4
悶々とした日々が続いた。
元に戻り、元の学生生活。
それが当たり前で何も感じなかったのに、それがたまらなくつまらなくて憂鬱なものになってしまっていた。
これからどうなるのだろう。
学校を卒業して就職して、人並みに誰かと付き合って結婚でもするのだろうか。その未来に何も魅力を感じなかった。
もっとあれが欲しい。
それがわかっているのに、それの手に入れるやり方を知らない。
気分転換にもなるかと一人で渋谷に買い物へ出向いたものの、購買意欲がなく、結局何も買わずに帰ろうと思いながらフラフラと駅へ向かって歩いていたときの事だった。
真横から一人の女性が私に声をかけてくる。
「突然声をかけてすみませんが、お金に困っていませんか?」
その一言を聞いて何か風俗などの勧誘かと思い、嫌だなと少し早足でその場を立ち去ろうとする。
「もしくは、格闘技に興味ありませんか?」
立ち去ろうとする私の前に先回りして行く手を阻んだ女性の顔をしっかり見ると、少し化粧は濃い印象だが目鼻立ちも整ったスレンダーな人だった。着ている服や身に着けているバックなどがブランドもので派手さを感じさせる。
そして今の私に格闘技という言葉が引っかかって足を止める。
「格闘技?」
「はい。格闘技に出るだけで高額な報酬が貰えます」
別に報酬はどうでもいい。
格闘技の勧誘というのが気になる。風俗の勧誘なら何度かされたが、女で格闘技の経験など全く縁のない私が出場するということだろうか。不思議な勧誘だ。
「あの、話がわからないんですが、私が戦うんですか? リングで?」
「はい。そうです」
誰と? 聞こうとしたが、素人の女が誰かと戦うというのはあまりにも非現実的でそんなことができるのだろうかと疑う。
「試合で仮に怪我をしても病院とかは確保して勿論こちらで治療費も入院費も出します」
ほら。やはり。怪我。入院。あやしくて危険すぎる。
「私、格闘技したことないし、興味ないんで」
女性を横からすり抜けて去ろうとすると、待ってくださいと女性は横から追いかけてさらに話を進めてくる。
「みんな始めはそうです。私たちはクラブと言っているのですが、こんなふうに街で見かけた可愛い素人の子に声をかけて選手として出てもらっているんで、喧嘩に毛が生えたようなもので戦っています」
可愛い素人の子。
その言葉にまた引っかかり足を止める。でも今度は我に返りすぐに歩こうとする。
「一応、これ。気になったらいつでも」
去り際に名刺を半ば強引に渡されて女性は追ってこなくなった。
しばらく歩いたところで、渡された名刺を見る。
絶対、胡散臭いよな。でも、可愛い女の子と戦える。
腹パンチをして苦しむ姿。私ができるかわからないが、そんなことができる場所が本当にあるならば最高じゃないか。
それを想像しただけでまた胸の鼓動が高鳴る。やりたい。やってみたい。
迷いながらも携帯を手にする。
一回だけ。一回だけやってみて、ヤバかったらすぐ辞めればいい。
勢いでそのまま電話をかけた私であったが、電話に出たあの勧誘した女性はワンコールですぐに電話に出てくれた。まるで私がすぐに電話を掛けるとわかっていたかのようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます