第23話 新から仁に
日曜日は1日勉強していた。いよなは昼にほいほい遊びに来たが、部屋のドアを開けた瞬間まわれ右をして逃走、引っ捕らえて勉強に巻き込んだ。
「あ〜ん、来るんじゃなかったぁ〜」
「バカめ、まさに飛んで火に入る夏の虫だな!」
このタイミングで遊びに来る意味が分からん……昨日勉強したから今日はしないという考えも分からん。
いよなと登校して自席に着くと、向かいの席の新がちょっと苦い顔をして話しかけてきた。
「根都よ……お前のせいで昨日も勉強させられた……」
「そりゃあいい事じゃん、なんで俺のせいだよ?」
「良いことなもんか!お前と勉強したことで沙織の勉強熱に火が付いた。そんで遊ぼうと呼び出されて、行ってみたら勉強地獄。騙し討ちだぞ!」
「お前といよなはホントに似てんな?ホイホイ遊びに来たからいよなにも昨日は勉強させたぞ」
思考回路が似てるのかね?この時期にこいつらを抱えている俺たちが、勉強させるチャンスを逃がすわけないと分からないかな?
「安里さん可哀想に、ルンルンで遊びに行ったら捕まってお勉強地獄って。お前たちは俺たちに何か恨みでもあるのか?」
「有るっちゃ有るな……お前らがちゃんと勉強してくれてたら、俺たちはこんな苦労しなくても良いんだからな?」
半眼で睨んでやると口笛を吹きながら明後日の方向に顔を背ける。こういうところも似てやがるな……
「そういえば根都、土曜日の夕方」
「なんだよ?」
「土曜日の夕方の帰り際、電信柱の陰にいたのって広田さんだよな?」
チッ、目ざといやつだな。ごまかすのも面倒だし、いろいろ手伝ってもらったしいいか……
「良く気付いたな……確かにあれは莉音だったけど、それがどうした?」
「広田さん、お前たちの方に意識行ってて、俺が見てるの気付いて無かった。だから、結構観察出来たんだけどなんか危ういね」
「危ういだ?どういうことだ?」
「心此処に在らずって感じなのに、お前たち……ってか俺の印象では安里さんを、なんとも言えない目で見てた……気にし過ぎかもだけど、しばらく安里さんを気にしてやれ。沙織にも言っとくけど出来れば1人にはするな」
やたら仰々しい言い方だが、いよなを心配してくれているのは分かる……ここは感謝するところだな。
「分かった気にかけておく、恩に着るよ。まあ何もなければそれに越したことはないわけだからな」
「そういうことだ」
「お礼に問題集をプレゼントしてやろうか?」
「恩を仇で返すってどうなんだ?」
「分かったよ、週末に秘蔵の豆で淹れてやる」
「マジ?一昨日のコーヒー美味かったのにまだ上があるのか?」
俺があの豆を他人に振舞うのは初めてのことだ、あいつらにも飲ませたこと無かったからな……金曜日辺りに練習で淹れてみるか?気合が入るな。
「なんか沙織ちゃん、最近良くウチのクラスに遊びに来るねぇ」
「いよなちゃんとお話したいからだよ〜」
「あ〜ん嬉しいよぉ、沙織ちゃん大好きぃ」
「私も大好きだよ〜」
なんか知らんがハグしてる……うん、女子のこのノリは良く分からん……隣を見ると新が胸の前で腕を組んでしきりに頷いてる。
「美少女と美少女のハグ……尊い」
だそうだ……まあ絵面的には綺麗だよな、いよなも安達さんも可愛いし。
「いよな帰るぞ」
「はぁ〜い!行こ沙織ちゃん!」
「うん、ほら仁くんも帰るよ〜」
「はいはい、今行きますよー」
今週に入ってほぼこの4人でつるむようになった。きっかけは新が言ってきた莉音の事だったが、つるんでみると新とも安達さんとも気が合うので居心地の悪さを感じない。
いよなも同様のようなのでいよなに感じてた申し訳無さも少しやわらいだ。
下駄箱のところで茶楽雄に出くわした。というか待ってたくさいな、
「いよな、ちょっといいか?」
「チャラくん、どしたの?」
茶楽雄がこちらを見ながら、
「ここじゃちょっとな……あっちで話せないか?」
「茶楽「下司野……悪いなちょっと事情があって出来るだけ安里さんを1人にはしたくないんだ」
新が話に割って入って断りを入れる。
「だから俺が居るから1人じゃねぇだろうが?」
「言い方変えるわ、俺か羅怜央のどっちかをつけろ」
「あ?なんでだ、お前関係ねぇだろうが?」
ちょっと険悪なムードになった。俺も茶楽雄の物言いにカチンときて言い返そうとした時いよなが、
「いいよ、チャラくんあたし行くから。仁くんありがと行ってくるねぇ」
「安里さん……」
まあ茶楽雄はいよなになんかしないだろう。それよりも、
「ありがとな仁気を使ってくれて。いよなだったら大丈夫だ、茶楽雄もさすがにいよなには何もしないよ」
新……いや、仁がちょっと恥ずかしそうにそっぽを向いた。
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