第5話 階段をのぼってしまった
「――田沼あんたマジですごい! ダンジョンの地形変動なんて普通言い当てらんないからね!?」
ダンジョン配信を終えたあとの、夜。
現状を端的に言うなら、小田原から帰ってきた早坂さんが、僕の住むアパートに立ち寄ってくれたという状況だった。
軽装姿の早坂さんは、食べ物を色々買い込んできての来訪。
言うなれば小田原ダンジョンクリア記念パーティーみたいなことを2人だけでやっている感じだ。
……なんともまあ、現実味がない状況と言える。
だって僕んちにあの早坂さんが居るんだよ?
僕とは違うキラキラな世界を生きているはずのカーストトップギャルが、ローテーブルを挟んですぐ向こう側に居るってどういうことなの……?
「ちょっ、聞いてる田沼!」
「え、あ、うん……」
「ほんとかなぁ?」
金髪のツインテをさふぁっと揺らして、早坂さんが伏し目がちにムッとしている。
可愛い。
「女子の話はきちんと聞かんとモテんよ?」
「そ、そうだよね……」
「とにかく、田沼がすごいって話ね! 見てよほら! トレンド全部あたしか田沼なんだよっ? 若干田沼の方が多め!」
そう言って早坂さんがスマホの画面を見せ付けてくる。
確かに【謎の占い男子Tくん】関連の話題がトレンド上位を独占していた。
「あ、アンチ湧いてないかな……」
「チラッと見てみると『どうせヤラセだろ』『小田原ダンジョン行ったフリしてアレ全部CG処理なんじゃね?』とかあたし含めて難癖つけられたりしてる部分はあるね。ゆーて一部の意見だから気にせんでよろしー。ほとんどは賞賛、羨望だしね」
そんな感じなのか……。
「それよか田沼っ、マジでありがとね!」
「え」
「え、じゃないっしょ! 初配信も2回目の配信も田沼のおかげでバズったようなもんだし、あたしもう田沼に足向けて寝られないってゆーか……」
ネイルされた指で髪の毛をクルクルしながら、早坂さんはどこか照れ臭そうに、
「な、なんかお礼欲しかったりしない?」
と言ってきた。
「お、お礼?」
「うん……」
頷きながら、早坂さんがハイハイでもするように僕の傍に回り込んでくる。
な、なんだ……。
「わ、割となんでも受け付けるけど……」
「な、なんでも?」
「うん……」
早坂さんが僕の膝に手を置いたりしてボディータッチしてくる。
ど、どういう状況なんだこれ……。
ていうか早坂さんめっちゃ良い匂い……。
「な、なんもないわけ……? あたしにされたいこととか……」
「さ、されたいことは……えっと、いや、あの……ぼ、僕なんかにお礼とかそういうのは別にいいって……」
「……なんでさ」
「は、早坂さんが僕んちに居ること自体がなんかもうお礼みたいなもんだし……」
……僕なんかが早坂さんに多くを望んではいけない。
こうして一緒に飲み食い出来るだけで充分なんだ。
「何それ……あたしがしたいって言ってんだからさせてよバカ」
「え、いやだから――むぐ……っ」
……僕が言葉を途絶えさせたのには理由がある。
信じがたいごとに……いきなりキスをされたからだ……。
「ぷは……っ、は、早坂さん……っ!?」
何してんだこの人何してんだこの人何してんだこの人……!
「ぼ、僕なんかにそういうことしたら早坂さんの価値が……!」
「そんなことで暴落するほどあたしの価値は安くないし……それにいーじゃん、あたし田沼のこと好きになってるし……」
「!?」
「……バズらせてもらったし、話してて悪くないなって思うし」
「ば、バズったのは早坂さんの実力だよ……っ」
「いや田沼との相乗効果に決まってんじゃん……あたし単体じゃ刻暁石だけの一発屋だろうけど、田沼の予言と合わさって2回目で更にバズれたしさ……」
そう言って早坂さんは切なげな表情でまた僕にキスをしてくる。
ちゅ、ちゅ、とついばむように何度も何度も……。
僕は夢心地で、抵抗しようにも……しようとする気力が失せていた……。
「んっ……一応言っとくけど、ファーストキスだかんね……」
「え!?」
「な、何さその反応……遊んでるとでも思ってたわけ……?」
「お、思ってた……」
「ばかっ」
そう言ってまた唇を貪られ……、
若い男女がキスだけで済むのかって言ったらそんなはずもなく……、
僕はこの夜――、
「……田沼、気持ち良かった?」
「う、うん……」
……早坂さんと一緒にオトナになってしまった。
隣に裸で寝そべる早坂さんが、そうなったという何よりの証だった……。
◇
【田沼栄吉 身体ステータス変動】
体力:レベル1⇒レベル2
粘度:レベル1⇒レベル2
放出量:レベル1⇒レベル2
硬度:レベル1⇒レベル2
持久力:レベル1⇒レベル2
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