第10話 世界情勢を考えて
『――続いてのニュースです。探索庁は新たなPR大使として「謎の占い男子Tくん」を起用することを正式に発表しました。謎の占い男子Tくんは動画配信者いのりん氏のライブ配信においてバズったことで知られ――』
という僕関連のニュースが報道番組で流れている。
そんな様子を、僕はアパートの一室で眺めていた。
「えへへ、田沼大抜擢だよね」
探索庁を訪問してから数日後が経っている。
今は放課後で、日が暮れたくらいの時間帯。
今日は配信とかはせずに早坂さんとのんびりしている。
……のんびりと言いつつ、さっきまで何度もえっちをしていて、僕も早坂さんもベッドに寝転がって少々疲れていた。
そんな中、早坂さんが嬉しそうに言葉を続ける。
「先日の調査隊の一件で探索庁のお偉いさんが気に入ってくれたから、一気にPR大使にまでなっちゃってさ」
「まぁ、恐れ多い気もするけどね……」
「良いじゃん別にっ。あたしは好きな人がでっかくなってくれて誇らしいしっ」
そう言ってむぎゅっと密着してくれる早坂さん。
僕らはまだ裸のままだから、そうされるとおっぱいがじかに押し当てられる状況だ。早坂さんは着痩せするけど脱ぐと凄くて、それを堪能出来る僕は幸せ者だと思う。
そんな早坂さんはハグだけにとどまらず、唇を重ね合わせてくれる。早坂さんに好かれている事実は僕に自信を与えてくれて、僕の普段の振る舞いは最近割とシャキッとした気がする。
「にしてもさ、あの調査隊の人たちってガチで異世界から帰ってきたんだよね? 田沼がそう予言した影響で」
「うん……公に発表されてる通りだよ」
探索庁は先日、新宿ダンジョンの裂け目を世間に公表した。元々は誰も立ち入らないように裂け目周りを立ち入り禁止区域に設定して隠していたらしいけど、好奇心旺盛な冒険者がそれを無視して立ち入ってしまうこともあったそうで、いっそ公表して危険性を知らしめることにしたらしい。
公表に踏み切った理由はもうひとつあって、裂け目の向こうが異世界だと確定し、危険性をきちんと説明出来る状態になったからでもあるとか。
帰ってきた調査隊の証言によれば、僕の予言通り裂け目の向こうには中世ファンタジーな異世界が広がっているそう。
規模は不明。
少なくとも街一個しかない箱庭ワールドではなく、かなり広大な世界が目視で確認出来たという話だった。
「僕はさ……異世界という存在の公表、あんまり利口な選択肢とは思えないんだよね。政府が決めたのか探索庁が決めたのかは知らないけど、下手打った感は否めない」
「どうして?」
「だって恐らく日本だけだよ? 異世界と繋がってるのは」
「それって何か問題?」
「異世界って、言うなれば未開拓の資源埋没地だ。それを日本だけが独占してる状態って、他の国から見たときにどう映ると思う?」
「あ……なんかズルいかも?」
そう、有り体に言えばズルい状態だ。
各国はダンジョン由来(刻暁石由来)の新エネルギー開発に躍起になっているが、その最先端を行っているのも日本だ。新エネルギー開発で頭ひとつ抜けている中で未開拓の資源埋没地が手に入った日本は、その異世界を産出地とした原油等の旧エネルギーで新エネルギーでは補えない旧来システムの維持も盤石になる。
日本が強くなると困る国はいつの時代もある……今の時代で言えば、ユーラシア連合共和国は黙ってなさそうな気がする。あの国はUCCW(United Country of Central World――旧アメリカを盟主とした米大陸連合国)への侵略を企んでいる都合上、太平洋に面する日本を海洋基地として欲している節がある。
日本はUCCWと同盟を結んでいるから下手に手出し出来ない国とはいえ、未開拓の資源埋没地を手にしたことによる日本の軍事強化を恐れるならば、ユーラシア連合共和国は強攻策に打って出る可能性も捨てきれない。
スキルやステータスの影響でどの国も軍隊はパワーアップしている。ひとたび戦争になったら洒落にならない被害が出るだろう。
……僕が考えるような懸念は政府の人たちも考えているとは思うけど、今回の公表はどうにも勇み足な気がしてならない。好奇心旺盛な冒険者への警告を優先したせいで、もっと重要なことを優先し忘れたというか。
一応、僕の予言で平和が継続するように願掛けしておこうか。
「――異世界への裂け目は今日中に各国にも出現する」
独占状態が悪さを引き起こすかもしれないなら、独占じゃなくすればいい。
ユーラシア連合共和国にも裂け目が出現すれば、日本への攻撃よりもそちらの探索を優先するはずだ。
もちろん僕の予言によって必ず裂け目が他国にも出現してくれるとは限らないし、そうなったとしても異世界内で資源の取り合いが発生してドンパチする可能性も捨てきれない。そうなったら異世界の人に迷惑掛けちゃうよな、とか思いつつも、トロッコ問題みたいなもんで、僕は身近な世界と見知らぬ世界なら身近な世界を取る。
ひとまずはね。
◇
そんなこんなで数時間後、各国から「次元の裂け目を発見した」という報道が相次ぐ結果になって、その中にはユーラシア連合共和国の報道も混ざっていたので僕はテレビの前でガッツポーズ。
どうやら僕の予言がきちんと作用してくれたらしい。
これでとりあえず、僕は人知れず日本の平和を守ったことになるのかもしれない。
『ちょっ、みんな聞いてよ! 今日さ、Tくんが人知れず日本を守ったんだよ! 詳しいことは言えないから信じてもらえないかもしんないけど、予言で日本を救ったの! 配信来てるみんなにだけは信じて欲しいっ!』
――ところがこの夜に行われた早坂さんの雑談配信(帰宅して家でやってる)にて、早坂さんがそんな熱弁を振るったことにより、『なんか知らんけどTくんが日本を救ったらしい』と話題になって、僕はまたバズったとかバズらなかったとか……。
◇
隠しスキル:【予言】……現実に限らない範囲において、言ったことが現実になる
現状レベル:10
言霊実現度:中+1
【レベルの上昇が発生しました(経験値ブーストによる補正込み)】
レベル:18⇒28
攻撃力:43⇒68 D
防御力:42⇒64 E
敏捷性:39⇒59 E
運:43⇒72 D
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