第18話 最初からこれで良かった

 なんか……いつの間にか囲まれていた。


 それが僕らの現状である。


「――動かないでください! あなた方が動かれた瞬間っ、我々は現在詠唱中の極大攻勢魔法を発動し、あなた方への攻撃を仕掛けることになります!」


 そう告げてきたのは、騎士甲冑を身に着けた長い金髪の美人エルフさんだ。

 ……現地人?

 周囲の兵隊たちも尖った耳をしている。

 この辺りはエルフの支配地域だったりするんだろうか。

 いずれにしても……ピンチな気がする。


「うわ、ちょ、アレ本物のエルフ? 配信めっちゃ盛り上がってるんだけどっ」


 早坂さんがスマホを眺めてそう言っている。


「きゃー怖いです♡」


 セラフィムさんがどさくさに紛れて僕に抱きついてくる。


「――みんなっ、動くんじゃないぞ! ここは隊長として俺が話を付けてみる」


 一方で、藤岡隊長がエルフの女騎士に話しかけ始める。


「待つんだ! 攻撃しないでくれ! 俺たちはそこの刻暁石を確保したいだけだ!」

「こくぎょうせき……? あぁ、アポカリプスストーンのことですか。でしたら、その要求は飲めません」


 エルフの女騎士がそう言った。

 彼女がさっきから代表して応じているところを見るに、少なくとも兵隊の中では一番立場が上なんだろうな。


「アポカリプスストーンは我々にとっても大事な魔力供給資源です。先日より世界各地に現れるようになった他世界からの侵略者たちに渡せる代物ではありません」


 ……確かに、よくよく考えてみれば僕たちって侵略者じゃん。

 そもそも世界全体のダンジョンが異世界に繋がったのって僕の予言の影響だから、こっちの人たちに何か悪影響が出たら僕のせいなんだよな。

 日本を救うために仕方ないことだったけれど、改めて考えてみると……僕は良くないことをしたんだろうか。


「実際、君たちからすれば俺たちは侵略者だろうな。よし分かった。ならここは一旦退こう。だから見逃してくれ」


 藤岡隊長がそう言った。

 恐らく隊の安全を優先したんだと思う。

 出発式の挨拶で命を優先しろって言っていた人だし。


「退くのですか?」

「ああ。だから見逃してくれ」

「でしたら、我々が見ている前でさっさと引き返してください。少しでも妙な真似をすれば攻撃します」

「分かった。――さあみんな、帰るぞ。余計なことはせずに、回れ右だ」


 藤岡隊長がそんな指示を出してくる。

 ……僕が予言を駆使すればあのエルフたちの意思は問答無用で変更出来るけれど、僕は罪悪感のせいでそれをする気分になれなかった。

 むしろ帰宅後に転移の裂け目を消す予言でもした方が、建設的なんじゃないかと思ってしまう。

 要するに現世と、異世界の、関わりそのものを消す。

 それが多分、一番平和なんだよな。


 あるいは、日本の裂け目だけを残して、それ以外の裂け目は世界中の人の記憶ごと消す予言をすれば、日本だけが特権を得た状態になる。その上でこっちの人たちと平和的な交渉が出来れば、日本だけが豊かになれるだろう。


 そもそもはそういう独占状態だったんだ。ところが日本政府が裂け目の存在を世界に公表してしまったせいで、日本が裂け目目的で侵略される恐れが出てきてしまったから、僕は他国にも裂け目を生み出して日本が侵略されないようにしたわけで。


 でも今思えば、それは回りくどい対策だった。公表の事実を予言で消せば良かったのに、僕はそうしなかった。いや、それが出来るほどの言霊能力だと当時は思ってなかったんだ。でもこの言霊能力の異様さが分かってきた今なら、そちらに舵を切り直すことも可能だと理解出来る。


 日本以外に存在する裂け目を消して、僕ら以外の記憶から異世界の情報も消す。

 ひとまず日本政府だけが異世界を知っている状態に戻すんだ。

 よし、やろう。

 そんな風に考えながら、僕は調査隊と一緒に一旦帰ることになった。


 その後、帰宅してからすぐに僕は――


稿


 と予言した。

 すると翌日――あれだけ連日世界中のニュースを賑わせていた異世界関連の情報が、ぱったりと途絶えてしまった。


「……田沼の予言ってもうアレじゃん。マジで世界改変能力じゃん」


 翌日の学校で、早坂さんからヒソヒソと話しかけられた。


「……ヤバくない?」

「ヤバいと思う……」


 使い方次第で、本当に僕は世界を思い通りに出来てしまうと思う。

 もはやちょっとした神様だ。


 だからこそ、この力に溺れないようにしたい。

 少なくとも悪い方向にだけは、転がらないように気を付けたいところだった。


 とにもかくにもこれで、日本政府だけが異世界の情報を独占している状態に戻った。この状態で異世界と友好関係を結べれば、日本はウハウハだ。

 

 僕個人のメリットは……なんだろう。

 この状態に戻してあげたことと引き換えに、異世界のフリー探索権を貰えないかどうか政府と交渉出来ることだろうか。

 早坂さんの冒険心を満たせそうだし、ちょっとそっちの方向性で動いてみようと思う。


   ◇


隠しスキル:【予言】……現実に限らない範囲において、言ったことが現実になる

現状レベル:16

言霊実現度:中+7


【レベルの上昇が発生しました(経験値ブーストによる補正込み)】

レベル:119⇒126

攻撃力:307⇒328 A

防御力:310⇒326 A

敏捷性:293⇒313 A

  運:320⇒345 A

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