第12話 有名人はラクじゃない

 鋼鉄スライムのおかげで、僕はもちろん、早坂さんのステータスも一応Aに突入し――翌日、僕らは冒険者センターにて晴れてA級ライセンスを手に入れていた。

 

「やったね田沼っ。これであたしら探索庁の異世界調査隊に応募出来るじゃんっ! A級以上が条件だったよねっ?」


 放課後に立ち寄った冒険者センターから出つつ、僕は頷く。

 

「とりあえず応募は問題ないね」


 異世界調査隊の募集締切は確か明後日だったと思う。

 とりあえず今日のうちにネットで申し込んでおかないといけない。


 応募すれば即合格ではなくて、どこかに集められた上で実戦的な試験を突破する必要があるっぽい。

 まぁでも、今のステータスなら苦労せず乗り越えられそうな気がする。予言の力もあるし。


 でも僕は今、具体的にはどれくらいの強さなんだろうか。数値として大台を超えたのは分かっているけど、どれくらいの相手にどれくらいの余裕を噛ませるのかが分からない。昨日レベリングを終えたあとはまだダンジョンに行ってないから、その辺の力関係が不明瞭だ。どこかで腕試しをしてみようかな。


「――おっ! もしかしていのりんじゃねっ?」

「うお、マジ!?」


 そんな風に考えていると、近くに居た若い2人組の男が早坂さんの存在に気付いて駆け寄ってきた。早坂さんのファンだろうか。一応帽子で変装しているんだけど、分かる人には分かってしまうらしい。

 ちなみに僕は素の状態。でもそれが逆に変装なわけだ。配信ではマスク姿だから。


「いのりんっすよね!?」

「あ、はい……いのりんでーす。どもどもー……」


 帽子で変装していることから分かる通り、早坂さんはプライベートにおけるいのりんバレをあまり望んでいない。だからこれ以上騒ぎにならないように小声で応じている。冒険者センターの周りは人が多いから、特に慎重な感じだ。

 ところが――


「うおーっ、やっぱりマジモンのいのりんっすよね!!」

「めっちゃスタイルいいっすね!」


 と、彼らはテンション高く接していた。

 うーむ……、あまりよろしくないな……。


「あの、すみません……プライベートなのであまり騒がないでもらえます……?」


 好感度的な観点から、早坂さん本人の口からはそういうのを言いづらいと思って僕がそう告げると、彼らはウザったそうに、


「ンだよ、あんた何? 彼氏?」

「は? いのりん彼氏いんの?」


 と勝手にボルテージを高め始めていた。

 めんどいな……。

 とはいえ、早坂さんの好感度に傷を付けるわけにはいかない。

 だから僕は、


「……ただのパシリですから、妙な勘違いはやめてください」


 と告げた。

 すると――


「――ぷっw パシリかよw」

「じゃあ身の程弁えとけってパシリくんw ファンが楽しく絡んでるだけなんだからお前は引っ込んどけよ! おら!」


 どんっ、と身体を押されてしまった。

 挙げ句、もう1人の男が早坂さんの手を掴んで「ねね、お茶行こうよ」と強引に誘い始めていた。

 だから僕は、


「……いい加減にしてください」


 と回り込んで行く手を塞ぐ。

 すると、僕の身体を押してきた男が腕まくりして首をこきこきと鳴らし始める。


「だからウゼえってお前。一応言っとくけどさ、俺、B級だよ? 全冒険者の上位10パー。パシリくんなんかイチコロだぜ?」


 シュッ、シュッ、とシャドーボクシングで威嚇してくる。

 だから僕はこいつらで腕試ししてやろうと思った。

 でもこういう場で自分から手を出したら負けなので、


「B級程度イキるとかバカでは?」


 と煽るように言ってやった。

 すると――


「――うっせえ死ねやクソボケカス!!」


 という幼稚な罵詈雑言と共に、そいつが右ストレートを打ち出してきた。それはもちろん舐めてかかっていいモノではない。冒険者の拳は、無能のプロボクサーよりも圧倒的に攻撃力が高い。ステータスの分だけ身体能力に上乗せがあるからだ。

 ましてやB級。その攻撃力はコンクリを砕く程度のモノではあるだろう。

 だから直後、僕の頬に拳がめり込んだ瞬間――ゴギッ、とイヤな音が鳴った。

 もっともそれは――


「――がああああああ!!! なんだコイツかてぇ……!!」


 僕の頬ではなく男の拳が砕けた音である。

 なるほど……A帯のステータスだと、下級の攻撃を受けたら無効化どころか逆にダメージを与えることになるのか。ちなみに避けようと思えば避けられたけども、これは身体能力を測る実験だからわざと受けてみた感じである。


「く、くそ……てめえ……」

「悪態つきたいのはこっちですよ。ちなみにこれは正当防衛ってことでお願いします」


 そう言って僕は男の肩を小突いた。たったそれだけのことで「あぎゃああああああああああ!!」と脱臼が発生して泣き叫んでいた。こりゃあいい。A帯のステータスだとB級なんて相手にもならないってことだな。有意義な結果だ。


「ご、ごめんなさいマジですいませんしたいのりんとはお茶行かないんで見逃してくれませんか……!!」


 泣き叫ぶ男をよそに、早坂さんの手を掴んでいた男が、おびえながらそう言ってきた。だから僕はこう言ってやった。


「僕はそもそも見逃すつもりだったんですけどね? それなのに突っかかってきたんだから今更見逃すわけないでしょう。てなわけで――


 予言フォーマットでの意思操作。

 僕にそう告げられた彼らは、「そうだ……いてえけど自首しに行かないと……」「あ、ああ行こうぜ……」と僕の前から立ち去って警察の方向に歩いていった。


 よし、腕試し終了。これまでの僕なら身体能力でB級に敵うことはなかったけど、今の僕なら余裕綽々だった。言霊を使わなくても、同格相手なら戦えそうだ。言霊を使えば、正直どんな格上にも負ける気はしない。


「早坂さん、大丈夫?」


 さておき、早坂さんを気遣う。


「うん、大丈夫……ありがとね、田沼……」

「気にしないでいいよ。それよりずらかろう。ちょっと騒ぎになりかけてるし」


 そんなこんなで、僕のアパートに避難した。

 それから早坂さんに改めてお礼を言われてキスをされ、それだけにとどまらず何度もえっちをした。早坂さんをあの手のヤツらに渡さないって刻み付けるように、早坂さん自身も僕からそうされたがっていたので、何度も何度もえっちをして、今日は2人の絆を深め続けたのである。


   ◇

 

隠しスキル:【予言】……現実に限らない範囲において、言ったことが現実になる

現状レベル:12

言霊実現度:中+3


【レベルの上昇が発生しました(経験値ブーストによる補正込み)】

レベル:106⇒108

攻撃力:275⇒279 A

防御力:279⇒282 A

敏捷性:263⇒268 A

  運:283⇒289 A

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