第11話 レベリング
異世界凸配信、っていうのが世界中で流行りだした。
日本は異世界への裂け目が現状ひとつしかなくて、そのひとつが厳戒態勢下にあるから配信者が勝手に抜け駆けするのは不可能だけど、他国に出来た裂け目はどうやら色んなダンジョンの中に無数に存在しているようで、一般冒険者が勝手に凸るのを規制するのが難しい状態であるらしい。
だもんで、動画サイトでは海外勢の異世界凸が後を絶たない。もっとも、ほとんどの配信は電波が届かなくなってブラックアウトしてしまう。でも中には偶然なのかなんなのか普通に電波が繋がったまま配信出来ているチャンネルもあって――
「すごく、神秘的な光景だよね」
と、そんな配信を僕の部屋で一緒に眺めている早坂さんがそう呟く。
確かに神秘的。
どこかの森の中を歩いているんだけど、クラゲみたいな葉っぱが光っていて、現実の森とはまるで違う。
でもこの配信は最終的に配信主がオークに殺されるショッキングな映像と共に終わってしまった。チャンネルはグロ規制にでも引っかかったのかBANされていた。
「日本で異世界に行くには、どうすればいいんだろ」
「早坂さんは行ってみたいの?」
「だって未知の世界ってワクワクしない?」
早坂さんは少年みたいなことを言った。
「ワクワクはまあ、するけどさ……でも早坂さんはもうお金いっぱいあるんだし無理する必要ないよね?」
刻暁石のおかげで来年税金取られてもウン億円は手元に残るだろうし、贅沢しなきゃもう何もしなくていいんだから、リスクを犯す必要はないのだ。
「まあね。でもお金あるからってなんもしない人生って暇そうだし」
「……それは確かに」
「だから異世界行けるなら行ってみたいよね」
とのことで。
早坂さんは意外と冒険心溢れる人なんだな。
そうなると僕としては、そんな早坂さんが無茶をしないように傍で歯止めというか、きっちり守らないといけない。
「でさ、日本で異世界に行くにはどうすればいいんだろ?」
「多分だけど、これから探索庁が募集する異世界調査隊に選ばれればいいんじゃない?」
異世界調査隊は、探索庁が一般冒険者の中から募集しようとしているモノだ。
資源の回収を目論む上で、まずは実地調査を本格化しようってことらしい。
「まぁ、募集要項を見る限り狭き門っぽいけどね」
確か最低でも応募者本人がA級冒険者でないといけない。
僕らはまだ、早坂さんがD級、僕に至ってはステータス付与時のG級のまま。
レベリングしてステータスの評価値をA以上に上げないと話にならないわけだ。
「募集期間も短めだから、応募するなら鋼鉄スライムの集団でも倒して高速レベリングしないと無理だろうね」
異様な経験値をくれる鋼鉄スライムは出現率が低い。
生息ダンジョンも限られているし、なかなか出会えないことで知られている。
それと大量に出くわすのは、あり得ないと言ってもいい。
「でもさ、田沼の予言で遭遇率上げられたりしない?」
「……やる価値はあるか」
そんなこんなで翌日――『今日の配信で僕らは大量の鋼鉄スライムに出会う』という予言を行ってから、鋼鉄スライムの生息ダンジョンである横浜ダンジョンに再びお邪魔した。
すると――謎の転移パネルを踏んだ直後に見知らぬ広間に飛ばされ、そこには、
「――わっ!! 見てよ鋼鉄スライムの群れっ!!」
――すげえ!!
――鋼鉄キングもおるやん
――G級の横浜ダンジョンにこんなとこあったんだ
――なんレベ上がるのコレ……
――うらやま!!
チャット欄が盛り上がるのも当然の光景だった。
本当にたくさんの鋼鉄スライムが居る。
うじゃうじゃしてる。
派生種含めて勢揃い。
鋼鉄スライムは逃げ足が速いけど、ここは広間だけで完結してるっぽいのでそもそも逃げ場がない。
僕は店売りの剣でちまちま鋼鉄スライムを倒し始め、早坂さんはケルベロスと一緒に一網打尽。
こうして僕らは凄まじい量の経験値を手に入れ、その様子がまたトレンド入りして界隈を賑わせていたそうな……。
◇
隠しスキル:【予言】……現実に限らない範囲において、言ったことが現実になる
現状レベル:11
言霊実現度:中+2
【レベルの上昇が発生しました(経験値ブーストによる補正込み)】
レベル:18⇒106
攻撃力:68⇒275 A
防御力:64⇒279 A
敏捷性:59⇒263 A
運:72⇒283 A
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