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見た目は強そうな雰囲気ではなかった。
コトさんがマッチングしてくれたというヒカルという子の試合に臨んだが、やはり拍子抜け期待外れかもしれないと気持ちが一気に萎えた。
身長は私よりも10センチかそれ以上低い小柄で筋肉はあまりついていない20にいくかいかないかの童顔な子だった。顔は可愛いがどことなく地味でそこがまた弱そうに見える要因でもあるかもしれない。
ルックスはまあ可愛いから許すか。
ゴングが鳴ると、モチベーションが下がり早く試合を決めて帰りたい私はいつもとは違って積極的に攻撃を繰り出す。そのパンチをヒカルはステップよく避けていく。
流石にコトさんの言うことだけはあって動きはいい。
さらに、試合が始まると今まで戦った子たちの中で何となく目が違う。強い何かを持っているがその奥には悲しさとかが潜んでいそうな不思議な目に変わっていた。
ウッ
攻撃を避けられ身体が前のめりになった隙に、膝蹴りを食らってしまう。
クラブで試合を初めてからまともに食らったかもしれない。うまくタイミングよく食らったそれで、一気に気持ち悪さが体中を巡り、呼吸が苦しくて、腹部の鈍い痛みでその場に少し蹲って立ち止まる。
それを観たヒカルは表情一つ変えず一気に攻撃を腹部へ集中させる。ガードをしながら何とか避けるが何発かキックやパンチが当たってしまう。
ヤバい。
脂汗が背中の当たりからジワリとにじみ出ている感覚がした。
焦って勝負に行ったのが悪かったのか。それとも相手が強いのか。そんなことはどうでもいい。今は何とかしないとこのままでは負ける。
ラッシュでヒカルの息も上がっている。私は攻撃をまともに食らうのを覚悟でクロスカウンターを狙う。
ウッ
前蹴りが運良くヒカルのお腹にヒットする。蹴りはあまりしてこなかったが、つま先が今までにないくらいにグニャリと相手の胃袋と鳩尾の間にねじ込まれていく。
その攻撃はかなり効いたようで、ヒカルはその場にお腹を抱えて膝をつく。
今だ。でも、私もダメージでうまく身体が動かない。と、そこにゴングが鳴る。
初インターバル。
リングの隅に椅子が用意されてそこへ座る。
息が上がる。気持ち悪さや痛みは和らいだが、足が震えて言うことを効かない。こんなに苦戦する試合は勿論初めてである。
ヒカルはというとなんとか自分で立ち上がりふらつきながら向こう側の椅子へうなだれるように座っていた。
私も長くは戦えないし、相手も同じだ。次で決める。
ゴングが再び鳴る。
最初に仕掛けてきたのはヒカルだった。不意打ちにも似たような電光石火のボディストレートを私のおへその当たりにめり込ませる。
ウッ!! オエ、、、
鳴り始めで正直相手の様子ですぐには攻撃できないだろうと油断していた私はまともにそれを食らい、あろうことか相手の腕に吐瀉物を吐いてしまう。
初嘔吐。苦しい。恥ずかしい。
嗚咽が止まらないが、その羞恥心は不思議とあった。そして、続けざまにボディストレートをもう一発鳩尾に食らってしまう。
ウッ
今度は吐くことは我慢できたが、後ろへ後退し相手に背を向けながらお腹を抑える。
ヒカルは容赦せず私に近づいてくる。その目は暗いが殺気に満ちた格闘家の目だった。
負けない。
私は身体に鞭打ってそのヒカルに突進する。
相手に寄りかかった間に膝蹴りを数発くらい、また嘔吐してしまうが突進したことで相手の体勢が少し崩れる。それを見て相手の右横腹に横蹴りをする。
ウッ!
ヒカルの顔が苦痛で歪んでお腹を抑える。
身長差で足技は私の方が有利だ。得意ではないが、私は蹴り中心の攻撃を繰り出す。相手をしっかり逃げないように固定して膝蹴りを連打した。
オエエエ、、、
膝に生ぬるい吐瀉物がかかる。そのままヒカルは大の字に床に倒れる。汚いなど思う暇はなく、濡れた両膝を相手の両脇腹のサイドに置いてマウントを取ると上からお腹に向かってパンチを何度も振り落とす。
ヒカルがポンプのように殴る度に吐瀉物を吐き出す。構わず何度も繰り出す。何発か振り落としたところで少し抵抗が弱くなりもうそろそろかと攻撃を緩めようとした。するとヒカルは下から私のお腹に向かって蹴ってくる。踵がお腹に当たり、攻撃自体は強くないはずなのに弱った私のお腹には十分なダメージを負わせ、その場を離れてお腹を抑えて嗚咽する。吐くものはもうなくて涎だけ滴り落ちて空嘔吐みたくなる。
見ると、ヒカルは何とか立ち上がろうとしている。身体はフラフラだったがその目はまだ生きていた。
ヤバイヤバイ。
私は慌てて立ち上がろうとするヒカルを押倒して仰向けにすると、前に他の選手がやったことを見たことのあるニードロップというものをヒカルのお腹に向けて行う。
両膝が見事に相手も同じように度重なる攻撃で弱りきった白い脂肪っぽいお腹にめり込み、グチュグチュという異常な音を聞く。
ゴハ、、、
大量に嘔吐し、白目を向いてヒカルは動かなくなった。
終わったか。終わったのか。
私は安堵とまた違う興奮を覚える。だが、同時に緊張が切れたのか、試合中以上の痛みと嘔吐感に一気に襲われて気が遠くなりその場に倒れ込むように気絶した。
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