに問い直す。


「ええ、雑魚よ! 私たちならどれだけ来ても大丈夫ね!」

「そ、そう……僕、まだ雑魚の範疇だったんだ……」

「えっ!? 違う! そうじゃないの! えっとね……ほら! あんたは魔法があるから!」


 ちょっとしょげた演技を入れればかなり気にしているエメリアーナ。

 正直、僕の方はそこまでは気にしていない。だって歴が違うもの。

 十年選手が僅か数か月の新人を雑魚だと思うのは仕方ないと思う。


 しかしなるほど。

 こいつはこういう風に誘導すればいいのか、と密かに心にメモをする。


「わかってるよ。気を使ってくれてありがとうな……」と、視線を逸らしながら返せばあわあわした様子を見せている。


 何時もこうなら少しは可愛げもあるんだけどな……

 そんな事を思いつつも、気を取り直して団員にどのくらいで来るかを報告して貰う。


「むぅ……どうであろうな。進行が遅すぎてなぁ。半刻はかかるかのぉ?」

「うむ。その程度で遠目に見えてくるであろうな。休憩などを挟まねばだが」

「がっはっは! あの速度では休憩など必要あるまいて!」

「「「然り然り!」」」


 まあ確かに大軍勢だと後続とも合わせなければいけないから、どうしてもスピードが落ちる。

 それで一時間という事はかなり近い所に居る訳だ。

 潜入を知らせる手紙は出したが、それきりだったから仕方ないな。

 ちょっと英雄の墓への遠征で時間使い過ぎたな……


 そう思いつつも気を取り直してもう一度手筈の確認を行う。


「侯爵、軍と共に僕らを見せつけたら、速やかに引いてくださいね。

 僕らは殿を務めますので、気にせず町に戻って門を閉ざしてください」

「うむ。心得ておる。よろしく頼む」


 よし、これでロドロア軍の方は大丈夫、と。

 後は僕らの作戦予定の説明だな……と言っても臨機応変になるけども。


「僕らは殿だけど、戦況次第で逃げるからできるだけ纏まって指示が届く所に居て欲しい。

 場合によっては、変な方向へと一度逃げたりするけど従ってね」


 一応、雑魚だとは聞いてはいるが数の暴力もある。

 敵に飲まれなければ速度はこちらの方が圧倒的に上の筈だから重傷を負う前に撤退できれば問題無い筈だが、命令違反されてはどうにもならないのでもう一度伝えておく。


「問題ありませぬぞ。命令違反をする者など、一人しかおりませんからな!」


 そう言ってエメリアーナの頭をガシガシと強く撫でるライアン殿。

 首がゴリゴリいいそうな程に押さえつけながら頭を撫で回されている。


「いったいわね! この馬鹿力! 私はもうレディなのよ!?」

「なんとっ!? エメリアがレディとな!?」

「ぬぅ?」

「むぅ?」

「ほぉう?」


 腕を組んで顔を突き出し首を傾げエメリアーナを囲い『本当かぁ?』と言いたげに観察する。

 彼女はそんな不躾な視線を気にもせず「なによ!?」と間違ってないでしょ、と主張する。


 しかし、おっさんズに囲まれてからかわれている姿が珍し過ぎて面白い。


 そう思っていると、とうとうほっぺを突かれたり鼻を摘ままれたりし始めた。


「や、やめ! こらぁ! いいわ。やるのね!?」とキレたエメリアーナが全力で攻撃を始めるが団員たちは腕を組んだまま全てを完全に避けて見せている。


「もう、今は戦時中なんですよ!? やめてください!」


 攻撃しているのはエメリアーナだが、彼女を守る様に手を広げて立てば止まってくれた。

 そう。僕は知っている。これが逆では彼女は止まらないのだと。


「凄いですな。婿殿は……こうなったエメリアを言葉だけで止めるとは」


 そんな変な方向で感心をされている内に地平線に敵兵の姿が見え始めてきた。


「そういえば、どれくらい倒したの?」とエメリアーナに問いかけると「確認だから不意打ちで三十程度よ」と、ちゃんとやったでしょとドヤ顔する彼女を褒めつつも内心驚いていた。


