第8話 さっそく絡まれた僕ら……


 とうとう通い始めることとなってしまった学院への登校初日。


 前回とは違い、校舎の中には学生が沢山いる状態。

 他の生徒たちも久々の登校だからか、下駄箱付近で立ち話をしている者たちが散見される。


 そこにリーエルとエメリアーナを連れ立って入ると予想していた声が聴こえてきた。


「うわぁ、やだ……あいつ居なくなったんじゃなかったの?」

「いつ見てもデブすぎ。きもぉ……」


 僕に目を向けた女子生徒がすれ違いざまに音量も落とさずに吐き捨てる様に言う。


「ねっ?」と、説明した通りだろと告げるとリーエルが「おまちなさいっ!」と声を荒げて、女子生徒を追いかける。

 ここで仕掛けても仕方ないと制止しようとするが、それよりも早く相手側が止まって振りむいた。


「は? 何この豚……」

「知らない。あっ、でもこれもあの豚と同じ種じゃないかしらぁ」


 二人の女子生徒はリーエルを見下し、ぎゃははと大声で笑いだす。


 その瞬間―――――――パァァンと乾いた音が響き名も知らぬ女子生徒が吹き飛んだ。

 

「ぎゃぁぁぁ!! いたいっ! いたいぃぃ!!」と叩かれ吹き飛んだ女子生徒。


 その前に一人の少女が腕を組んで立ち、視線で射殺さんとするばかりに見下ろしている。


「あんた……私の家族を侮辱してタダで済むと思ってるの?」


「決闘よ、決闘!」と、泣いて転がる女子生徒にエメリアーナは容赦なく決闘を申し付けた。


 だが、彼女は泣きわめくばかり。

 連れの女性も身を引いて黙り込んでいる。


 その間にも女子生徒の泣き声にどんどんと野次馬が『なんだ、なんだ』と集まってきた。


 いや、何度も説明したがな……

 決闘は叩く前に申し込めと……

 もうどう止めて良いんだかもわからないよ。


 そう思って頭を抱えていると三人の男子生徒が「何事だ!」と野次馬をかき分けて歩いてくる。


 皇太子殿下ご一行さんだ。

 また面倒なのが来た、と頬が引き攣る。


「またかグランデ……これをやったのはお前か?」

「これは皇太子殿下……勿論違いますが?」


 と、睨みつけてくる殿下の問いに冷ややかに返す。


 なんで僕が叩くんだよ。

 あれだけ侮辱されたのに暴力事件なんて起こした事もねぇよ。僕は品行方正だよ?

 こいつ、いつもそう。何故か目の敵にしてくるんだよな……


「ほら、早く何とか言えって言ってんのよ!!」

「ひ、ひぃぃっ」


 あらやだ。エメリアーナさん強すぎ。

 皇太子ご一行すらガン無視じゃないですか。


「待ちたまえ! 何があったと言うのだ!」


 そうして間に入ろうとする皇太子。

 その所為で僕の背筋に悪寒が走る。


 本当にやめてくれ。

 エメリアーナがお前を殴ったら大問題になるだろうが……


「こいつが私のお姉様を豚と罵ったのよ。だから決闘を申し込んでるの。何か悪い?」


「それは本当か?」と倒れている女子生徒に尋ねるが「い、言ってません!」と泣きながら首を横に振る。

 あまりの堂々たる嘘にエメリアーナも続く言葉を失う程に苛立ち、言い返せていなかった。

 流石にここで黙っていてはいけないと気乗りしないながらも前に出る。


「キミさ……衆人環視の中であれだけ大きな声で言ったのに、その発言が通ると思ってる?

