第37話 事後報告と死亡宣告


「ブァクション!ぐすっ、なんだ?急に寒気が……」


 いよなと沙織さんが莉音と会ってる放課後、俺は自宅に帰ってボケ~っとスマホをポチポチしていた。そうしたら急に背筋に寒気が走った。というか久し振りに言葉を喋った気がする……具体的には半年ぶりくらい?もとい!


「なんか嫌な予感がする」


 なんだ?莉音だけならまだしも、茶楽雄が同席するんだからいよな達に何か危険が及ぶとは思えない。

 てかこの感じ、他人じゃなく俺自身にロクでもない事が起こりそうな……そんな感じだな。


「こういう時は大概いよなが料理関係で要らんことをしでかすんだ……そんで俺が後始末に駆り出されるんだ……そうに決まってる」


 今まで行ってきたいよなの悪気ないやらかしを思い出して苦い顔を作る。


 俺の誕生日に手作りの夕食を食べさせるんだと、できない料理をしてキッチンが半壊。片付けを手伝わされたうえで完成したダークマターを完食させられた。

 クリスマスに手作りケーキを焼くんだと挑戦してまたもやキッチンが半壊。片付けを手伝い完成したダークマターを完食させられた。

 バレンタインデーに手作りチョコを作ってあげるねってまたしても以下同文……


 あいつ料理スキルが壊滅的なのに料理好きだから、なにか口実を見付けては料理を振る舞おうとする。

そこにあるのは純粋な好意と向上心で、悪意は一欠片も無い。無いだけに余計にタチが悪いとも言えるが……どうやったら料理をしただけでキッチンが半壊するんだ?


 料理上手の莉音に習ったりこれまた料理上手のおばさんに習ったりしてたのに、ダークマターの破壊力ばかりが向上してたのはなぜだろう?

 聞くところによると俺と莉音が付き合いだしてからは、あいつの料理の被害は茶楽雄に移ったと聞いている。ご愁傷さまだ……なむなむ……


「羅怜央〜御飯よ〜降りてきなさい〜」


「あいよ〜」


 いやいや、さっきの殺気……ダジャレじゃねぇよ?は気の所為だそうに違いない。気にしない気にしない一休み一休み。さあ飯だ飯。


 夕飯を食い終わって、珍しく早く帰ってきた親父が淹れたコーヒーを久し振りに堪能して自室に戻る。うーんやはり親父の域にまで達するにはまだまだ精進せねばならないようだ。さて美味いコーヒーの余韻に浸りながら勉強でもするかね。





ピコン♪


 区切りの良いところまで進めてひと息ついていたところにメッセージの受信を知らせる通知音が鳴る、机の脇に置いていたスマホがペカペカと着信をお知らせしてくれている。

 スマホのメッセージアプリを立ち上げると、


『ただいまぁりっちゃん家行ってきたよ〜』

 

 いよなからだった。


『おつかれ、大丈夫だったか?』


『もちろん!キッチリと分からせてきたよぉ!』


 あれ?確か莉音を慰めてくれって話じゃなかったっけ?しかし、


『分からせたのか……てことはやっぱり莉音は拗らせてたわけだ』


『そうだねぇ拗らせてたねぇ』


 あぁやっぱりな、莉音の性格からしたら受け入れられない事だろうからな。自分がやらかしてそのせいで自分が振られるなんて認めたくないだろうな……

 突き詰めてしまえばあいつは自分が一番かわいいんだ。だから自分に都合の悪いことが起きて、しかもそれが自分のせいだった場合その事実を受け入れられずに逃げてしまう……まぁ人間なんて多かれ少なかれそんなもんだけどあいつはそれが人より少し強い。

 

『それで分からせたわけだな』


『そゆことぉ!チャラくんもついでに分からせましたぁ』


『あん?茶楽雄?』


『あぁそれはラーくんには関係ないから大丈夫だよぉ』


 そうか関係ないのか……確かにもう関係ないな……


『あと言い忘れてたけど例の件でチャラくん煽っといたからねぇ』


『例の件?おおあれか!それはナイスだ!茶楽雄ざまぁ!』


 長年の因縁に決着が付いたわけだからな!やっぱり俺のが強えんだ!次やったら分からないけどやらないし〜勝ち逃げ上等!


『そうそう、あと沙織ちゃんにいろいろバレたからね』


『ん〜まあそりゃあそうだ、お前が拗らせた莉音のところに行ったらそういう話になるだろうからな』


 沙織さんに知られるには恥ずかしくて情けない話ではあるが仕方ない。


『昨日のラーくんの態度も納得してくれたから、明日会ったらしっかり謝っておくこと!』


『ラジャラジャそうする』


『うんうんそうしなさい!……しかし疲れたよぉ』


『そんなにか?』


『そんなにだよぉ……これは気分転換が必要だねぇ』


『そうか、気晴らしに遊びにでも行くか?』


 大変だっただろうから労ってやらなくもない。

 

『それも素敵だけどぉ久し振りに料理がしたいかも!ラーくんもう晩ご飯食べた?』


え?こいつ何言ってんだ?え?料理がしたいかも?しかも俺が飯食ったか聞いてくるということは……

ウギャーー!!こいつ俺に料理を食わせる気だ!やめてやめてーーー!マジやべぇからあり得ないから!

 何が何でもいよなの生物兵器作成りょうりは絶対阻止だ!


『すまんなもう晩飯食ったんだわ』


 努めて冷静にもう食事を済ませた旨を伝える。

 文字を打つ手が震えてこれだけを入力するのに何回か失敗した。


『そっか~残念。そうだ!今度の勉強会でお昼ご飯作ってあげる!』


 なんだと?俺だけじゃなく仁と沙織さんにも食わせるつもりか?


 …………こういう時俺はどういう対応を取ればいいんだろう?被害拡大を抑えるために俺一人でダークマターを処理するか?それともそもそも生物兵器作成りょうりをやらせないように誘導するか?


 最善策を摸索して考えて考えて導き出した結論は……


『それは良い!あいつ等にも振る舞ってやろうぜ!』


 ふたりを巻き込む事だった……


 なんとでも言え!死なば諸共だ!










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