第8話 依頼

「――えっ! マジでスキルが発現してたの!?」

「うん。だから僕はやっぱり現実改変系の力を宿してる可能性が高いかもしれない」

 

 この日の放課後、早坂さんがアパートに顔を出してくれたので報告中。

 早坂さんは驚きの表情で僕への返事を行ってくる。


「た、田沼の言葉が現実に置き換わる力、ってことだよね? それってめっちゃ凄くない?」

「どうなんだろうね……恐らく万能ではないと思うんだ」


 僕は「たとえば」と告げながら、


「――今すぐ僕の右手から水が出るようになる」

「え?」

「って言っても、右手から水が出たりはしないのさ」


 僕は右手を見せながら呟く。

 実際、水が出たりはしていない。


「このことから分かるのは、ふたつの可能性。ひとつは、予言の実現率は100パーではないってこと。もうひとつは、あり得ないことは実現出来ないかも、ってこと」


 人間の手からは当然だけど水なんか出ない。だから水が出るように手の機能が作り変わるというような、そういう無茶はさすがに実現しないんだと思う。一応、僕の予言によって先日ダンジョンの地形が切り替わったりしたけど、アレは地形変動ギミックが作動しただけだろうし。


「あとは多分、僕の言葉が無作為に実現するわけじゃなくて、予言のフォーマットで話した言葉が実現の可能性を得るんだと思ってる」


 言霊的な力がいつから宿っているのかは知らないけど、バーナム占いを始めたタイミングから力を自覚出来るようになったのはそういうことなんじゃないかって思う。


「なんにしても……田沼はめっちゃ凄い力を持ってるってことじゃんね? 改めて予言師として表に出ればすっごいバズれそう」

「どうかな……早坂さんの配信にこれからも出演するのはやぶさかじゃないけど、言霊能力を大々的に公表するのは避けた方が無難かなって僕は思う」

「どうして?」

「そういう力がある、って知れると、悪用するために怖い人たちが絡んでくるかもしれない。偶然当たってるスピリチュアルなキャラ、を継続する方が安全というか……僕自身はまだ弱いからさ、レベルが充分に上がるまで身の安全を優先すべきかなと」

「確かに。じゃあ今からレベリングしに行かない?」

「いいね」

「ついでに配信もしてさ」

「いいよ」


 特に拒む理由もないので、僕らは早速レベリングへ。


 低レベルの僕に合わせてもらう形で訪れたのは、初心者向けの横浜ダンジョンだ。

 難易度が一番下のG級、なおかつ敵がスライムオンリーの無害地帯。

 スライムオンリーな景色は、SNSでの映えスポットとしても知られている。


「――うわああああああああんママー!!」


 そんな横浜ダンジョンで早坂さんとの配信を始めていると、泣きじゃくる女児を発見した。


「どうしたの? ママとはぐれちゃったの?」


 Tくんの白マスクを被っている僕が接すると事案になるので、早坂さんが率先して話しかけに行ってくれた。


 ――いのりん優しい

 ――天使きたー!!

 ――おれはいのりんにママになってほしい

 ――いのりんママー!!

 ――おぎゃああああああああああああああ!!

 ――ばぶううううううううううううううう!!


 一方、チャット欄がだいぶキモいことに……。


「うん……あのね……ママとね、はぐれちゃったの……」


 そんな中、女児が嗚咽混じりに事情を説明してくれる。

 やっぱり迷子ってことか。


「ねえTくんっ、ママの居場所を予言してあげてよっ」

「分かった」


 ――Tくんってそんな予言も出来るの?

 ――そんなん出来たら霊能捜査官やん

 ――さすがに無理でしょ


 チャット欄は疑っているな。

 なら僕はその反応に乗って表面上は自信なさげに行く。そうすることで言霊の力を悟られず、あくまでスピリチュアルなヤツで居られるはずだ。


「まぁ……僕もそこまでの自信はないですよ。でもこの子のためにやれることをやります」


 実際、僕の言霊は別に百発百中できっちり発動するわけではないはずだ。

 だから現実的な予言をしても、外れることはあると思う。

 でも目の前の女児は本当の迷子だから助けてあげたい。

 そんな一心で――


「君のママはね、そこの角を曲がってすぐのところに居るよ」


 僕は10メートル先の曲がり角を指差しながらそう予言した。


「……ほんと?」

「100パーではないけど、多分居ると思う。見に行ってみよう」


 早坂さんに彼女の手を引いてもらって、僕らは曲がり角を目指した。

 そしてその角を曲がった直後に――


「――あ、ママ!!」

「――ちーちゃん!!」


 軽装姿の女性が駆け寄ってきた。

 よっしゃ。ママ発見。


 ――うおおおおおおおおおお!!

 ――Tくんすげええええええ

 ――マジか・・・

 ――いや仕込みじゃないならマジですげえとしか

 ――ロリっ子ハッピーエンドでよかった!


 こうしてこのあと、SNSのトレンドはまたTくん関連の話題で埋め尽くされたらしかった。


   ◇


「にしてもっ、田沼の予言マジ凄いね! ぼちぼち依頼来たりしないかな?」

「依頼?」


 配信が大盛況で終わったあとは、僕のアパートに帰ってお風呂を堪能中だ。

 金髪を今はお団子にアップしている早坂さんは、狭いバスタブの中で僕にしなだれかかりながら、


「予言の恩恵にあずかりたい人、そろそろ絶対出てくるはずでしょ?」

「あー……それなら実際、最近始めたSNSのTくんアカウントに色々来てるよ」


 しょーもないDMが多いから基本的には無視してる。

 でもまともなアカウントからのDMが来たりすれば、相手にしようとは思ってる。


 そんな思いでやがて風呂を上がり、何気なくスマホをチェックしてみると――


「……ん?」


 一件のDMが届いてることに気付いて、送ってきたアカウントを確認。

 すると、


「え……探索庁……?」

「――探索庁!? いま探索庁って言った!?」

「い、言ったよ……」

「凄いじゃんっ。行政からだよ!!」


 そう――僕宛てに届いたそのDMは、日本のダンジョン管理や冒険者の統括を行っている省庁のひとつ、探索庁からのモノだった。


   ◇


隠しスキル:【予言】……現実的な範囲内において、言ったことが現実になる

現状レベル:7

言霊実現度:低+6


【レベルの上昇が発生しました(経験値ブーストによる補正込み)】

レベル:5⇒11

攻撃力:10⇒25 F

防御力:11⇒24 F

敏捷性:9⇒23  F

  運:10⇒26 F

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