第4話 外そうと思ったのに

『――どもー! いのりんでーす! 刻暁石のゲット配信きっかけで来てくれたみんなは初めましてー! ゆーてまだ2回目の配信だからねっ、古参ヅラ出来るチャンスは幾らでもあるよ!』


 放課後。

 僕は自宅アパートのPCと向かい合って深呼吸をしている。

 緊張のせいだ。


 朝に約束した通り、僕は早坂さんの配信にゲスト出演することになった。

 ワイプで。

 一応、僕の出番はまだである。


『じゃあ今日も小田原ダンジョンを攻略していきまーす! まだクリアされてないみたいなんで、あたしが一番ノリでボス倒したいなぁ』


 早坂さんが自分で言った通り、今日の配信も先日に続いて小田原ダンジョンの攻略だ。自立型ドローンカメラの映像が、ツインテ金髪ギャルとケルベロスのコンビを配信画面に映し出している。


 この配信、実はすでに2万人が観ている状態。

 2回目の配信とは思えない人気っぷりなのは、刻暁石の件でめっちゃバズった影響だろうね。


 ……僕はそんな配信に出なければならないんだな。

 すげえプレッシャー。

 先日【謎の占い男子Tくん】としてトレンド入りしたとはいえ、どうなんだ?

 誰だよお前、ってならない?


『あ、そうそう。今日の配信には実はスペシャルゲストがいんだよね。まぁスペシャルって言うとハードルあげちゃうから、あくまでちょっとしたゲストって感じだけども』


 あ、言及されてる。

 それが登場の前フリだから、ぼちぼち変装用の仮面を被っておこう。

 用意した仮面は100均の白マスク。

 おでこに一応Tって書き足している。

 それを被ったところで――


『じゃあそろそろ呼ぶね~。――こほん。恐らくこれからの配信にもたびたび出てくることになるであろうその人は、先日の刻暁石ゲットを見事に予言・的中させてくれた友人――謎の占い男子Tくんですっ!』


 僕はもう一度深呼吸。

 それからワイプ表示のボタンを押して、


「ど、どうも初めまして……謎の占い男子Tです……」


 と多少裏返った震え声(ボイチェン)で挨拶。

 すると――


 ――おー

 ――例の!

 ――なんか仮面被ってて草

 ――ワイプでなんか占うん?

 ――たのしみ!


 チャット欄の反応は……意外とフレンドリー。

 マジか……トレンドに入ったほどだから、僕が思っているよりも著名人感があるのかもな。


『Tくんには今回リアルタイムで予言してもらうことになってますっ。Tくんの予言ほんとマジでめっちゃ当たるからみんな楽しみにしといて!』


 うわ、ハードルあげてくれるなぁ。

 悪気はなくて、早坂さんは僕の信者としてそんなことを言っているんだと思う。

 だからタチが悪いとも言えるけど。

 

 チャット欄もそんな発言に大賑わい。

 これはアレだな……予言を外せば僕は終わりだ……まぁでも、それはそれで盛り上がるのかもしれないし、無責任にテキトーぶっこいておけばいいや……。


『じゃあTくんっ、早速だけど今回の攻略が上手く行くかどうか予言してもらってもいいっ?』

「はやさ……じゃなくていのりんがクリア出来るかどうか、ってことだよね?」

『そうっ、それを占ってみて!』


 よし……じゃあテキトーに言っておこう。

 せっかくの配信だから、外れても面白いようにデカいことをひとつ。


「来た……見えたよいのりん……占い結果としてはまず、クリア――出来る」

『ほんとにっ!?』

「うん。今から少しすると、そのダンジョンの地形が変わってさ、いのりんの居る場所がボス部屋に変わるんだ。ボスは木属性だから火属性のケルベロスで余裕余裕」


 ――かなり具体的だな

 ――さすがに外れるでしょ

 ――これ当たったら神すぎ

 ――外れる方に1ジンバブエドル

 

 チャット欄もかなり疑ってる。

 そりゃそうだ。

 僕も当たるとは思っちゃいない。

 盛り上げるためのウソ八百。

 外れて当たり前の戯れ言を当たり前に外すことで、上がりきったハードルを一旦華麗に下げるのが目的だ。


『ほーん、今から地形変わるんだ? さすがのあたしも半信半疑かも』


 それでいいんだよ早坂さん。

 ハードルを下げさせてください。


『あ――え? なんか地震?』


 そんな中、早坂さんがそう言ったのと同時に――ごごんっ、ががんっ、どごんっ!

 配信に映るダンジョンの壁がルービックキューブみたいに上下左右に凄まじい切り替わりを見せ始めている。


 ……え!?


『ちょっ!! Tくんマジで地形の変化来てるよ!!』


 ――うわ

 ――え?!

 ――ヤバ。。。

 ――Tくん!!!!!!

 ――Tくんすご

 ――やべえ

 ――Tくんヤバない?


 な、なんでマジで地形が変化してるんだ……?


 開いた口が塞がらない僕をよそに、ダンジョンはやがて地形の変化を終えていた。


 早坂さんは木々が生い茂る広間に佇んでいる。

 そんな早坂さんの正面には、巨木の魔物が蠢いていた。

 部屋の雰囲気と魔物の大物感からして……恐らくボスだ。


『おっ、じゃあこれがTくんの言ってた木属性のボスじゃん! ――ケルちゃんやっちゃって!!』

『ぐるる!!』


 こうしてケルベロスの火炎によって巨木の魔物は瞬く間に倒され、ボス討伐時にのみ出現する『踏破の証』というバッジがドロップしていた。


『――いよっしゃああああTくんありがとー!! マジでクリア出来ちゃったぁ!!』


 ――うおおおおおおおおお!!

 ――いのりんおめでとー!!

 ――Tくん最強!Tくん最強!

 ――いのりんもすごいけどTくんがヤバい

 ――Tくん未来見えてるの?

 ――なんか怖いんだけど……


 ……僕も怖いっす。

 

 そんなこんなでこのあと、今日もSNSのトレンドを僕と早坂さんが席巻することになったらしいけど、臆病な僕はエゴサ出来ないので詳細は知らない……。


   ◇


隠しスキル:【予言】……現実的な範囲内において、言ったことが現実になる。

現状レベル:4

言霊実現度:低+3

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