女子生徒Aと猫と戯れる彼

私は、自分が嫌いだ。

まず、顔立ちがきつい。次に声が低い。それに成績も運動も並み…。性格は、ネガティブで、とても心配性。そのくせに不器用…。そして身長は、168センチと普通の女の子より高い…。


周りの小柄でかわいい人や長身でもスタイル抜群の人、悩みがなさそうな人(勝手なイメージ)、勉強や運動が秀でている人、活発な人、などを見て比べるとますます、自分が嫌になる。


一応、そこそこ友達はいる。けど、私がその中で中心になることはない。いわゆる、アニメやドラマでいう女子生徒A。

自分が物語の主人公になれないことも、わかっている。

マンネリ化したこの暗い人生を歩むことは、つらい。だけど、死ぬとかいう選択も絶対無理。


そんなネガティブ思考満載の私は、高校への通学路を下を向いて歩いていた。

自宅から、歩いて通学できる距離の高校に受かった(かなり頑張った)ことが人生最大の成功かもしれない、と思考する。


「にゃあ」「にゃー」「にゃ〜」


と、猫の鳴き声で私は、現実に戻される。


通学路の途中に小さな神社があり、そこには、たくさんの野良猫(地域で管理はしている模様)がいる。


私は、神社の方を見ると何十匹もいる猫の軍団の真ん中に、同じ高校の制服を着た男子がいた。


「君、めっちゃかわいいな!おお、こっちの君もかわいい!癒されるわ〜♪」


そんなことを言いながら、猫と戯れる彼をちらっと見てから、私は、再び通学路を歩く。


まさか、この出会い(面とは、向かって会っていないけど)が私を変えていくことになるとは、夢にも思わなかった。


猫と戯れる彼は、最近、隣のクラスに転校してきたんだと、隣のクラスに友達がいる友達が教えてくれた。どおりで、見かけたことがなかった訳だ。


猫と戯れる彼は、私と同じマンションの住人らしく、よく通学路で見かける。毎日のように彼は、神社の猫たちと戯れている様子だ。


それに猫と戯れる彼は、猫たちにいろんなことを話しかけていた…。


「みんな!今日もきたよ!嬉しいだろ?」


「今日、授業中居眠りしてたら、担任にすごく怒られたんだ。」


「昨日の夕食は、カレーだったんだぜ!」


なかなかの声量で、猫たちに話しかけている為に、彼の個人情報が嫌でも耳に入ってくる。


彼は、私と真逆の世界を生きるように、活発で、朗らかで、爽やかで、猫たちへの話しの内容さえも楽しい。


隣のクラスに友達がいる友達から、猫と戯れる彼がすっかりクラスで人気者になったという情報も。

それはそうだろうなあ、と猫と戯れる彼の姿を思い浮かべる。


下校中、神社から猫と戯れる彼の声が聞こえてきた。


「今日、ゴミ袋両手に抱えて、廊下歩いてたら、向こうから、歩いてきた身長が高い女の子がなにも言わずに、道を空けてくれたんだ!」


私は、ハッとする。その話しにでてくる身長が高い女の子とは、私のことだった。


「ああいうふうに、相手の状況をすぐ理解して行動できるって、すごいと君たちは思わないか?」


「にゃあにゃあ」「にゃー」


「だろ?すごいよな!」


私は、頬に熱が帯びるのを感じた…。当たり前のことをしたつもりが、すごいと言われたことが何だか、嬉しかった。

それから、神社の猫と戯れる彼の声に聞き耳をたてることが増えていった。

それに、なぜか猫と戯れる彼の話しの内容にたびたび私が登場するのだ。


「同じマンションに住んでる身長が高い女の子、住民にいつでも、しっかり挨拶しててすごいんだよ!俺なんか、眠い時とか、疲れてる時は、会釈だけだよ〜。」


「あの身長が高い女の子、歩くの速くてすごい!しかも、車や人がいなくても、信号守っててすごい!」


「俺、親にゴミ捨て頼まれたら、適当にゴミ置き場に投げちゃうんだけど、あの身長が高い女の子、周りのゴミ袋まで、整理しててすごいんだよ?」


そんな感じに、猫と戯れる彼は、私のちょっとした行動をすごいと猫たちに言ってくれる。

別に誰かに褒めて欲しいわけではない。だけど、誰もができることを褒められるのは、なんか嬉しい。


猫と戯れる彼の私への称賛は、日々、止まることがなかった…。


「チョール持ってきたよ〜♪今日、あの身長が高い女の子が食堂で、食べてる姿、見かけたんだけど、箸の使い方、めっちゃ綺麗だった!すごいよな!」


「あの身長が高い女の子、隣のクラスなんだ。今日、たまたま隣のクラスに行ったんだけど、

ずっと、友達の話しめっちゃ聴いててあげてた!相づちをしながらさ。俺だったら、自分の話しも聴いてよ!って、なる。すごいなあ。」


私、めっちゃ見られてる。


猫と戯れる彼に見られているかも、と思うと、

なぜか、私は、よく見られたいと思い始めた。


下を向いて歩いていたのが、前を向いて歩くようになり、友達の話しを聴くときも、下を見ないようになり、

背筋を意識的にしっかり伸ばしたり、話し方をはきはきしたりと…。


すると、周りの私への反応や対応が少しずつ変わっていった。


「最近、学校楽しいの?すごく、明るくなったわね〜。お母さん、暗いあなたがちょっと心配だったから、安心するわあ!」


と母親。


「最近、話すとき、目が合うよね!前は、ちゃんと聴いててくれてるってわかってたけど、目が合わないから、うちの話しつまらないのかもって心配だったんだ!

しかも、目が合うとそっちの話しも聴きたくなる不思議!」


「やっぱり、身長高いのうらやましい!最近、背筋が伸びてて、すっごいかっこいいって思うよ!」


と友達。


私は、夕日に照らされる神社を見る。

猫と戯れる彼が猫たちといる。

下を向かなくてなって、わかったことがある。

ありきたりだけど、世界は広くて綺麗だということ。


結局、私が私を貶めていた、私が私を諦めていた、私が私を私なんかと呪縛していた、そして世界を狭めていた。


猫と戯れる彼の言葉が、いろんな私を肯定してくれた。


そんな、猫と戯れる彼に私は、はきはきした声で、話しかける。


「いつも、ありがとうございます!」


「え!?俺に言った?」


「そうです!いつも、猫さんたちに、私のこと…すごいって、言ってくれてましたよね?」


「う、うん…、てか、いつも聴かれてたの!?あと、猫にさんってつけるのすごいな…。

それに最近、どんどん、素敵になっててすごい…君を見つけたのは、俺なのに他のやつらから、君の話題でるんだけど…。」


「えっ…、そ、そうなんですね…」


「俺、君のこと、ずっと前から気になってて、今は、めっちゃ好きなんだけど!」


私と彼の周りに猫たちが輪を作る…。


「私、あなたの言葉に、勇気もらいました。少しずつだけど、自分自身を認められるように、そうできるように、努力できるようになりました。

あなたに出会って、私は、変わることができたんです。」


「つまり…?どういうこと?」


「えっと…、どういうことでしょうか…。

ま、まずは、付き合う前提にお友達から、お願いします…!」


「君らしい返答だよ!うん、うん、付き合う前提ね!よろしくね!」


私も、今度から猫と戯れてみよう。


そして、私も猫と戯れる彼のすごいところを、猫さんたちに言おうかな。


周りより、なにか秀でる必要もない。


主人公になる必要もない。


だけど、女子生徒Aになる必要もない。
















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