第9話 筋書き作り
「――本日はご足労いただきありがとうございます、謎の占い男子Tくんさん、そしていのりんさんも」
東京都千代田区霞が関。
日本の省庁が集まるそのビル群の一角――探索庁。
その立派な庁舎の中にある会議室っぽいところに、僕は早坂さんと一緒に通されていた。
週末である。
官僚って土日も働くんだなとか思いつつ、僕はさすがにマスクは被らずに1人の女性と顔を合わせている。
長い黒髪の美人さんだ。パンツスーツを着ている。
綺麗だなぁ、と見とれていると、隣の早坂さんにげしっと肘打ちされた……。
「私は
そう言って名刺を渡される。受け取り方の作法みたいなのがあったと思うけど、分からないのでとりあえず両手で丁寧に受け取った。
「どうぞお掛けください」
そう言われたので、僕らは座った。
伊万里さんも正面に腰を下ろして、
「さて、本日お越しいただいたのはTくんさんの力をお借りしたいからです。――予言。バズった動画などを拝見していますが、とんでもなく有益な、素晴らしい力をお持ちであると思っております。是非とも、此度はその予言の力を頼りにさせていただきたく」
「ま、待ってください……評価してもらえるのは嬉しいですけど、スキルでもなんでもないスピリチュアルの域を出ない力なのは分かってもらえてます……?」
「もちろんです。しかしながら、Tくんさんの予言精度ならば充分に情報として聞く価値はあると考えています。報酬をお支払いしますので、どうしても占っていただきたい事象があるのです」
「……その事象っていうのは?」
それを聞かないことには、首を縦に振るかどうか決められない。
「依頼内容につきましては機密事項に該当しますので、協力を前提にしていただかない限り、お伝えすることが出来ません」
……ってことは、僕はこのまま話を聞かずに帰るか、協力を約束して話を聞くかの二択なわけか……。
「――でも伊万里さん、あなたは優しいから僕の意思を確認する前に情報をもたらしてくれますよ」
なんとかして意思決定前に事情を知っておきたいと考えて、ちょっと悪いことだけど予言フォーマットでそう告げてみた。これで相手の意思をねじ曲げることが出来るのかどうかの確認をしたい目論見もある。
「そうですね、じゃあまずはお伝えしましょうか」
――決まった。
百発百中ではないかもしれないけど、予言フォーマットで相手の意思変更を望むように発言すれば、実際に意思すら変えられるんだ……この力、やっぱり強い。本当に怖いほどだ……。
「実は」
僕が自らの力にゾッとしている一方で、伊万里さんが口を開く。
「日本最難関と言われる新宿ダンジョンの一角に、《次元の裂け目》が見つかったんです」
「……次元の裂け目、ですか?」
「はい。これです」
プロジェクターが作動し、壁際のスクリーンに楕円形の穴の画像が映し出された。さながらブラックホールのように底知れない黒い穴が、ダンジョンの壁面に広がっている。これが新宿ダンジョンに出来た次元の裂け目であるらしい……。
「我々はこの次元の裂け目を調べるべく、調査隊を派遣し、彼らをこの裂け目の向こう側へと送り込んでみました。するとそれから1週間、応答のない状態が続いていましてね……」
伊万里さんは心配するように語った。
「……彼らが装備しているGPSなどの電波も完全に遮断され、今どうなっているのかを探ることが出来ません。別働隊を送り込もうにも、今のままでは二の舞になるとしか思えませんので、それは自重中でして……ですから、Tくんさんに是非占っていただきたいんです。この次元の裂け目は一体なんですか? 向こうには何があって、送り込んだ調査隊は今どうなっていますか? 差し支えなければその予言の力で回答をいただけませんでしょうか?」
……なんかすごいことを占わせようとしてるよねこれ。
どうすればいいんだ……。
……下手なことは言えない。たとえば次元の裂け目の向こうは異世界なんじゃないか、って思った部分があるけど、それを口に出せば実際に裂け目の向こうが異世界になる可能性がある。本当は異世界じゃなかったのに、異世界になる可能性があるってことだ。
まぁでも……別に異世界でもいいのかもしれない。むしろ生死不明の調査隊を救うには、次元の裂け目の向こうに何か世界があるべきなんだ。無に呑まれて死んでいる、という結末を避けたいなら、どこかの世界に居て保護されている、というエピソードを作り上げるのが手っ取り早い。
ひとまず協力しておこう。調査隊の人たちにだって家族が居るはずだ。1週間も帰ってこないのは、残された者としては気が気がじゃないだろうし……。
「見えました……次元の裂け目の向こうがどうなっていて、調査隊の人たちがどうなっているのかも」
僕は意を決してそう告げた。
「――本当ですか!」
「はい……次元の裂け目の向こうには中世ファンタジーな異世界があります。調査隊の人たちは次元の裂け目を通って出た森から一番近くの街で保護されています。森の魔物と出くわして負傷した影響です。じきに帰ってくると思います」
この予言がきっちり発動すれば、調査隊はきちんと帰ってくるはずだ。
「――伊万里さんっ」
すると約1分後、会議室のドアがいきなり開いて、スーツ姿の男性が飛び込んできた。伊万里さんが反応する。
「何事ですか?」
「じ、次元の裂け目を監視しているカメラが、調査隊の帰還を捉えていますっ! 彼らようやく無事に帰ってきましたよっ!」
「――っ!? Tくんさんっ、あなたって人は!!」
伊万里さんが嬉しそうな表情で僕を見つめながら立ち上がっていた。
「素晴らしいですっ! 凄い!! 凄いとしか言えません!! 本当に当たるじゃないですかっ、その予言!!」
よもやよもやだ……。
僕自身驚いている……まさか今言った具体的な内容まで実現するとは……。
……ここまで来ると予言っていうより、僕が筋書きを作ってるようなもんか。
ある意味インチキだから、本当のところはナイショにしておこう……。
◇
隠しスキル:【予言】……現実に限らない範囲において、言ったことが現実になる
現状レベル:9
言霊実現度:中
【レベルの上昇が発生しました(経験値ブーストによる補正込み)】
レベル:11⇒18
攻撃力:25⇒43 E
防御力:24⇒42 E
敏捷性:23⇒39 F
運:26⇒43 E
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