女の子に可愛いと言う時は、お世辞か適当に言っていることが殆どで、本気で可愛いとは思っていない。と、私の主観ではあるがそう思っている。


 その中でも、可愛いと思える数少ない女の子が瑠華だった。


 小学校を卒業して以来だったから、会うまで妙な緊張があったけれども、身長こそ少し伸びたが変わらないあどけない童顔の顔と愛嬌のある甲高い声で、何も変わっていなさそうだなと緊張は会った瞬間すぐに解れた。


「久しぶりだね」


 カフェに着いた私達は、おのおの飲み物を注文して見つめ合う。


「ホントに久しぶりだから、会ってくれるか不安だったよ」


「どうして?会うに決まっているじゃん」


 彼女に会おうと思い立って電話をかけた時は、まずこの電話番号が使われているかさえ不安だった。しかし、電話の向こうで聞こえてきた声の主はそんなブランクを感じさせずにすぐに会うことを承諾してくれた。


「でもさ、どうして会おうと思ったの?」


「ん? ただ、そうだな。思いつき?」


 思いつきなんかじゃない。ちゃんとしたきっかけはあった。その理由は彼女には話せない。


「そうか。それでも嬉しいなあ。それにしてもななは大人っぽくなったね」


「それはそうよ。大学生だし。でも、瑠華は変わらないね」


「変らないかなあ。それって褒め言葉? 私は大学生じゃないけど」


「大学行っていないの?」


「うん、フリーター」


 他愛もない話が続く。


 その間、私の目はずっと彼女の腹部へ目が向かっていた。


 白いワンピースを着ている彼女は、座っていることで腹部がぽっこり少し出ている。話をするたびにそれがわずかに収縮し、話題によって笑うとそれが一気に凹む。柔らかそうなお腹。


 あの時以来殴られたことなんてあるのだろうか。


 殴られたとしたら凹み具合はどんな感じになるのだろう。


 顔はどんな顔をするのだろう。


 せめて少し、少しだけ触ってみたい。


「ねえ。お腹」


「ん? お腹?」


「お腹って鍛えている?」


 何を急に? と彼女は恥ずかしそうにお腹を両手で隠す素振りをする。


「ええ? 太っていると言いたいの?」


「違う違う。単純に気になっただけ。昔とホントに体型変らないからさ」


「だから、その変らないっていうのは褒め言葉なの?」


 少し瑠華が剥れる。


 小柄な身体に幼児体型で痩せているけど脂肪はしっかりあるお腹。殴られるのにはうってつけのお腹。


 褒め言葉であるのは本当だ。ただ、その褒める意味合いがおそらく彼女の思っているのとはかなりかけ離れているとは思う。


「ねえ、少し触らせて?」


 触れる適当な理由が思い浮かばず私は半ば強引に彼女の隣に座り、お腹に手を伸ばす。


 嫌だあ。と言葉で抵抗しながらも彼女は触らせてくれる。


 柔らかい。


 スポンジケーキのように柔らかく、少し指を押し込んだだけで奥にめり込む。その押し込む強さを徐々に強くしていく。


「痛い。ちょっと痛いよ」


 少し顔を歪めた彼女にごめんごめんと慌てて指の力を少し緩める。


 こんなお腹でお腹を殴られたらどうなるのだろうか。そんな妄想をしただけで興奮する。その興奮は数日前の夜道と合致する。


「ホント、もう止めて。気持ち悪くなるでしょ? 吐いちゃう」


 振り払うように私の手を跳ね除けると、お腹を擦る仕草を見せる。


 吐いちゃう。


 その言葉に反応する。


 殴りたい。


 本当ならば、押すのではなく殴って本当に吐かせてみたい。そんなことは叶わず妄想ではあるのはわかっている。


「気が済んだ?」


 気が済んでいないが、私はとりあえず自分の席に戻る。


「ななってさあ、時々おかしいよね。ちょっと変わっているというか」


 おかしい。


 時々ではなく、ホントはいつもおかしくてだいぶ変わっている。


 瑠華も感じ取っていたのだ。それとなく隠して生きたつもりだが、今のようについ手が出たり、言動に現れることがあったのかもしれない。


 それでも小学校以来このことは封印し、いつからか自分の中で抹消していた。でも再び出てきてしまった。これは明らかに厄介なことであることは間違いなかった。間違いないが、もうどうにも抑えることは不可能だと自分でもわかっていた。



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