 たった十人なのにちょっと小突いたみたいな感じで三十人減らすのかよ、と。

 でも、確かに全員が無傷でそれなら精鋭軍という可能性は低いな。


「サンダーツ軍の凡その数はわかる?」

「わかんないわよ。全員旗立ててる訳じゃないもの。皆もこれじゃわからんて言ってたわ」


「そりゃそうか」と、僕は諦め顔で返した。


 本当は軍のひと纏まりに最低一つは旗が立っていてその集団がどこの兵かを知らせる様になっているのでわかる筈なんだが……

 一応ライアン殿を除いた全員で行かせたのだが、そう言えばハインフィード軍は領地に缶詰状態で完全に魔物専門だったな、と人選を誤った事に気が付いた。

 まあ、人選と言っても僕しか居なかったし僕は打ち合わせがあったのだけど……


 そう思いつつも団員たちに問いかけてみた。

 正面からやれそうなの、と。


 すると彼らは首を傾げながら「そう報告したつもりでありますが?」と事も無げに言う。


 そうしている間にも、相手の軍から開戦前の口上が始まった。

 かなり遠いので何となく聴こえる程度だが、要は国に弓を引いた逆賊だと声高らかに宣言していた。


 そんな最中、皇軍の兵たちを見回して僕は一人安堵する。

 グランデは後方だし、サンダーツとサイレスが前面に競い合う様に出てきている。

 これは予定通りの行動だ。サイレス軍がサンダーツ軍を煽る形で競い合い前に出て、ある程度勢いがついたら競り負けた装いで足を止めてサンダーツ軍を押し出させる作戦だ。

 ロドロアと繋がっていた勢力にも圧を掛けるのを止めて、サンダーツ軍とサイレス軍に任せる様に伝えて貰ってある。


 それならば、サンダーツ軍だけが功を得ようと止まらず進むだろう、と。


 その目論みは当たり、段々陣形が崩れる程にスピードを上げだして思い思いに走り出す様が見受けられた。

 僕らハインフィード軍はロドロア軍の前に広がる様に並んで立ち、待ち構える。

 さっきの言葉は本気だったみたいでロドロアの騎士団長も一緒に並んでいた。

 ちなみに僕はハインフィード軍のすぐ後ろだ。何時もの後衛ポジションである。


 その形が整い、もうすぐ魔法範囲内というところで侯爵に目配せする。


「撤退だ! 引くぞ!」

「「「おおおお!」」」


 当然内情は伝えていないが、最初の打ち合わせ通りなので兵士たちも気にした様子を見せずに普通に走って下がっていく。

 それと同時に僕も魔法を撃ち出し大きな炎の玉を連発で飛ばしていく。


「さて、こっちも来るよ。推定五百くらいかな。必要なら声を掛けて気にせず下がってね」

「「「おう!」」」


 と、声を掛けた途端彼らは何故か僕を残して全員で前に走っていく。


 えっ……なんで!?

 ここでも僕を一人にするのこの人たち……

 指示が届く場所に居てって言ったじゃない。

 信じらんない。


 そう思いつつも魔法の援護も止められないので状況確認しながら打ち出し続ける。

 幸い、サイレス軍は結構いい感じに離れてくれている。

 他にサンダーツ軍に追従する軍は無さそうだ。

 どういう形かは知らないが話は通っている様で遠くで様子見している。


 そんな確認をしている間にもバタバタと敵兵が千切れ飛んで行く。


 物凄い猛攻だ。

 完全に一振り一殺の猛攻。

 あはは、これ……撤退の必要性すら無いわ。


 うわぁ……ロドロアの騎士団長さん、驚いて棒立ちになっちゃってる。

 まあ、僕も止まってないで少し詰めるか。


 と、再び彼らの裏手に付いて援護射撃を行い続ける。


 うん。敵軍からの魔法攻撃込みでも英雄の墓とそう変わらないな。

 だって全員魔法を簡単に避けてるもの。


 というか全てにおいて完全回避しているだけじゃなく、エメリアーナの御守りもしてるな。

 まあ、守る必要がなさそうなほど猛攻を喰らわしてるけど。

 流石はエメリアーナのガチ攻撃を腕を組みながら余裕で避け続けるだけはある。


 もうすぐ半分か……早いな。


 そう思った瞬間、逃げ出し始めた。


「ギリギリまで追い立てるよ!

