第17話 改正と包囲

「――あ、あれは刻暁石だな……」


 藤岡隊長がクレーターの中心に鎮座する物体を眺めながらそう言った。


 異世界を訪れて早々、その雰囲気を味わう余裕すらなく、僕ら異世界調査隊はあっという間にエネルギー資源を見つけてしまった形である。


「とんでもない大きさだな……直径数百メートルはあるぞ……」


 藤岡隊長はもとより、他の隊員たちもざわめきと共にクレーターの中心を眺めている。蒸気をくゆらせる刻暁石は、恐らく早坂さんの言う通り、たった今空から降ってきたんだと思う。僕がエネルギー資源を見つけると予言したから、それが反映された形で……。


「Tくん……これが君の力、なんだな?」


 藤岡隊長が、畏怖すべき存在でも捉えるかのように、唖然とした目付きで僕を眺めてくる。


「素晴らしいな……」

「いや……本当に僕の力かどうかは分かりませんよ? 偶然かもしれないですし……」

「いやいや……こんな偶然はないだろう。君が巻き起こした必然に違いない」


 そう言いながら、藤岡隊長は自前のドローンカメラに目を向けて、


「この光景は現在、首脳会談で定められた規定通りに配信している……恐らく隊員たちの中にも独自に配信を始めている者も居るだろう。ゆえにこの光景は現世において認知され始め、日本のトレンドを埋め始めているかもしれない。Tくん、君は奇跡を巻き起こす男として更に名を上げることになるだろうな」


 そうだろうか……、と思うものの、


「わ、見てよほら! 出発前に始めたあたしの配信、もう数万人観ててさ、みんなTくんすげえって言ってる!」

「Tくんさんっ、私の配信でもTくんさんの話題でチャットが加速していますよっ!」


 早坂さんとセラフィムさんが口々にそう言っている。

 他の隊員の配信でもそうなっているらしい。

 Tくん大バズり待ったなし、の状態っぽいな。


「さてと……しかしこれほどの刻暁石をどう持ち帰ったもんか」


 藤岡隊長が悩ましげに唸っている。


「……そもそもエネルギー資源の保有権は、第一発見国が4割だったな。4割をきっちり測るのも簡単ではない。首脳たちめ、世界の足並みを揃えるためとはいえ、めんどくさい取り決めをしてくれたものだ」


 本当だよなぁ……エネルギー資源の保有権なんて、第一発見国が10割でいいだろうに。


 ――あぁでも、だったら僕がその取り決めを書き換えてしまえばいいのか……。


「藤岡隊長、僕に任せてください」

「なんだと?」


 藤岡隊長がそんな反応を示す中、僕は――


10


 と宣言した。


「ほ、本当なのかTくん?」

「少し待ってみてください」

「……分かった」


 そんなこんなで10分後――


「――なに!? それは本当か!?」


 藤岡隊長のトランシーバーになんらかの連絡が入ったようで、藤岡隊長は大仰なリアクションでそれに応じていた。それから――


「――すごいぞTくん! たった今首脳たちが通話で意思疎通を図ったことにより、異世界で発見したエネルギー資源の保有権が本当に第一発見国で独占出来るようになったとのことだ!」


 ――ほら来たぁ!


「これで日本はこの数百メートル単位の刻暁石を独占出来る! 新エネルギー開発に必要不可欠な刻暁石がこれだけあれば、日本は世界を出し抜いて一歩前進出来るな! これから解体作業に移行して持ち帰りを図るぞ!」

 

 とのことで。

 僕による保有権改正の影響で、日本の異世界調査隊は幸先の良いスタートを切ることが出来たけれども――


「――お待ちなさい!」


 そのとき轟いた、鋭い声。

 僕らがハッとしてそちらに目線を移してみれば――クレーター外周部に騎士甲冑を身に着けた女エルフを筆頭にして、数百人規模の兵隊が宙に魔法陣を展開しながら僕らを包囲していたのである。


   ◇


隠しスキル:【予言】……現実に限らない範囲において、言ったことが現実になる

現状レベル:15

言霊実現度:中+6


【レベルの上昇が発生しました(経験値ブーストによる補正込み)】

レベル:115⇒119

攻撃力:296⇒307 A

防御力:297⇒310 A

敏捷性:285⇒293 A

  運:308⇒320 A

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る