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普段からあまり水分を取る方ではないから、500ミリリットルの水を一気に飲み干すのは辛かった。全部飲み干した後には胃のあたりが膨らんで少し体が重い。
この状態で本当に戦うのだろうか。
コトさんに教えられた場所は雑居ビルの地下だった。
更衣室でビキニに着替えて、コトさんの案内されるままに歩いていき鉄のドアを開けると、そこには周りを金網フェンスに囲まれた六角形のリングが見えてきた。リングの周りには軍人やガラの悪そうな人がちろほら座ってこちらに視線を向けている。
リングに上がる前に水を飲んで、空になったことをスタッフが確認してからリングに上がるように指示される。
「ねえ、緊張する?」
コトさんがリングに上がろうとする私にニコリと笑う。
「はい。ちょっと」
半分本当で半分嘘だ。
ルールは先程コトさんから教えてもらった。
試合は一ラウンド五分の一分インターバル。どちらかが失神したらそこで試合終了。逆に言えば、どちらかが失神するまで試合が続くデスマッチ。首から下の攻撃のみで、それ以外の顔面などの打撃を加えた場合はペナルテイー。それ以外は何でも攻撃は可能。腹部を攻撃してもいいし、足を攻撃してもいいし、首を絞めてもいい。
願ったりもないルールだった。確かに私自身がやられることもあるが、相手を思う存分殴れる。不思議とあまり怖さはなく、やってやるやってやりたいというワクワク感が勝っている心理状態だった。
勢いで戦うことになったが、素人の私が戦うことなどできるのだろうか。人を殴ったのは、小学校のあの時以来だ。どういう試合になるか見当もつかない。
リングに上がると、ほぼ同時に白いビキニ姿の女性が上がってくる。どうやら対戦相手らしい。中央で向かい合うと、164センチの私よりも10センチくらい背が小さい、女性というより女子という印象の華奢な女の子だった。顔が小さく、大きな耳が特徴的な可愛らしい子だった。
この子と戦うのか。
お腹に目をやると、脂肪が殆どついていない、スレンダーでクビレが目立つスタイリッシュなお腹が目に入る。それでいてお腹に筋は全く見えなくて、少しデベソ気味なおへその周りには少しお肉があって柔らかそうだった。
緊張と興奮が最高潮になっていると、そこに試合開始のゴングが鳴る。
女の子は開始と同時に私の周りをフットワークよく左右へ小刻みに動く。なるほど。体型差があるから、すばしっこく動いて速さで勝負するという感じだろう。冷静に分析できている自分が恐ろしかった。
と、女の子が私のお腹に向けて右腕を伸ばしていく。意外に遅く、それを簡単に避けると右腕を手で跳ね除ける。軽い。軽く除けたつもりだったが女の子は2,3歩後ろに下がる。
行ける。
私はよろけた相手を追いかけてそのままリングの隅に追い詰める。
ウッ!!
おへそのあたりに下から上へ右ボデイブローを繰り出す。体制を崩してよろけた状態でもらったからか女の子はその攻撃をまともに食らい、お腹に私の拳がめり込んで揺れる。
柔らかい。
女の子はお腹を抱えて蹲る。苦しそうな顔。頬が膨らんで今にも吐きそうな口元。そうか。この時先程水を一気飲みした意味がわかる。
そこからのことは記憶が曖昧になった。相手の髪の毛を引っ張って何度もお腹にパンチをしたのは覚えている。気づいたら私の足元に生ぬるい黄色いモノが広がっていて、女の子が白目を向いて床へ横になっていた。
何これ。
この高揚感。お腹の感触。
私は何をやっているのだろう。
明らかに年下の女の子を気絶するまでお腹を殴り続けて痛み続けて、見下ろしている。異常だ。異常だけど、興奮が抑えられない。こんなことは初めてだ。
リングからしばらく降りずにこの感覚をじっくりと時間をかけて味わっていた。
やはり私は普通じゃない。
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