第13話 推されていた
異世界調査隊の隊員募集に応募した数日後。
僕らのもとに選定試験の案内が届いた。
選定試験を突破することで晴れて異世界調査隊のメンバーになれるってわけだ。
そんなわけでこの週末、僕と早坂さんは試験会場である冒険者センターの本部を訪れている。都内にあるこの本部は地下に巨大な模擬ダンジョンが作られていて、どうやらそこが試験に使われるようだ。
「有名どころの配信者さんが結構居るね」
ロビーに集められている参加者を見て、早坂さんがそう言った。
確かにA級やS級を売りにしているダンジョン配信者が割と居る。
特に有名なのは、スキル《聖剣》持ちの美少女剣士セラフィムさん。
一見すると可憐な黒髪美少女なんだけど、《聖剣》が持つ不浄の効果で魔物を一撃死させることが出来るS級冒険者だ。ゴスロリ装備がトレードマークで、ソロ攻略の垂れ流し配信をよくやっているイメージだろうか。
たまにダンジョン内の休憩時に食事の配信もしているけど、本当にたまにだからなかなか遭遇出来ない。出来たらめちゃラッキー。
リアルだとJKらしいけど、すごく落ち着いた性格だから、大人びた見た目も相まって大学生以上に見えないこともなかった。
「あ」
そんな中、本日もゴスロリ装備のセラフィムさんがこちらに目を向けてきた。しかも歩み寄ってくる。同じ美少女JK配信者として早坂さんに興味があるのかもしれないね。
「――ファンですっ、Tくんさん!」
ところがどっこい――セラフィムさんが話しかけに来たのは白マスクを被っている僕だった。
僕かよ。
「……ぼ、僕のファンなんですか……?」
「はいっ。あんなに予言が当たるなんて凄いなと思いながらいつも楽しく拝見させていただいておりますっ。率直に言えば推しなんですっ、Tくんさんは私の!」
「そ、それはどうも……」
「お会い出来て光栄ですので握手をしていただいてもっ?」
「あ、はい、全然……」
右手を差し出されたので握り締めると、その手は柔らかかった。S級美少女配信者から推されている挙げ句に握手もねだられるとは……夢心地だな。
「――おほんおほん!!」
そんな中、早坂さんがなんか急にデカい咳払いをしていた。
「ちょ、ちょっとそこの人っ、Tくんとのお触りは短めでお願いしたいんだけど!!」
「あ、いのりんさんもいらしたんですね」
「あ゛あ゛ぁ゛ん゛?」
今存在に気付かれたっぽい早坂さんが青筋を浮かべていた。
お、抑えて抑えて……。
「あのねぇっ、S級だからって調子に乗ってんじゃないってのよ!」
「いえいえ、別に調子になんて乗っていませんよ。推しに会えたから握手を求めただけのことです。いけないことなんですか?」
「い、いけないっていうか……そ、そいつはあたしの……」
は、早坂さん……僕らの関係を表に出すのはさすがにダメだって分かってるよね……?
「あたしの、なんですか?」
「あ、あたしの……パシリだから勝手に触られたら困るってこと!」
パシリに落ち着いたようだ。
うん、それでいいよ。
「ぱ、パシリだなんて酷いです!」
一方でセラフィムさんが真に受けて怒り始めてしまった。
ありがたいけど面倒なことに!
「Tくんさん! こんな人のもとは離れて私のもとで一緒に活動しましょう!」
「ちょっ、余計な口出しやめてよ!」
「不良ギャルは黙っててください!」
「ポッと出こそ黙ってて!」
マズい! キャットファイトが始まりそう!
そんな風に慌てていると――
「――皆様、お待たせ致しました」
と、ロビーに涼やかな声が木霊した。
それは先日の探索庁でお世話になった伊万里さんのモノだった。
ナイスタイミング。
どうやら試験参加者に向けて説明が始まるらしい。
これで一旦2人の加熱した思考は収まるはず……。
「ふん、今は引きますけれど……私は必ずや推しを助け出してみせますっ」
そんなことを言いつつ、セラフィムさんが離れていった。
……なんだか面倒な勘違いを引き起こしてしまったものの、かといって実はパシリじゃないんだよ、って説明するわけにもいかないし、なんとも悩ましい。予言で意思を操作するのも、緊急時でもなければ出来ればやりたくないしね。あんなの洗脳だし。
……まぁ今はとにかく、伊万里さんの説明を聞くことにしようか。
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