第6話 死ぬんだよ

 翌朝。目覚めると早坂さんが隣に寝ていてビックリした。


 でも夢でもなければ幻でもなくて、それは確固たる現実だ。

 昨晩僕らは身体を繋げ合った。


 付き合うことになったのかと言えば、実はなっていない。


『蛙化現象になったら怖いからさ、田沼にはひとまず片想いのままで居させて?』


 なんて言われたからだ。

 蛙化現象っていうのは、片想いが成就した瞬間、その相手に嫌悪感を抱いて冷めちゃう現象のことだっけ? 

 熱しやすく冷めやすいの究極完全態だよなぁ。

 早坂さんはそうなるのを恐れて、僕に返事を求めなかった。


 だからひとまず、身体の関係だけを持つ感じになってしまった。

 それでいいんだろうかと思ったけど、早坂さんがそれを望むんだから仕方ない。


 やがて時間差でアパートを出て、僕の方が遅めに登校。

 すると――


 ――お、Tくん来た!

 ――おはよTくん!

 ――昨日依乃里いのりの配信で大活躍だったじゃん!

 ――ガチですごかったな!


 と、クラスメイトたちがすごくフレンドリーに出迎えてくれた。


 クラスメイトたちには正体がバレバレなのが笑えるけど……まぁでも、嬉しい。

 僕なんてずっと日陰者だったのに、きっかけひとつでこうも変われるんだな……。


「――お前ら目ぇ醒ませって!!」


 そんな折、教室に怒声が轟く。

 それは――


「こんなヤツの何がすげーんだよ!! 偶然が重なっただけのことを予言予言って持て囃してバカじゃねーのか!?」


 ……登校してきた飯島くん、だった。

 指の再生治療を終えて、今日から復帰するらしい。


「おい田沼ァ! てめえが俺の獣市での怪我を言い当てたのはただの偶然だからな!! 調子乗ってんじゃねーぞ!!」


 また胸ぐらを掴み上げてきて、僕は息苦しさを覚える。

 くそ……こいつ……。


「飯島! やめなって!!」

「うっせえ早坂!! この前からこいつの肩ばっか持ちやがって!! そんなにこいつの占い通りに事が運ぶ人生が楽しいってのかよ!! こんな愚図野郎と組んでバズったのがそんなに嬉しいっつーのかよ!! 俺がずっと気に掛けてやってんのに男のセンスねーよお前!!」


 飯島くんがそう言って僕から手を離し、早坂さんに向かっていった。

 そして早坂さんの顔を――グーで殴った。

 教室が騒然とする。

 僕はカッとなった。

 慕ってくれている女の子に手を出されると心にゆとりなんてなくなることを僕は初めて知った。

 だから――


「――き、君は死ぬからな……っ!」


 僕は反射的にそう口走っていた。

 なんの意味もない、バーナム効果を望むべくもない戯れ言だ。

 でも僕はそう言わずにはいられなかった。


「あ!? なんだって田沼ァ!! なんつったてめえ!!」

「君は今日死ぬ! なんの関係もない早坂さんに手を出した罰で死ぬんだよ……!」

「なんだそりゃ?w 得意の占いか? 予言か? けっ、くだらねえ!! てめえの戯れ言はここんところ確変が来てて偶然色々当たってるだけだっつーんだよ! 俺が死ぬ?w 死ぬわけねーだろうがこのクソ野郎っ!! むしろてめえが死ねや!!」


 どごっ、と飯島くんは今度僕に殴りかかってきた。

 僕はそのままマウントを取られてボコボコにされた。

 そんな暴虐が収まったのは偶然廊下を通りかかった教師の1人が他の先生を呼んで飯島くんを引き剥がしにかかったことによる鎮圧行為でのことだった。


 僕は保健室に運ばれた。

 治療を受けて休むあいだ、傍にはずっと早坂さんが一緒に居てくれた。


 そして、保健室で過ごす午前の休み時間のことだった。

 鎮圧後に停学処分を言い渡されてサッサと家に帰された飯島くんがトラックに轢かれて即死したという情報が飛び込んできたのは。


   ◇


隠しスキル【予言】:現実的な範囲内において、言ったことが現実になる。

現状レベル:5

言霊実現度:低+4

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