 皇太子殿下の問いにキミは嘘を吐いているんだよ。わかっているのかな……」

「グランデ、お前も見ていたのか?」


 そう問われ、頷いて一連の事情を話す。


「最初は僕が愚弄されたのでね。その無礼さを理由に僕の婚約者、リーエル・ハインフィード女辺境伯が彼女たちを呼び止めようとしたのだけど、正面から何この豚とか罵ってくれましてね」

「ふむ……確かにそれは頂けないな。改めて聞く。事実でいいのか?」


 そう皇太子が改めて問うと、連れ立った女性が「わ、私は言ってないです!」と青ざめた顔で首を横に振る。


「いや、キミも豚と同種だと嘲笑っていたじゃないか。

 それに殿下がお問いになっているんだよ。皇族に対する偽証の重さ、知ってる?」


 そう言い返すと二人とも黙って口を開かなくなった。

 周囲からも『流石にあれだけ言ってちゃな。こっちにまで聞こえたし』なんて聴こえてくる。


「どうやら事実の様だ。これでは叩いた方が一方的に悪いとも言えなくなったな。

 ハインフィード辺境伯、今回は暴力を不問にするという事で矛を収めてくれないか?」


 彼は、僕らの長が彼女だと知り「学院には私から言っておく」と手打ちにしようと提案する。


「リヒト様、よろしいですか?」と問うリーエルに「エメリアーナを守るにもその方が良いね」と簡潔に応えると「わかりました」と皇太子に了承の言葉を返した。


「待って。あいつは叩いたからまだいいけど、こいつは逃げた上に嘘ついたクズよ?」


 と、後ろに逃げていた女子生徒の片割れを指さすエメリアーナ。


 指を差された女子生徒は顔面蒼白で凍える様に身を縮めている。

 そんな状態で追い打ちで攻撃すれば、よくわかってない野次馬からの非難は免れない。


「おいぃ、引き際を考えて。

 言ってる事は正しいけど、校内での暴力禁止を破ったのをこれで手打ちにしようって話なの。

 理解してない奴らが勘違いするし、ある程度わからせたから終わりにしとこってこと」


 そう言って大勢に好奇な眼差しで見られている事を目配せして伝える。


「あ、そういう事……仕方ないわね」


 野次馬を見渡して、周囲の評価を受けている事に気が付いてくれたエメリアーナは、珍しくすんなり理解して引いてくれた。

 そうして話が済むと殿下の御付きが野次馬を散らして教室へと戻って行く。

 僕らもそれに続いた。

 

 エメリアーナは一年、僕らは二年の教室へと赴き、二人並んで席へと座る。

 特に座る場所は決められてないので並んで居られることに安堵しながら聞き耳を立てると、先ほどの一件が囁かれていた。


「あの豚の片割れ、辺境伯とか呼ばれてたんだけど……もう当主ってことだよな?」

「マジ? はったりじゃなくて?」

「いや、真実っぽい。殿下の前で爵位偽れないだろ?」


 とか。


「何か居なくなっていた間にあの落ちこぼれが調子に乗り出してんだけど……」

「見てた。婚約者が辺境伯だからって認められる訳ないじゃんね。あの落ちこぼれの豚が」


 うーむ。流石落ちこぼれのDクラス。

 本当に貴族子女なのかと問いたくなるくらい品位が無い。

 何時にも増して酷い。

 まあ、無駄に目立ってしまったのだから仕方が無いが。


 だが、懸念していた辺境伯という権力に怯えて、居ない所で陰口を叩こうとする感じではないので安心した。

 舐めた行いをすればしっぺ返しがあると知らしめたいのだ。

 こちらとしては派手にやれる表で喧嘩を売って貰わないと困る。

 裏からでも出来なくはないがこんな愚か者どもに時間は掛けたくないのだ。


 そうして始まった授業は魔法学。

 魔導文字の効果だけを黒板に書き出してどの文字が当てはまるのかを答えさせる様だ。


「ではフォルト、わかる範囲で書いてみなさい」


 フォルト伯爵家の嫡子か。

 一年の時は自分がこのクラスのリーダーだという顔をしていたな。

 落ちこぼれのクラスだからか殆ど面子も変わってないし立ち位置もそのままだろう。

 教師に当てられたのも調子に乗って声も抑えず周囲に人の悪口を言っていたからだ。


 まあ人のというか僕のだけど……


「えぇぇ!? こんなのまだ教わってなくないかぁ?」とチャラけて適当に書いているが、さわり程度にはもう授業でやっている。まだ教えてない魔導文字の効果も混じってはいるが。


