第13話 バイトのアンナが金をくすねた

出来れば丸く収めたい。ともあれ証拠がない。数日後、辰徳は誰も居ない深夜に防犯カメラを三ヶ所に取り付けた。しかもカメラは壁の中に埋め込めた。壁紙には花柄のクロスを使用していて花の花弁の中に小さな穴が開いている。辰徳は我ながら見後な出来栄えだと微笑む。これは素人では分からない精巧なものだ。この事は理香子しか知らない。急に取り付けたとすれば従業員の反感を買う。言わなかったが開店当時に取り付けたと弁明することにした。その為にカメラや周辺に少し汚れまで付ける念の入れようだ。二日と三日後もアンナの証拠を裏づける映像を手に入れた。レジに現金を入れる振りをしてポケットに滑りこませていた。二人は動かぬ証拠を見つけガッカリした。出来れば従業員であってほしく無かった。

翌日、仕事が終わったあと、マクに声をかけた。


「マク毎日ご苦労さん、本当に助かっているよ」

「ボス今更なんですか」

「どう彼女とは上手くやっている。いずれ君もロシアに帰るんだろう。それを考えると暗くなってくるよ」

「なあんだボスそんな事ですか、二人で決めたんだけど、出来れば将来ロシアでパン専門店を日本で開きたいと語り合っていたんですが、まだまだ先の話ですが」

「ロシアには帰らないのか。そうかその夢、応援するよ。問題は資金面だが今の俺ではそれほど援助出来ないが、方法はあるさ。その時はいつでも相談してくれよ」

「ありがとうボス、その時は宜しくお願いします」


「あのさ……少し言い難いことだが最近、売り上げと現金が合わないんだ」

「えっ誰かくすねて居るとか」

「どうやら、そうみたいだ」

「まっまさか……アンナが」

辰徳はコクリの項く。マクは怒り出すと思ったが呆然と上を見上げた。マクは天井を見上げ何か思いだしたように語り始めた。

「ボス申し訳ありません。アンナは以前にもそんな問題を起こしてクビになっています。まさか日本に来てまでその癖が抜けず……過ちを犯しとは思ってもいませんでした。責任は僕がとり弁済します。どうか許してください」




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