 ただ、後方の軍の魔法射程に入ったら反転して撤退するからよろしく!」

「任せなさい! ガッツリ減らしてくるわ!」


 エメリアーナが突出し、それにハインフィード騎士団も続くが、ロドロア騎士団長はもう諦めた様子。僕と並走して後を追っている。


「ははは、とんでもないな。流石は国内最強と謳われる英雄の墓守だ。

 最後に共に戦えると勇んだ自分が恥ずかしいよ……」

「ええ。英雄の名は伊達ではありませんよね。

 私も婿入りして最初の遠征であれを見た時は震えましたよ。

 まあたった百人であの森を間引いてたんですから、あのくらいは必要なんでしょうけどね」


 それすらも国の怠慢だ。

 最初は父上から皇軍が一年間防衛に入ったと聞いた時『その程度はやってくれたんだな』と思ったが、今は逆に百人しかいない状態だと知ってたんなら放置すんな、としか思えない。

 なんでそれで問題無いと判断して兵を引き上げたのかがわからない。


 なんて考えていたら、先の方へと行っていた皆が反転して戻ってきた。


 その時、近づき過ぎて恐怖を煽ったのか、ポーズなのか、幾つかの軍が突撃の合図をして僕らを追い始めた。


「うーん、団長さんはこのまま疾走してください。ちょっと相手の足止めてきます」


 と、ロドロア騎士団長に指示を出して、足を止めて魔力を多く練り込み、巨大なファイアウォールを制御限界まで遠くに最大規模で出した。

 当然当てる為ではない。相手側も楽に止まれる距離での発動だ。

 僕も熱くて肌が痛いくらいなので突っ込んでは来れないだろう。


「うわぁ、あんたこんな大きいのも出せたのね……」

「うん。これなら熱で近づけないから相手も止まるしかないでしょ」


 そう言って直ぐに魔法を止めれば軍は足を止めてこれ以上追ってくる様子は見せなかった。そうして僕らは悠々と戦線を離脱する。


「ねぇ、あんなに弱いならサンダーツ領に直接攻め入った方が早くない?」

「あぁ……それ、できたら楽でいいよね。けど、罪状はどうする?

