私の心は、突破を許す

食堂から、教室へ戻る途中、今日もあの後輩がやってきた。


「先輩、先輩、好きです!」


「…うん、ありがと。じゃあね。」


「ちょっと、待って下さい!もう少し、お話ししましょうよ!」


「私、暇じゃないの。またね。」


よくもまあ、連日、告白しにくるもんだ。しかも、好きって言うだけで、付き合ってとは言わない。よくわからん子だ。


「あはは、また、あの後輩君きたんだね!」


「めっちゃ、しょんぼりしてる!」


「二人とも、からかわないで。本当に困ってるんだから。」


そう言う私に、友人たちは、ニヤニヤしている。


「も〜、素直じゃないんだから!」


「そうだよ!まんざらでもないんでしょ?」


「どうだろ…あんなに好かれたことなんて、初めてだから、戸惑ってる。私みたいな、男っぽい女がいいなんて、わからん。」


「確かに、可愛いより、かっこいいが勝ってるよね。」


「うんうん、女子で、あんたのファンたくさんいるしね〜!まあ、あのバスケしている姿、見たら惚れるのも、わかる!」


そんな会話を友人たちとしながら、教室へ戻る。


私は、バスケ部所属で二年生にして、一応エースである。

元プロサッカー選手(J2だが)の父と陸上部の短距離で国体にも出場経験がある母から、しっかりと運動神経を受け継ぎ、この高校にもバスケの特待生として、入学した。


そんな順風満帆の高校生活に突如として、嵐が吹き荒れたのは、1ヶ月前に…。

部活後、居残り練習を一人でしていると、例の後輩が体育館入口で、私を見ていた。


「そのジャージの線の色は、一年生かな?どうしたの?」


「あ…はい、一年生です。えっと、部活でランニングしていたら、体育館から、シュートがリングに全く当たらない、シュッとした音が一定の間隔で聞こえてきて、すごく気になって…。」


「なるほど。3Pシュートの練習してたからね。」


「先輩、めちゃくちゃ、上手いですね!芯がぶれないフォーム。それにシュート前の落ち着きと安心感と威圧感がすごいです。先輩にボールを預ければ、どうにかしてくれる感じがひしひし伝わってきました!」


「それは、ありがとう。まあ、バスケの特待生だから、これぐらいはできなきゃだよ。それにまだまだ、上手くなりたい。」


「そうなんですね!」


後輩の目がすごくキラキラしている…嫌な?予感がした。次の日から、その予感が的中し、連日の告白(好きだけの)になる。


後輩は、サッカー部の一年生。特待生でも、スポーツ推薦でもなく、一般入学。身長は、169センチ(お節介な友人情報)で、スポーツ選手にしては、小柄な部類だが、一般的には、普通ぐらい。


