フェティシスト

AKIRA

シャッターが降りた商店。規則正しく並ぶ街頭。人がほとんどすれ違わない静まり返ったアーケード街。そこを少し肩を落とし気味にゆっくりと家路へ向かう私。


 いや、お金を稼ぎたいだけ。


 お金を稼いで好きなもの買って、気の合う友達と遊んで、好きなもののためにただただ稼ぐ。だってバイトだもん。それ以下でもそれ以上でもない。


 でも、違う。 


 何も違わないけど、バイトを終えて疲れてこんな夜中に歩くのはちっともおかしくはないけどおかしい。


 その違和感がわかったら私は今頃何をしているのだろう。


 そんな葛藤が何年も続いている気がした。それに慣れたのか、こんな夜を除いてはそれが違和感とさえ思えなくなって出てこなくなった。


 前方に、何やら叫んでいる二人組がいる。片一方が髪が長く女性。もう一方は180センチくらいの背丈とガッシリとした筋肉質な型位から男性だとわかる。


 さらに接近すると、怒鳴り合いながら互いの服をつかみ合っているのがわかる。


 喧嘩?


 と、男の方が素早く女の腹部に太い腕をねじ込ませるように腹パンをした。


 へそ出しの服装で腹部がよく見える服装だったこともあり、その拳が女のお腹に深々とめり込むのがわかる。そして女は悲鳴にも嗚咽にも聞こえる声を発してその場に蹲る。さらに男は女の髪の毛を引っ張り上げると無理やり立たせて女に膝蹴りを繰り出す。


 おお、マズいな。


 勝手に高鳴る胸の鼓動。だが、まずは仲裁に入ろうと間に割って入る。


「どうしたんですか。止めてください」


 暗闇だからよく分からなかったが、二人ともにすごい剣幕だった。特に女の方は二発食らっているにも関わらず、男に殴りかかろうとしないばかりの勢いで静止する私を乗り越えて男に何か罵声を浴びせる。その口の周りは白い何かで汚れていた。


「ちょっと、ちょっと」


 二人を身体を張って抑えながら、私は怒り狂う女ばかり観ていた。


 よく見れば女は小柄で小麦色の顔は幼く、可愛らしいモデルのような容姿だった。やがて女は自分のお腹を抱えてその場にまた蹲る。


 相当痛かったんだろうなあ。


 興奮。何だこれ。


 疲れが一気に吹っ飛んで、何かに目を覚まさせられたような感覚。


 男は私の間をくぐって女の方に手が出る。


 制止に入ったのに、その力を何故か緩めて男の行動をあえて止めずに次の行動を見届ける。女は男に押されて地べたに転がる。そこにつま先蹴りが女のお腹に突き刺さる。


 瞬間、女は嘔吐した。


 瞬間、私の興奮はピークを迎える。


 瞬間、何かを思い出されて何かが湧き上がって吹き出した。


 

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