筆跡の軌跡
私の通う、高校から少し離れた場所に、おしゃれなカフェができた。そのカフェには、本屋さんや文房具などを扱う雑貨屋さんも併設されている。
今時に珍しく、カフェの敷地内は、スマホの撮影禁止という、静かな時間をコンセプトにしている。
私は、カフェに毎週金曜日、下校後から習い事への一時間程を過ごす為に利用している。
今日も店内のお客の数は、全席の1/2ぐらいしか、埋まっていなく、落ち着いた雰囲気である。
好きな本やマンガや雑誌を見ながら、軽食を取るのがここでの日課であるが、今日は、新しいノートを買うために、併設されている文房具を扱うスペースに行く。
そこのスペースは、テニスコート半分ぐらいだが、品揃えは豊富で、目当てのノートを見つけた後も、散策する。
すると、角のテーブルにご自由にお書きください、とノート一冊と様々なボールペンが置かれていた。
ノートを広げると、まだ白紙。私は、せっかくなので、置かれているボールペンで、
「初めて、私が頂きました!」
と、文章とその横に猫のイラストを描き、その場を後にした。
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僕は、毎週水曜日のサッカーの部活後に、このしゃれたカフェに寄ってから、帰宅している。
水曜日は、母親の帰りが遅いため、夕食が遅くなる。だから、ここで軽食を取りつつ、少しゆっくりしている。
サッカーしてからということで、汗の匂いなどは、気になるが、お店に寄れるように、最低限のケアはしている。
今日は、失くしてしまったシャープペンシルの代わりを買うために、併設されている文房具スペースにも寄る。
そこのスペースの角のテーブルの上に、ご自由にお書きください、とノートとボールペンがあった。
ノートを広げると最初に「初めて、私が頂きました!」とどこか懐かしい、綺麗な文字と凛々しい猫のイラストが描かれていた。その筆跡になぜか惹かれ、
「ネコ、なんかカッコいい!いやされました!」
僕は、なんとなく、そこにコメントを書き、目当てのシャープペンシルを探しに行く。
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「ネコ、なんかカッコいい!いやされました!」
と、どこか懐かしい、丸っこい文字で書かれた筆跡に、私はなぜか惹かれ、クスッと笑みを浮かべた。
まさか、このスマホ時代にこういうやり取りがあるとは…と、嬉しくなる。
「ありがとうございます!お役に立てて、よかったです!」
と、笑顔の猫のイラストを描いた。そこから、顔も性別も年齢もわからない相手とのやり取りが始まった。私は、文章と猫のイラストを添えて。
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「ほんとにいやされた!今回のネコは、かわいい!」
「またまた、ありがとうございます!それにしても、その丸っこい文字かわいいです!」
「文字がかわいいなんて…初めて、いや二回目かな?そちらは、綺麗な文字ですね!うらやましい…」
「私もかわいい文字、書きたいです…!あなたの文字を参考にします!」
「ありがとう?なのかな。今日の部活は、つかれた!あなたのネコのイラストに毎回、いやされてます!」
「部活、お疲れ様です!なんの部活ですか?」
「サッカー部です!部活後、ここによるので、汗のにおいとか、気をつけてます!」
「サッカーなんですね!私の学校のサッカー部は、毎日、とても頑張ってます!同じクラスの男子も何人かサッカー部です。」
「あれ?もしかして同年代かな?あなたは、なにか部活してますか?」
「私は、美術同好会です!主にイラストとか描いてます!同年代かもしれないですね!」
「だから、イラストが上手なんですね!うちの学校にも美術同好会あります!もしかして、同じ学校かもしれないですね!」
「ですね!今度、サッカー部の練習、見に行こうと思ってます!あと最近は、私たちの他にも、コメントたくさん書かれてきてますね!」
[お二人のやり取りなんかいいですね♪][中学?高校?主婦の私には、まぶしいやり取りです!][ネコ、私も描きます!][店員一同、開店からずっとノートが白紙だったので、嬉しく思っております!]
「みんな、明るくいい方々ですよね!ノートがどんどんうまっていく!ぜひ、サッカー部見に行ってください!美術同好会、見に行こうかな…。」
「今日、美術同好会の教室を覗く、同じクラスのサッカー部の男の子がいました!もしかして?」
「今日、サッカー部のグランドをながめる同じクラスの女子がいました!もしかして?」
「今日も教室を覗く、同じクラスのサッカー部の男の子がいました!覗くだけで、帰ってしまいました…」
「そうなんですね!きっと、その男子は、はずかしかったのではないでしょうか…。最近、気になる子が部活を見にきてくれて、めっちゃうれしいです!」
[男の子、勇気だして!][青春だわ〜][たぶん、一緒の学校っぽい!][なんとなく、互いに互いがわかっているような…][店員一同です!あなた方の恋の行方が気になって、仕事が手につかないです!]
「今日、初めて同じクラスのサッカー部のあの男の子に話しかけてもらいました!もう少し、話してもよかったのにな。」
「そうなんですね!先週、初めて同じクラスの気になるあの子に話しかけました!いっぱい、話したかったけど、心臓がやばくてすぐ、会話終わりました…」
「そうだったんですね!きっと、その子は、また話したいと思ってますよ!私は、最近毎日のように話しかけてくれるあの男の子がとても気になってます。」
「気になる子と最近、いっぱい話せるようになりました!気になる子っていうか、大好きな子です!告白しようと思います。あの子は、何曜日の放課後が大丈夫なんだろうか。」
[おお!頑張った!][店員一同、この時を心待ちにしてました!けど、もう土曜日です…][確か男の子が水曜日、女の子が金曜日に書いていたような…][皆さんのコメント、律儀に日付と曜日を書いてますので、水金で間違いないです…]
「あたたかく、見守ってくれてる皆さん、大好きなあの子、先週インフルでした。今週は、きてます!緊張して、やばいです…」
「え、ノートがコメントでびっしりで、驚きました!私も同じクラスのサッカー部のあの男の子が大好きです!来週の木曜の放課後は、空いてます。」
「明日、木曜です!皆さん、今までありがとうございました!いい報告できるように頑張ります!」
[両思いだよ!頑張って!][二人のやり取りのおかげで、日々ドキドキでした!][店員一同、良い報告をお待ちしてます!やっと、仕事を頑張れます!][店員さん、いつでも仕事頑張って!けど、気持ちわかります!]
「昨日、大好きなあの男の子に告白して頂きました!もちろん、返事はOKです!皆さん、本当にありがとうございました!これからも、ちょくちょくノートにイラスト描きます!」
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今日から、華の高校生。だが、その初日に日直とはついてない…。私は、そう思いながら、日誌に名前を書き、もう一人の日直の彼に渡す。
日直の一人が病欠の為、代わりに今日日直になった彼に。
「綺麗な文字でうらやましい。(彼女の雰囲気に合った綺麗な字…)」
「ありがとう!そっちは、丸っこい文字でかわいい。(彼の雰囲気に合った優しさがある字…)」
「褒め言葉だと受け止めるよ!サッカー部だから、カッコいいがよかったけど!」
放課後の夕日が差し込む教室で、二人で笑う。
互いに互いの文字がなぜか頭の片隅に残っていたが、それから互いに関わることはなかった。
あのカフェができるまでは。
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