 そう言いながらも彼の書いた答えは全てにおいて間違っていた。というか魔導文字ですらない。近い形も無くはないが……これは酷い。


「はぁ……すべて間違いだ。人の事をグダグダ言う暇があったら己を正せ」


 チッと舌打ちをして正面から教師を睨みつけながら席へと戻るフォルト。

 品が無いにも程がある。


「この問題、わかる者!」


 その声に試しに手を上げてみる。


「む、グランデか。勉強してきたならやってみろ」


 そう言われたので、黒板に手をかざし魔力を飛ばして黒板の前に魔導文字を浮かべた。


「っ!? 一瞬で全てだと!? この距離をか……しかしそもそもグランデは」と一番後ろの席から一瞬で全部並べたことに驚愕する教師。


 だが、実際凄いことではない。

 ダンジョンに通う魔術師なら最低これくらいできないとウォール系の魔法が意味を成さない。

 恐らくは魔法を使えないと思っていた事や構築速度に驚いているのだろう。


 まあ本来は前に出てチョークで書くものだし、そりゃ驚きも追加されるだろう。


 こうして必要が無いのに技術をひけらかすというイキリみたいなことをやっているのも、こういう方が絡んでくれるだろうという目論見によるもの。先生には悪いがやらせて貰った。

 良い先生なので授業中に諍いを煽るのは申し訳ないのだが、リーエルがイライラしちゃってるしこっちもゆっくりはやってられない。

 そんな彼女の手を握り微笑み掛け『大丈夫だから見ていてほしい』とこっそり伝える。


「失礼。前に出て書いた方が?」

「いや、構わん。全問正解だ」


 その声を聴いて手を下ろしながら魔導文字を消すと、先ほど答えられなかったフォルトがインチキだ、魔道具を使ってるんだろ、だのと騒ぎ立てている。

 こちらをギロリと睨んで来たので合わせて見下しながら鼻で笑ってやれば、授業中だというのに立ち上がりこちらに歩いてきた。


「おい、調子に乗ってんじゃねぇぞ。豚ぁ!!」

「はは、調子に乗っているのはどっちだろうな。

 今までは慈悲の心で見逃してあげていただけなんだが、キミ立場をわかって侮辱してるのか?

 学院には権力を持ち込まないというのも持ち帰って家同士で話すなら問題は無い。

 僕はもう婚約者の名誉も守らねばならぬ身になった。容赦はしてあげれられないのだが?」


「まあ、キミ程度に家の力なんて必要無いけど」と小さく呟くと、流石はクラス一気の短い男。そのまま殴りかかってきた。

 殴られた瞬間だけ強化を使い、微動だにせず耐える。


 それはいいのだが、ヤバい。

 リーエルが血走った目でプルプル震える程に怒ってる……

 事態を早く収集せねば!


