第7話 確認

 飯島くんの凶報を聞いたあと、僕は早退した。

 自宅アパートに帰ったあとは、ベッドに横たわって丸くなった。


 僕は自分が怖くなっている。

 飯島くんが……本当に死んでしまった。

 

 ……なんで死んだんだろう?

 単なる偶然なんだろうか。

 にしては……ここのところ僕の予言は当たり過ぎている……。


 テキトーな、バーナム効果狙いの占い……。

 飯島くんへの言葉に至っては、別に占いですらなかったのに……。


 そうなってしまえばいい、と思ったことが実現しているこの感じは……一体なんなんだろう?


 ――ぴんぽーん。


 そんな折、ふとインターホンが鳴った。

 億劫に思いながらも出てみると――


「やっほ」


 廊下に佇んでいたのは、飯島くんに殴られた右頬に湿布を貼っている早坂さんだった。


「……早坂さん……なんで……? まだ昼前で学校が……」

「そりゃ、片想いの相手が早退しちゃったら普通追いかけるってもんでしょ」


 そう言って早坂さんが勝手に上がり込んでくる。

 自由な人だな……ありがたいけどさ。


「で、田沼、大丈夫?」

「まぁ知っての通り……飯島くんにやられた怪我なら所詮青アザレベルだから別に……」

「じゃなくて、メンタル」


 腰を下ろしながら、早坂さんが心配そうに呟く。


「飯島がさ、なんか田沼の言う通りに……死んじゃったじゃん? 田沼小心者だろうし、気にしてるんじゃないかって思って」

「まぁ実際……気にはしてるかな……」


 室内に戻って、僕も腰を下ろしながら応じる。


「飯島くんにちょっと悪いと思うし……それに、僕は自分が怖いよ……なんで飯島くんが……僕の言葉通りに死んだのか分からない……」


 ここ最近は妙な力が働き過ぎている。

 僕の言葉に何があるっていうのか……。


「田沼って……無能なんだよね?」

「……無能だよ。新生児のときの身体検査でスキルは持ってない、って判断されてるから」


 ダンジョンの出現が確認された50年くらい前から、人類はスキルという異能力を持って生まれてくるようになった。

 でも全員が全員スキルを持っているわけじゃない。

 現在の統計では、新生児のおよそ20%がスキル保持者。

 無能の方が圧倒的に多いってことだ。


「スキルは基本……先天的なモノだって言うし、僕は無能だよ。間違いなく……」

「でもさ、後天的に発現することも稀にあるって聞くし……田沼、それなんじゃない?」

「なんらかの、現実に作用するスキルが僕に今宿ってるかも、ってこと?」

「うん……検査受けてみればいいんじゃない? 確か冒険者センターで出来るよね?」

「アレ結構お金掛かるらしいし……」

「あたし出すよ。刻暁石の買い取り報酬正直使いきれんしさ」


 とのことで……僕はそのお言葉に甘えて、午後から地元の冒険者センターに出向いてスキル検査を行ってもらった。

 すると――


「田沼さん、あなたは以前とお変わりなく無能でした」


 検査終了後、医者からそう告げられた。


「……無能、ですか? 最近妙な、ちょっと不思議な体験が続いているんですけど」

「そう言われましても、くまなく検査した結果が無能ですのでね」


 検査結果の書類等も見せられて、懇切丁寧にあなたは無能だと説明された。

 アパートに戻ると、留守番してくれていた早坂さんが出迎えてくれる。


「どうだった?」

「……無能だってさ」


 僕はどうにも納得出来ない気分だった。

 早坂さんが夕飯を作ってくれている中、僕は考える……。


 もしかしたら……僕の中には検査じゃ認識出来ないスキルがあるんじゃないか?

 もしくはスキル以外の異能力……サイキック的なモノに目覚めたとか……。


 いずれにせよ、僕の言葉が現実に作用しているのは間違いない……とは言い切れないものの、そういう力があるように思える。


 もし僕の言葉に現実改変能力が宿り始めているなら……、

 たとえば……、


「……僕は今日、スキルに目覚める」


 その現実改変能力がどこまでどのような効果を及ぼすのかは知らないけれど、ひょっとしたら僕が今言ったようなことも実現するかもしれない。これはある種の実験だ。これでもし僕がスキルに目覚めたら、僕は現実改変能力を持っていることになる。


「ねえ早坂さん、スキル所持の感覚ってどんな感じ?」

「え? んー……特別な感覚は別にないかなぁ。新生児検査のときの書類を見せられて初めてスキル保持者って知ったくらいだし」

「なるほど……」


 となると……僕はたとえ今日スキルに目覚めたとしても、目覚めたことを主観では判断出来ない可能性があるな。


「ねえ早坂さん、悪いんだけどさ……検査のお金もう1回分くれない? 僕自身にスキルが目覚める、って予言して、実際そうなるのか実験中だからさ」

「うん、お金あげるのは別にいいけど……2回目はタダじゃあげない」

「……何すればいい?」

「こ、今晩いっぱい可愛がって欲しい……♡」


 ……お安い御用と言えた。


   ◇


 そんなこんなで翌日。

 早坂さんには普通に学校に行ってもらって、僕は再び冒険者センターに顔を出した。

 医者のおじさんには不審な目を向けられる。


「昨日の今日じゃ何も変わってないと思いますけどねぇ……」


 ごもっともな感想だけど、検査をお願いした。

 すると検査実施後――


「た、田沼さんっ、スキルの発現が認められました……っ!」

「――ホントですかっ?」

「え、ええ……信じがたいことに、S級スキルの《経験値ブースト》が発現していました……」


 おぉ……。


「スキルの発現に伴って基礎ステータスも付与されましてね、もちろん先天的なスキル保持者には成長面で遅れを取っていることになりますが、経験値ブーストがあれば日常のあらゆる成功体験が経験値として加算されますから、今からでも冒険者の上澄みを目指すことは充分に可能でしょう」


 なんともまあ……それは嬉しいことだ。

 でも収穫としてもっと嬉しいのは、予言通りにスキルが発現したことで、僕には現実改変系の言霊的異能が宿っている――その可能性を実証出来たことだ。


  ◇


隠しスキル:【予言】……現実的な範囲内において、言ったことが現実になる

現状レベル:6

言霊実現度:低+5


【発現スキル】

経験値ブースト……日常のあらゆる成功体験が経験値として加算される


【基礎ステータスの付与、並びに予言の成功に伴う経験値加算が発生しました】

【それに伴いレベルの上昇も発生しました】

レベル:1⇒5

攻撃力:1⇒10 G

防御力:1⇒11 G

敏捷性:1⇒9  G

  運:1⇒10 G

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