第11話 やっと売り上げが伸びて来た
心配になりある日、彼に聞いて見た。するとマクは笑ってこう言った。
「ボスそんな事を心配していたのですが、新しい店だからこそ勉強になるのです。ボスと協力して新しいパンに挑戦する楽しみがあります」
「なるほど、そうだね。じゃあ今夜からでも新作に挑戦してみようか」
その日の夜、十一時だというのに工房の電気は灯ったままだった。理香子も夫が楽しそうにマクと並んで作っているのが嬉しかった。理香子は夜食代わり、オニギリと味噌汁を工房に持って行った。毎日パンばかり食べて居ると、おにぎりと味噌汁は上手い。マクも大喜び日本の伝統である、オニギリを美味しそうに食べる。
「ママ、日本の文化は素晴らしいですね欧州やアメリカにない文化、私の国でも日本食が流行っていますよ。今ではオニギリ専門店までありますよ」
「そうなの、それなのに私たちはヨーロッパのパン作りとは笑ちゃうわ」
「人は欲張りな生き物なのですよ。日本のコトワザに、ないものねだりと言う言葉があるでしょう」
「あら? 詳しいのね。こちらが勉強になるわ」
それから二カ月、今では彼は家族同然であった。そして新メニューが加わった。
ストリーチヌイ(ライ麦パン)ライ麦のパンはいつでも、小麦よりもずっと手頃な価格だった。もう一品ザヴァルノイ このパンはまた、驚くほど長い間、新鮮さが失われず、カビも生えない。モルト(麦芽)を使うため、独特の甘酸っぱさと微妙な風味がある。材料費が安いのと長持ちするパンなのでロスが少ない。お客さん買い溜めが出来る。
ヒロシキは従来の物に、三種類ほど加えた。
売り上げは右肩上がりだ。口コミで大勢の客が増えた。ついには三人では間に合わなくなり二人の従業員を雇入れた。しかし問題が起きた。なんと理香子に赤ちゃんが出来た。
辰徳は嬉しいのと心配も重なる。理香子が居ないとどうすれば良いのかと思ったがマクが提案を出した。マクの彼女を雇って欲しいと。マクの気持ちは分かる。喜んでOKを出した。早速、母国に電話し呼び寄せる事になった。名前はアンナ・ショバコワだと言う。彼女は大学を卒業してアルバイト生活を続けていたが、どうしてもマクと別れたくなく喜んで応じた。それから半月後、マクの彼女がやって来た。アンナは主にはパンを作る事は出来ないが店で客の応対と食器洗い、掃除など裏方としての役目は充分果たせた。ときおりレジにも立つ。だが売り上げが延びて行くと人が足りない、そんな時に限って一人辞めた。辰徳は専門学校に頼みバイトを紹介した貰った。
新しく雇った従業店は専門学校から紹介して貰った人たち、将来やはりパン屋を開くのが夢らしくパン作りにもサマになっていた。それから一年、理香子は男の子を産んだ。これで当分、子育てに専念しなくてはならない。当初の心配をよそにマクを従業員のリーダーとして頑張ってくたれ。今では彼女とアパートで一緒に生活している。いずれマクは去ってゆくが、せめてあと二年居て欲しい。そうなれば息子の隼人を保育園に入れて理香子が復帰出来る。売り上げは順調だ。最近は一日三十万前後の売り上げがある。ざっと月、九百万の売り上げ。でも人件費と材料費、光熱費など差し引くと大儲けとまで行かない。
つづく
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