第7話  初めての挫折

 その日は泥酔しきって話も聞く事が出来なかった。勿論、店を開けられる状態ではない。翌朝、目が覚めてノロノロと布団から出てくる。カチンと来ている理香子は本当はとっ詰めてやりたいがグッと堪えて黙って朝食を出すが一言も発しない。辰徳はやっと正気に戻ったのか、遠慮がちに話し掛けた。

「理香子、昨日はすまん。同級生と口論になり喧嘩になっちまって」

「…………」

「なぁ、怒っている? 悪かったよ。君のせいにして」

「…………」

「なぁ悪かったって、何とか言ってくれよ」

「分かっているならいいわ。商売ですもの、最初から成功すると思ってないわよ。まぁ最初の試練と思って乗り越えないとね」


「理香子は意外と冷静なんだなぁ。なんで」

「冷静というより、きっとこんな日が来ると思っていたからよ。でもここからよ。私は絶対に挫折しないわ。言い難いけど辰徳さん、ほとんど挫折感を味わった事がないでしょう。聞いた話によると高校も大学もすんなり入り、最近まで勤めていた商社だって一発で入れたでしょう。だから挫折の免疫がないのよ」

「確かに、これまで俺の人生、結婚するまで、なんの障害もなかったし」

「ちょっとドサクサに紛れて何それ。私は障害じゃなく簡単に手に入ったと思っているの。ずいぶん安く見られたものね」


つづく


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