13
私だけじゃない。
気持ちはわかる。
目の前でマシンガントークを繰り広げている瑠華を観察していてしみじみ痛感する。
「でさあ、もう情けないしキモいし、、、」
彼女からどうしても会いたいとランチに誘われて会ってみたら何てことはない。以前付き合っていると言っていた彼氏の愚痴を聞いてほしいだけだった。前回の試合の後遺症もまだ残っているから断わりたかったのが本音だった。
「ねえ。どう思う?」
「どうって、、、」
聞かれても答えに困る。
「ありえないよね」
「じゃあ、別れるの?」
すると彼女はしばらく黙って
「考え中」
「え? だって嫌いなんでしょ?」
「それはそうだけど、何というか、、、でも、他で付き合っている人とうまく行けば別れる」
「他? 二股ってこと?」
「うん。みんな普通にやっているよ」
二股を普通にやっているのか。男性と付き合ったことのない私にはよく付き合う人も見つけられるし付き合えるなと、よくそんなに器用に立ち回れるなとある意味感心した。
「あのさ、今って幸せ?」
「え?」
どうしたんだろう。聞いた私がどうしてこんなことを聞いたのか自分でもわからない。
「幸せ、、、そうだなあ。微妙」
微妙。
同じだ。私もそうだよ。幸せとも言えないし、ついていないとも言えない。
そこへ注文したスパゲティーミートソースが運ばれてくる。
「とりあえず食べようか。ここのスパゲティー美味しいんだよ」
食欲はわかなかったが、瑠華がランチに美味しいお店だよと紹介されて入ったお店である手前、食べないわけにはいかず、無理やり口に入れる。
「美味しいでしょ?」
確かに美味しいのだろうが、今の胃の調子だと何もかも美味しさを感じることはできなかった。
「どうした?」
食事が進まない私を見かねて瑠華が声をかける。
お腹をたくさん殴られて蹴られて胃がおかしいんだよとは勿論言えず、ちょっとお腹の調子がとお腹を擦って見せる。
「大丈夫?」
ちょっと吐き気がして、心配されたとおりに大丈夫じゃなくなり少しトイレと言って席を立つ。
トイレの便器に消化しきれなかったスパゲティーが散らばる。
やっぱりまだダメだ。
試合を重ねるごと、接戦で私がお腹を殴られるごとに回復が遅くなっている気がする。思えば、私自身胃下垂で元から胃が丈夫な方ではなく、よく胃もたれを起こしたりお腹の体調を崩す体質だ。それを考えれば、腹部、特に胃を異常に痛みつけられることには向かない体質かもしれない。
大体吐き終わり、洗面台で変な顔をしていないかチェックして瑠華の元へ戻る。
「スッキリした」
「ホントに大丈夫?」
「うん、で、彼氏だっけ? 確かにそれはないよね」
半分聞いていなかった話を無理やり繋げてみる。彼女はそれに見事に乗ってまた彼氏の愚痴を語り始める。
形は違うけど、私と瑠華は今似たような境遇なのではないかと勝手に心のなかで結びつけていた。
私はフェチを追い求めて、今はまた欲求不満で誰かにこの言葉にできない気持ちを愚痴にしたいくらいだ。きっと、もう一度ジュリという選手とやり合ってもこの欲求は埋められないだろう。でも、他にどうすることもできないからクラブの選手も辞めることもできず身体の異変に気づきながらも続けようとしている。
同じじゃないか。
「それでも彼氏を手放さないのは、まだ何か期待しているからでしょ?」
不意にその言葉を投げかけると瑠華はハッとした驚いた顔をして停止していた。
ホントは好きじゃないけど、それがなくなると寂しくなる恐怖で手放せない。もしかするとそこにはまだその手放せないものに何かワクワクさせるなにかがあるかもしれないとそんなこと思っているんでしょ。
「わかるよ。期待できるものがあるって幸せなのかもね」
幸せなのか? 言った手前、自分に問う。それがあるせいで抑えが聞かなくて、日々高揚感と虚無感が入れ代わり立ち代わりに同居して徐々に自分が壊れていく。
「幸せかなあ」
彼女も少し首をひねった。
「じゃあ、別れればいいじゃん」
ムッとして吐き捨てるように言う。少し言い過ぎたと思った。それができたら苦労はしないんだよね。ごめんと心のなかで謝る。
「まあねえ、、、、」
それでも彼女は怒りもせずフオークでクルクルと自分の前に置かれたスパゲティーを回しながら外に顔を向けて考え込んでいた。
考えても無駄よ。
そんなことを彼女の姿を見て言いたくなった。それは同時に自分にも言っているんだとわかった。
ふと、彼女の腹部に目をやる。変わらずポテッとして柔らかくて脆そうなお腹。でも、今はそんなお腹に全く興奮も興味もわかない。
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