 皇家に協力して兵を一杯出した忠臣的な行動を取ってるから理由付けが難しいよ」


 最近割と良い答えを出すので何か面白い提案をくれないだろうか、と逆に質問してみる。


「えっ……あぁ、証拠が無いんだっけ。あれ……でも他領を攻めたわよね。内乱罪は?」

「確かにね。他家に攻め入ったから、で責任が生じるんだけどね。

 最初からふざけるなと強気に出ればいいものを国が言い訳に耳を貸すから……

 けど戦争で活躍したら皇太子妃の座あげるよ、って協力させた直後に罪人ですは厳しいかな。他の貴族たちが『尽くして協力してもああなるんだ』って思っちゃうでしょ?」


 うん。やっぱり成長していると思われる。

 ちょっと前までわからないけど殴る、しか言わなかったからな。


「リヒトは? 本当に何も無いの?」

「うーん。エメリアーナが言った内乱罪ってのの関りでやれる事は一つある。

 トルレー子爵家から奪った領土の返還だね。返すのは当然の流れだし問題無いからさ。

 今の状態は不当占拠だからその賠償もセットでね。

 その賠償を莫大なものにすればある程度の効果はありそうだけど、払わないだろうなぁ……」


 どちらにしても僕らが攻め落とすっていうのは違う。

 僕らが何度もこうして手伝っていたら良い駒として皇帝は僕らを使い倒そうとする勢いで色々やらせるだろう。

 実際、困っている所にやってくれそうな臣下が居たら普通、頼むものだし。


 そう言ってエメリアーナに僕の感想を伝えると「確かにそれは気に食わないわね……」と深く考え込んでいた。

 彼女の心根は良くも悪くも真っ直ぐだ。

 考えられる様になればなるほど理不尽を言わなくなるだろう。

 恐らく彼女にはこういう知識が圧倒的に足りなかったのだと思われる。

 このまま成長すれば、もしかしたら短気すらも直るかもしれない。

 つまり、僕が楽になるので『頑張って考えるんだよ』と慈愛を込めて心の中で応援した。


 そうして結構な時間疾走してロドロアの町に戻ってきた。

 敵はしっかり置いてきたので僕らも中に入れて貰い、宿に行き軍服へと着替える。


「軍服ならあの白いのの方が似合ってたのに!」

「いやいや、あれは軍服じゃなくてパーティー用の正装だよ。式典とかでも使う高いやつね」

「ふーん。まあ、こっちも悪くはないけどね! 仲間、って感じだわ!」


 濃い灰色と黒のズボンとシャツだ。皆統一されているがおっさん連中は着古しすぎていて僕らのとは別物にも見える。

 まあ確かに皆防具も外しているし統一感は多少出てるけども。


「さて、ハインフィードの軍服にも着替えたしサイレス候の所へ行って状況を伝えてきますか」


「私も行った方がいい?」と問うエメリアに全員で行く事を告げる。


 僕らはまだ戦場で姿を晒していないのだ。このままだと給料泥棒と見られかねない。

 少なくとも従軍はしてますよ、というアピールの為にも全員で行った方がいい。


「降伏、させるのよね……」

「そうだね。その手筈になっている」


 それすなわち、ロドロア候や騎士団長たちの処刑という事に繋がる。だが、それをやらねば街中まで攻め込まれてしまう。

 そうなればロドロア騎士団は元よりハンターたちまで犠牲になるだろう。


 だからやるしかない。


 と、自分にも言い聞かせつつ再び町を出て回り込む様にサイレス軍の所へと急いだ。





 旗を立て軍服を着て姿を現しているからか、近づけば直ぐにわかってくれて案内された。


「閣下、ただいま戻りました。進捗の報告をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「おお、リヒト殿! 無事で何よりだ。勿論構わぬぞ。

 伝令、グランデ軍へとご子息の無事を伝えよ」


 そう言ってサイレス候は立ち上がると、気を利かせてテントへと場所を移してくれた。

 そこで、ロドロア独立の真相から、今までの皇家の不義など色々と話した。


「むぅ……それは何とも言えぬな。しかし、そんな裏話があったとは。

 確かに嫡子が勝手に独立を宣言したとしても、学院襲撃までやったらもう取り返しはきかぬ。

 何を主張しても通らぬと諦めたのだろうな……」


 まだ戦時中なので逃がすとなっても誤魔化しが利く、とついでにルシータちゃんの事も話して未成年という事で通らないだろうかと尋ねてみた。


「ふむ。それも降伏宣言できなかった理由か……合点がいった。

 しかしその場合どこかの家の保護が要るな。つまりは恨みを残さぬようにせよということだ」

「という事は、僕が保護すると言えば通ると思っても?」


 そう問いかけると、その様な裏話があった故ならば先ず通るであろうとの言葉が返った。

 当然、事に関わりの無い上で未成年だからだが。


 それならば安心だ、とロドロア候との家の名を使った約束も全て話し、降伏して首を差しだす事ももう決まっている事を告げた。


「何!? そ、それではもう既に制圧済みということではないか!?」

「制圧と言っていいかはわかりませんが……ロドロア候は元々戦う気が無かったみたいなので」

「そ、その功もうちで、という事で良いのか?」

「それはそうなりますよね。その為にサイレス軍として従軍しているのですから」


 そう告げると、サイレス候はかなり元気になり「すぐ行こう!」と進軍の準備を始めた。

 ちなみに、サンダーツ軍はあの時の後退のままに勝手に撤退したらしい。

 凡そ残り百名程度まで減っていた様に見えたとか。


 その時の戦いはどの軍も戦慄しながら見ていたそうで、僕らはロドロアの悪魔と呼ばれているそうだ。


 その為に兵も委縮していたので、サイレス軍が降伏させれば凄い手柄となるぞと喜んでいた。


 しかし随分怖い二つ名がついてしまったものだ。まあ僕じゃない事だけは確かだけど。

 魔法を裏から撃ってただけだし。

 そんな面持ちでサイレス軍と共にロドロアの町へと向かった。


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