「先生、証人になって頂けますね? これよりフォルト家に私から文を認めますので」


 教師も僕が初めて抵抗を見せているからか、目を見張っている。

 リーエルは大丈夫かなと目を向ければ、何故か彼女はノートにカリカリと一生懸命、何かを書いていた。


「て、てめぇ、家の力は使わないんじゃねぇのかよ!?」

「はぁ……何処までバカなんだろうね。キミはもう暴力事件を起こした犯罪者。

 家の力なんていらないんだ。僕単体の力でも裁けるんだよ。法的に訴えるだけだし。

 もしキミに打開する方法があるとすれば、決闘を申し込み勝つくらいじゃないかな?」


 やれやれ、と首を横に振り小馬鹿にする様に笑いながら「望むなら受けてあげてもいいよ?」と問いかけてみる。


「い、いいだろう! てめぇに決闘を申し込む! 俺が勝ったら変な事すんじゃねぇぞ!?」

「いいよ。キミからの決闘を受けてあげよう。だからさ、僕が勝ったら学院、やめてくれる?」

「構わねぇよ! おめえみたいな豚に負ける筈がねぇからなぁ!!」


 うわ、悲しいくらい本当に馬鹿だ。ここまで愚かだと小さな子供を陥れているみたいだな。

 パンチが一切効かなかった事で、負ける可能性が高い事は気付ける筈なんだけどな……

 まあ自業自得か。

 自分より上位の貴族令息を相手に正面から何度も罵倒して暴行までしたのだ。

 やめさせられて当然の話。同情する必要は無いな。


「いいのか、グランデ……決闘に関しては教師は口を出せないぞ?」

「ええ。先生にはただ事実を証言して頂けるだけで構いません」


 そう。貴族社会では誇りを穢されては生きていけないと言われるだけあって、学生であろうと決闘は許可されていて学業、つまりは授業より優先させられる。

 申し込まれた側に受ける受けないの自由はあるが、互いに要望を言い合い勝った方が己の言い分を通せるという、かなり古い時代にできた悪しき風習というやつである。

 

 さて、闘技場へと場を移しますか、と歩を進めようとするとリーエルが先生にノートの切れ端を渡していた。 


 えっ、何事?


 と気になって問いかけると、一字一句間違わぬように今の会話を書き綴ったそうだ。

 記憶が真新しいうちに間違いが無いか確認して持っていて欲しいと頼んだらしい。

『言い逃れは絶対にさせない』という事の様だが、書いたのが僕の婚約者だからなぁ。

 とはいえ気持ちは凄く嬉しい。


「ありがと」と微笑んで手を握ると「弱い方との決闘で安心しました」と彼女も微笑む。




 そうして闘技場へと移動し、舞台に上がる。


 周囲には同じ教室の生徒たち。

 そして教室の窓からは全校生徒が野次馬している。


「はっ! どんな特訓してきたか知らねぇが、お前みたいな豚には負けることはねぇよ!」

「いいから早く宣誓しなよ。怖くなっちゃったのかな?」


 こいつとは会話する価値も無い。

 早く進めて欲しいと言いたくなる様に煽る。


「ぶっ殺してやる!! アレン・フォルト、己の意思で決闘することをここに誓う!」

「リヒト・グランデ、同じく誓おう」


 宣誓が行われ、刃引きした剣が渡される。

 本当に悪しき風習だ。こんなもん使って頭叩いたら死ぬのになぁ。


「決闘の終了条件はどちらかの降参、失神のみだ。

 殺した場合、罪は問われぬが約束事は無効となる。

 教師として死ぬ前に降参するよう切に願う」


 教師が苦い顔でそう告げ、手を上げて「始め!」と声を上げる。


 態々相手の出方を見るつもりはない。

 開始と同時に強化を使い、こちらに振り下ろされる剣の横っ面を全力で叩いた。

 バキィンっと金属を叩きつける音が大きく響き、フォルトの剣が吹き飛んでいく。


 それを確認してこちらも剣を捨てた。

 剣が無いから負けた、などと勘違いされては困ると。


「なっ!! 何しやがった!? てめぇ!!」


 威勢は良いが、顔は恐怖に歪んでいる。

 剣を弾き飛ばされた衝撃で初めて力の差を理解し始めたのだろう。


 無言で軽めにボディブローを決めて横っ面を軽く殴る。

 

