ドッピエッタ?いや、ハットトリック?

「はあ、今日もダメだった!決まらない。」


「ボールスピードは、よかったけど、蹴るコースが甘すぎるな。なにか、迷いもあったな。」


「あんたに見つめらると…落ち着かないんだよ!」


「それは、そうだろ。PKは、駆け引きだから相手の目線や呼吸、動作を観察しなきゃだ。」


「そんなにうちのこと、見てるの!?」


「そうだが?今日も緊張し過ぎだ。呼吸も荒く、目線は、ボールを見続けている時点で、際どいコースに蹴る込むことは、できない。

もっとリラックスした状態で蹴らなきゃダメだぞ。」


「わ、わかってるよ!仕方ないでしょ!目が合うと…もうダメになる…!」


「目が合ったぐらいで、気負っていたら、決められないぞ?ちなみに、前髪、少し切ったか?」


「え…う、うん…。少し切ったよ。なんでこういうことは、すぐ気づくくせに、うちの気持ちには、気づかないんだよ…。」


「やっぱり、切ってたか。いつもより、かわいい瞳がはっきり見えてからな。最後の方は、声小さくて、聞こえなかったんだが?」


「か、かわいい!?えっと、別になんでもない!ないからね!はあ、いつになったら、決めれるんだ…。」


「俺から、PKでゴールできたら、なんでも言うことを聞くって言ったが、無茶なお願いは無理だぞ?それに俺の方は、50回防いだら、そっちがなんでも言うこと聞くんだよな?」


「そうだよ…。なんでPK勝負なんて、持ちかけたの私は!!」


「だから、最初から難しいって言ったろ?自分で言うのもあれだが、県でナンバーワンのゴールキーパーなんだぞ、俺。」


「そうだよね…。はあ…。」


「試合だと、いつも圧倒的なプレーをしているのに、なんで俺とのPKは、あんなに緊張するんだ?決められるつもりはないが、もっと際どい勝負になると思ってたぞ?」


「それには、事情があるんだよ!だって…。」


「まあ、俺も人のこと言えないがな。」


「どういう意味?」


「お前とのPKは、お前のことしか見えなくなる。お前と俺だけが世界にいるみたいな感じに。

普段のPKだと、もっと周りが見えるんだよな…。

って、どうした?顔、真っ赤だぞ?熱中症とかじゃないよな?」


「え…へ?えっ…と、だ、大丈夫だよ!」


「ほんとか?ついつい、PK談義に夢中になっちまった。やっぱり、顔、赤いな。保健室まで、連れてってやるよ。」


「ひゃあああ。お、お姫様抱っこ!?うち、重いよー!」


「おい、暴れるな。落としちゃうだろ。

安心しろって、お前軽いから大丈夫だぞ?それに試合だと、11人相手に守ってんだから、お前1人ぐらい、余裕で守ってやるよ。」


「なんなの!?めっちゃ、キュンとするんだけど!?ん?キュンとするか、これ?」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「昨日は、ごめんな?もう、大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ。昨日は、あ、ありがとう。」


「いやいや、昨日めっちゃ暑かったのに配慮してやれなくて、本当にごめんな。

母親からも、女の子はしっかり大事にしなきゃダメだと、怒られた。」


「そっか。うちのこと、大事?」


「当たり前なことを聞くな。大事に決まってる。」


「ありがとう…。さ!今日も勝負だよ!」


「おうよ。いつもみたいに絶対、止めてやるからな。」


「深呼吸っと…すううう、はあああ。

あ、あのね、うち、あんたのこと、めっちゃ大好き!いくよ!」


「……………。」


「やった!!決まった!どんなもんよ…?えっと…どうしたの?」


「俺も、お前のことめっちゃ大好きだ。ずっと前から、きっと大好きだった。」


「ふふふ。うちは、ゴールネットとあんたの心にゴール決めてしまったんだね!ドッピエッタ(2得点)だ!」


「いや、ハットトリックだ。結婚という名のゴールも、今決まった。お前を一生、守っていく。」


「…めっちゃ恥ずい…って、周りのサッカー部の男子も女子も、ドン引きしてない!?」


「これは、あれか?オウンゴールか?」


「誰がうまいこと言えって言った!?てか、うまくない!みんな、拍手しないでいいから!?」


「病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつまで、愛し慈しみと君とゴールマウスを守ることをここに誓います…?」


「ち、ちょっとちょっと、変なカンペ読ませんなー!」





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