友人の情報によると、左利きで、ポジションはFW(正確には、右ウィング)、一般入学なのに、試合の終盤ジョーカーとして出場もしているらしい。


この高校は、部活にかなり力を入れている。もちろん、サッカー部も強豪校であり、その中で試合に出場とは、一軍なのか、二軍とかなのか。

父がサッカー選手ということで、私も中学までは、バスケとサッカーを両立していた為、サッカーのことは、かなりわかるので、そんなことを思考してしまう。


そんなある日、後輩の告白イベントがなぜか訪れなかった。友人たちも、あれ?後輩君は?という始末。

押してダメなら、引くってこと!?と、盛り上がる友人たちに呆れつつも、後輩のことを意識してしまう。もちろん、ちょっとだけである。


その日、日課の居残り練習の3Pシュートをしていると、足音が近づいてきた。


「練習中にすみません。サッカー部のマネージャーをしている三年の東雲です。」


「あ、はい。バスケ部二年の鳳です。なにか、用事でしょうか?」


「用事って程では、ないんですが鳳さんとお話ししたかったんです。

まずは、我がサッカー部一年の天川君が、連日押し掛けているようで、申し訳ないです!」


「いえいえ。まあ、困ってないと言ったら、嘘になりますが…大丈夫です。で、天川君今日いますか?」


「はい、います。部長や主将に昨日、鳳さんへの連日の告白の件がバレて、めちゃくちゃ叱られて、すごくしょんぼりしてますが、今日も練習、頑張ってますよ!」


「ご配慮、ありがとうございます。サッカー部の部長さん、主将さんによろしくお伝え下さい。」


「特待生なのに、めちゃくちゃ丁寧な子ですね〜!天川君が鳳さんの魅力やらを、サッカー部のみんなに力説しているんですが、天川君のお話し通りの人ですね!」


「あの後輩め…余計なことを…。」


「まあまあ。天川君、普段は真面目で大人しいんですが鳳さんのことや試合のことになると、人格変わるんですよね〜。」


「そうなんですね。サッカーしている姿、見たことないので、あまり想像できないです。」


「なら、天川君がサッカーしている姿、今度、見にきてください。それと、天川君のこと、支えて下さりありがとうございます!」


「いきなり、どうしたんですか?」


「いつか天川君にいろんなこと聴いてみて下さい。では、練習中に失礼しました。」


後輩に出会ってから、サッカー部絡みの出来事が何かと、起きるようになっていた。


サッカー部らしい人たちと廊下で、すれ違う度に、頭をペコリとされたり、食堂の食券販売機に並んでいると、サッカー部らしい人たちが譲ってくれたり、と…。


だけど、サッカー部らしい人たちは、特段冷やかすようなことはなく、いつも天川がお世話になってますスタイルである。いや、お世話してないが…。


サッカー部の部長さんや主将さんのお叱りのおかげか、連日の告白は、途切れたが、三日に一回は、今も後輩から、告白されている…。


「先輩、先輩!お疲れさまです。大好きです!」


「そっかそっか。それより、前のリーグ戦の試合、シュート外しまくったって、マネージャーの東雲先輩から、聞いたよ?」


「う!それは…そうです。相手を突き放すチャンスをことごとく外してしまい、終盤のジョーカー役を果たせなかったです…。ぎりぎり、勝てましたが…。」


「東雲先輩から、その試合の動画、見せてもらったけど、シュート前までは、いいんだよ。相変わらずのドリブルで。

だけど、シュートが正直過ぎる。キーパーを巻いたシュートやゴール上を射抜くとか、キーパーの前でワンバンさせるとか、工夫してみな?」


「はい!貴重なアドバイス、ありがとうございます!」


私のアドバイスを一生懸命聞き、ちゃんとお礼を言い、去っていく後輩。


「行っちゃったね!素直で可愛いわ〜。」


「ほんとほんと。サッカー部のみんなが後輩君を面倒みたくなる気持ちがわかる!」


と、友人たちは言うが、後輩は、可愛い?だけではない。東雲先輩と初めて話した後、何回かサッカー部の練習を見に行ったり、東雲先輩から、試合の動画を見せてもらったりした。


そこには、普段の真面目で可愛い?後輩からは、想像もつかない、プレイをする後輩がいた。

ボールを受け取った瞬間、ギアを一気にあげて相手をぶち抜けば、ギアを一気にあげてからの急減速で相手の体勢崩し、再びの急加速、といったような緩急自在変幻自在のドリブルが後輩の真骨頂。

そして、相手を抜いた後の微笑と舌をぺろっとする姿がめっちゃかっこいい…のだ。


私の父は、現役引退してからは、プロサッカーチームのコーチをしている。

それとともに、高校年代の日本代表コーチも兼任している。選手としては二流(といってもプロになったから普通にすごい)だったがコーチとしては、一流である。

その為、ダメ元で、後輩の動画を見せてアドバイスを貰えないか、お願いしたら、あっさりと承諾してくれた。さっきのアドバイスも父からの受け売りである。


なんだかんだで、後輩とは、サッカーのことを通じて話すようになり、

そして、東雲先輩がなぜか、私が後輩の支えになっている理由も判明した。


「僕、この学校のサッカー部にスポーツ推薦か特待生で、入学したかったんですが、線が細すぎるって理由で、叶わなかったんです。

それでも、ここのサッカー部のプレイスタイルに憧れて、一般入学したんです。

けど、やっぱりフィジカル的に通用しなくて、唯一自信がある得意なドリブルさえ、仕掛けることが怖くなってしまって…。もう、辞めようと思ってました。

だけど、監督やコーチやサッカー部のみんなが、せっかく入部したんだから、って言ってくれて、

まずは、フィジカル強化の基礎として、ランニングを始めました。

そのランニングしている時に、先輩のバスケを、3Pシュートを見て、競技は違うけど、先輩みたいに芯がぶれないプレイヤーになりたいって、思いました!

その後、すぐにサッカー部のみんなに先輩のようになりたいって言ったら、マネージャーが先輩のバスケの試合の動画、見せてくれて…。

もう、ヤバかったです!上手いのは、当たり前ですが、あんなに楽しそうにプレイする先輩に、だけど、試合を左右しそうな場面での、あの落ち着きと、安心感と、威圧感がある3Pシュートする姿に、完全に惚れました!」


「めっちゃ語るなあ…。嬉しいけどさ…恥ずかしい。」


「それからは、まずは、大好きなサッカーを先輩みたいに、楽しもうと思ったら、すごく気持ちが楽になったんです!

サッカー部のみんなも自主練とか居残り練習に付き合ってくれて、

監督やコーチも、フィジカル的に1試合通しては、まだまだ厳しいけど終盤のジョーカー役としては、使いたいって、言ってくれたり、先輩と出会ってからは、とても日々が楽しくなりました!それに、学校にいけば、先輩に会えるって思うと、もうめちゃくちゃ嬉しいんです!大好きです!」


「そっかそっか…私も、後輩の、天川あんたが好きだよ。」


「え…?今、なんて言いましたか!?」


「天川のドリブル姿に惚れてる。普段の素直で真面目で可愛いあんたも好きだよ。いつも好きって言ってくれて、ありがとう。」


「その…先輩!僕のドリブル姿のどの辺に惚れてるんですか!?そこ、すごく気になります!」


「相手を抜いた後の微笑と舌をぺろっと…なんでもない!ほら、帰るよ!」


「はい!一緒に帰れるなんて、夢みたいです!」


「夢じゃない。あと、お互いに好きってことは、付き合うってことだよね?」


「あ、はい!だけど、まずは、サッカー部のみんなや、監督やコーチに付き合ってよろしいか確認します!恋愛禁止では、ないと思いますが!」


「…これからの学校生活が大変になるなあ。あんた、サッカー部や私の友人たちからも、めっちゃ可愛がられてるから、いろいろ心配だわ。」


真面目で可愛い後輩に、緩急自在変幻自在のドリブルをするめっちゃかっこいい後輩に、私の心は、なんなく突破を許してしまったのだ。














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