「ぐっ、がはっ、ま、待て!!」


 と、蹲るフォルトの髪を持って掴み上げて連続でボディブローをかませば、もう既に降参しそうな顔に変わっていた。


「うぼっ、ぐぼっ、がはっ、まっ……はぁはぁはぁ」


 地べたに這いつくばって息を荒くするフォルトを蹴り飛ばすとごろごろと転がっていき、こちらに手を向けて声を上げた。


「待てって言ってんだろうが!!」


 と、差し出す手を蹴り落とし踏みつければバキィと木の折れる様な音を響かせた。


「ぎぃぃやぁぁぁぁ!!!」


 腕を押さえてごろごろと転がる。

 丁度距離も空いているので周りの空気を確認しようか、と周囲を見渡せば皆一様に青ざめていた。


「降参しないなら締め落とすがどうする。どっちにしてもキミは負けて退学だけど」

「ぐぅぅぅ! こんなの無効だ! こいつは絶対何かやってる!! 調べさせろぉぉ!!」

「そうだ。やっている。強化魔法を使っているんだよ」

「嘘だ! てめぇは魔法を……」


 と言いかけた所で授業中に僕が魔導文字を浮かべた事を思い出したのだろう。

 魔道具を使っているなどと騒いでいたが、授業の問題を勝手に答えてくれるような都合の良い魔道具など無い。


 それにしても意外だ。

 イキり方からして強化くらいは使えると思っていたのだが……


 確かに問題を起こされたら困ると魔法を子供のうちから覚えさせる家は多くない。

 人格的にクズと言える兄上たちもそこを心配されて魔法習得は学院からだった筈。

 そもそも魔法は一般的な領主の仕事には必要無い物だし、どちらにしても学校で学ぶものだ。


 その学校でも放出系は禁止されているし、強化も使えば注意はされるので誰も自分から使いはしない。

 故に誰がどれほど使えるかはわからない様になっている。


 恐らくは魔法を全く知らないフォルトには理解できなかったのだろう。先ほど浮かべた魔導文字が円形に組んで発動させられる精度だという事実に。

 真面な頭さえあれば想像くらいは付いたはずなのだが……


「な、なんでてめぇが魔法を……」

「そんな事を説明してやる義理は無い。それよりも勝敗を決めなきゃ終わらないだろ」

「い、嫌だ……退学になんてなったら嫡子から外されちまう!」


 いまさら何を言ってるんだろうか。

 今までずっと外されて当然の行いをし続けてきたのに。

 そんな品格の欠片もない口調や言葉を続けているだけで危ないとわからないのだろうか。


「当たり前のことだ。そうなったら困るから誰もそんな約束しないんだよ。

 してはいけない約束を軽くする馬鹿が当主になったら家が潰れてしまう。だから降ろされる」


「当たり前だろう」と事実を突き付けてやると彼はその場で泣き出そうとしたので、直ぐに首を絞めた。

 下手に同情を誘われるとこっちが悪役にされかねない。

 頭の悪い子供は直ぐに可哀そうとか言い出して事実を捻じ曲げようとするから心配だ。

 今までの嘲笑の視線を見るに学生の大半が加害者側なのだ。

 僕を悪者に貶めた方いいと動き出す恐れもある。


 そう考えて締め落とせば直ぐに先生が「そこまで!」と声を上げてくれたので舞台を降りてリーエルの所へと戻った。


「お疲れさまでした。素敵でしたよ」

「そう言ってくれてよかった。やり過ぎない様に注意はしたけど、少し踏んだだけで腕が折れちゃうとは思わなくてさ」

「確かに……私と比べても遥かに弱いので逆の意味で驚きました。

 よくあれでリヒト様に突っかかったものです。確かにあれでは幼子ですね……」


 僕としても魔法を一つも使えないとは思ってなかった。

 まあ、あれほど馬鹿で短気な子供に魔法を覚えさせたいと思う親は少ないか。


 そうして話していると「リヒト!」と校舎の方から僕を呼ぶ声がした。

 視線を向ければ少し悪い顔でにっかり笑っているエメリアーナが教室から顔を出していた。


「よくやったわ! それでいいのよ!」と大きな声を上げる彼女。


 エメリアーナは、容姿も良くて滅茶苦茶強い。そして偉そう。

 そんな彼女が肯定するというのは良い状況を生みやすい。


 全校生徒が見てる中で大声を上げられるのは気は引けるが、どっちにしても無視する気は無いので笑みを返して手を振っておいた。


 まあ身内だからと思われるだろうが、関係が良好だと知られるだけでいい。

 そうしてポジションを獲得していけば、正面切って罵倒してくる奴は居なくなる筈だ。


 うん。リーエルも元気になってくれたし、ここからはそれほど急ぐ必要は無い。

 けど、その前にフォルト家には本当に手紙を送らなきゃ。

 今回の事の顛末を認めて、先に送っておく必要がある。


 そうして屋敷に戻った僕はリーエルと相談しながら手紙を認めて、魔法印で蝋印を押してフォルト家に手紙を出したのだった。



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